シンプルに強い一撃……!?
吸血鬼が体をばねのようにしならせて立ち上がる。
軽やかな身のこなしだ。
「いてェじゃねえか! もう許さねぇからなオイ!」
「最初からそのつもりだろ?」
吸血鬼の爪がぎちぎちと音を立て、さらに伸びていく。
「半殺しじゃなく、全殺しにしてやるよ! おらっ!」
最初の攻撃から殺す気だったと思うが……。
振り下ろされる手刀。
言葉通りの俺を真っ二つに切り裂くコース。
だが怒りに任せた攻撃は読みやすい。
半身をずらして攻撃をかわす。
そして逆手に握っていた刀を振り上げる。
吸血鬼が寝ている間に収納から取り出しておいたのだ。
「うぎゃああっ!」
吸血鬼の手首を切り裂き、激しく血しぶきが噴き出す。
手首を押さえてうずくまる吸血鬼。
俺はさらに追撃。相手のスキを見逃すほどやさしくはない。
刀を両手に持ち替えて、上から斬りつける。
肩口から胸にざっくりと刀傷が刻まれ、血が噴き出す。
浅い。
思いのほか体が硬いのだ。
しかし傷口がもりあがり、ふさがっていく。
男が胸を押さえる。
手の傷はもうふさがっている。
突然現れた刀を目にして男が言う。
「ぐ……お前……異能者か!?」
「お前は異常者だけどな!」
胸の傷もふさがったらしく、もう血は流れていない。
やはりタフだ。
吸血鬼が地を蹴る。
両手を広げて突っ込んでくる。
俺は大きく横に跳んでかわす。
それだけじゃ足りない。かわしきれない。
床に手をついて側転。
突進をかわす。
バネを利かせて跳びあがり、そのまま壁に着地。
間髪いれずに壁を蹴って跳ぶ。
大きく刀を振りかぶる――
「うりゃあっ!」
「ちっ!」
吸血鬼が腕を上げて防御体勢を取る。
鋭い爪が刀の峰を受け止める。
吸血鬼が力を込め、俺を押し返そうとする。
だが、渾身の一撃に乗せた【フルスイング】のノックバック効果は、ガードした腕を押し返す。
吸血鬼は後ろに吹き飛びながらも、踏ん張って後退を止める。
む、持ちこたえられたか!
「こんなもんかぁ! くだらねー能力だな! 結局頼れるのは単純な力! パワーなんだよ!」
男が笑う。
さっき斬りつけたダメージはもうないようだ。
たしかに、シンプルなパワーとタフネスは厄介だ。
だが、再生しようが限界はあるはず。
無限の耐久力などありえない。
男が再び突進の態勢を取る。
このまま斬り合っていても長引きそうだ。
人がやってくるかもしれない。
自制心を失った吸血鬼が、おとなしく引き下がるとは思えない。
どうする?
人に見られるリスクがある街中ではあまり使いたくないが、【分身の術】を使うか?
それともリンの魔法攻撃に賭けるか?
車のエンジン音が聞こえる。
タイヤを滑らせながら、こちらへ突っ込んでくる。
公儀隠密の車だ!
さらに加速して吸血鬼へと突っ込んでいく!
「なっ――!?」
ヘッドライトに照らされた吸血鬼がとっさに振り返る。
だが反応する余裕はない。
どん――!
鈍い音を立てて車が吸血鬼をはね飛ばす。
勢いよく吹き飛ばされ、吸血鬼はアスファルトの上をごろごろと転がる。
うわぁ……もろにはね飛ばしたな!
ドヤ顔のトウコが車から降り立つ。
サタケさんもいる。
「店長、お待たせっ! ヒーロー登場っス!」
ヒーローは車ではねたりしないと思うよ!?
えげつない攻撃……!
しかし効果は抜群だ!
倒れた吸血鬼は路上でびくびくと痙攣している。
俺はやや驚きながらトウコとサタケさんに言う。
「お、おう。いいところに来てくれたな!」
「クロウさん! 奴を確保して移動するぞ!」
サタケさんが吸血鬼へと走っていく。
吸血鬼が起き上がろうと手をついている。
だが立てない。口から血を吐いている。
「う……がはっ……!?」
「動くな! おとなしくしろ!」
サタケさんが体重をかけて吸血鬼の動きを止める。
あっというまに手錠で手を拘束。
さらに足に紐をかけて手際よく縛り上げてしまう。
男はもがいているが、拘束を外せない。
「確保! 車に乗せるぞ! 手伝ってくれ!」
「ああ!」
俺とサタケさんは動けない吸血鬼を車に乗せる。
リンはあっけにとられている。
トウコが手招きする。
「リン姉! はやくー!」
「え? は、はい!」
俺たちを乗せ、車はすぐに発車する。
車はすぐに人気のない路上から走り去った。
車中で暴れる吸血鬼をサタケさんが紐でさらに締め上げる。
口に布を詰め、声も出せない状態だ。
サタケさんが言う。
「お前に黙秘権はない! 洗いざらい吐いてもらうぞ! げほっ!」
あれ……?
思ってた決着とは違うけど、吸血鬼を確保したぞ!




