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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
五章 本業は公儀隠密で!

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絡まれ上手と正義マン ~リターンズ~

 俺はイヤホン越しにリンの危機を知る。

 全力で街を駆け抜ける。


 男がリンを壁に押し付け、胸元へ腕を伸ばしている!

 ギリギリ間に合った!


 俺は男の腕をつかむ。


「おい、そこらへんにしておけよ!」

「なんだお前!? 食事の邪魔してんじゃねーぞ!」


 ホスト風の男がガラの悪い声を上げる。

 さっきまでの軽薄な猫なで声とはまるで違う。


 男が腕を振りほどこうとするが、そうはさせない。

 さらに力を込める。



 つい出てきてしまったが、正体を知られるわけにはいかない。


「俺か? 俺は通りすがりの――」

「ゼンジさん! どうして……?」


 リンが驚いた、それでいて喜んだ顔で俺の名を呼ぶ。


 おおう!

 早くも設定に矛盾が!?


「なんなんだ? この女の知り合いかてめぇ!」


 やれやれ……オトリ作戦は失敗か。

 方向修正もムリだな。


「通りすがりの――彼氏だ! 乱暴はやめろ!」


 微妙なセリフになっちゃったね!



 リンが俺の後ろに隠れる。

 なんか、前にもこんなことがあったな。


 リンはすぐに絡まれる。

 その魅力は悪い虫ばかり引き寄せてしまう。



 男が怒りに顔をゆがませる。


「カレシぃ? あぁめんどくせえ! そんなんどうでもいいんだよ!」

「ど、どうでもよくありません!」


 いや……いまは彼氏とか、それどころじゃないんだけど!?


「お前みたいなうまそうな女、最初っから食うつもりに決まってんだろ! そっちの男にも顔を見られたし、お前らはもう終わりだよ!」


 赤い目と鋭い牙。人間離れしたその姿。


 人気(ひとけ)のない路地とはいえ、街中だぞ!?

 なんて自制心(じせいしん)のない奴!


 こっちも戦うつもりはなかったのに……!


「いやいや、お前が勝手に正体を現したんじゃねーか!」

「うるせえっ!」


 男がわめくと細身だった体が大きくなっていく。

 服がはちきれんばかりに膨れ上がる。


 俺の腕を振りほどこうと男が腕を振る。

 さっきよりずっと力が強い。


「おっ? ……リン、さがれ!」

「はいっ!」


 リンは俺から離れて後ろへ下がる。

 男の腕を放して俺は跳びすざる。



 吸血鬼が言う。


「せっかく楽しい楽しいパーティーに誘ってやったのによォー!」

「せっかくのお誘いだが、辞退させてもらう!」


「んなら、ここがパーティー会場だ! お前らは皿に並べられる血袋(ちぶくろ)なんだよォ! この場で料理してやるぜ!」

「それも断る!」



 男の顔面に青筋が浮かび上がり、牙が大きく伸びる。


 手の爪は鋭く長く伸び、凶器のように鋭い。

 筋骨隆々としたその姿はもはや人間とは呼べないバケモノだ。


「死ねっ!」


 男が腕を振る。

 俺は体をひねる。


 首を切り裂くつもりだったようだが、俺はなんとか身をかわした。

 鋭い爪が空を割く音が裏路地に響く。


「うりゃっ!」


 俺は身をかわしながら側面へ回り込み、脇腹へ拳を打ち込む。


 手ごたえはある。だが……硬い。

 筋肉が分厚いのだ。


「効かねえな! お前ら貧弱(ひんじゃく)な人間なんざ、俺たちのエサなんだよ!」


 吸血鬼が振り向きながら横なぎに爪を振るう。

 大柄な体に似合わず動きは速い。


 今の俺にステータス補正はない。

 ここはダンジョンの外だからスキルも力を失っている。

 使えるスキルは限られる。


 吸血鬼の増強された筋力。その力を乗せて繰り出された一撃。

 食らえば無事ではすまない。


 でもまあ、食らわなきゃいいだけの話。


 食らったらヤバいのはいつものことだ。

 俺に防御的なステータスやスキルはない。


「当たらねえな! お前の単調な攻撃なんざ、止まって見えるぜ!」


 俺は屈みこむようにして攻撃を潜り抜ける。


 そして足の甲を鉄板入りの安全靴で踏みつける。

 それを踏み込みの動作にしてアゴを掌底でカチ上げる。


「うげっ!?」


 アゴへの一撃で吸血鬼がのけぞる。

 俺は流れる動作で喉元へ手を回し、足を払う。


 吸血鬼は縦に回転するようにして頭から固いアスファルトに倒れ込む。


「がふっ!」


 衝撃でむせるような声を出している吸血鬼。

 さらに追撃。


 安全靴が脇腹にめり込む。


 つま先の硬い先芯(さきしん)は筋肉などものともしない。

 肋骨をへし折り、男の内臓へダメージを与える。


「うおおっ!」

「おっと!」


 倒れたままの吸血鬼が、がむしゃらに腕を振る。

 それを避けて俺は背後へ跳ぶ。



 リンが頬を紅潮させて言う。


「す、すごいです! ダンジョンの外なのに……!」


「作戦変更だ。コイツを締め上げて情報を吐かせる。リンも準備だけはしておいてくれ!」

「はい!」


 もちろん、魔法の準備だ。

 リンの【火魔法】は外でも使えるだけのスキルレベルがある。


「ぶっ放すのは最後の手段だ。ここは俺に任せてくれ!」

「はいっ!」


 街中で火魔法は目立ちすぎる。

 誰かに見られると追放対象になってしまう。それは避けたい。


 その点、俺なら問題ない!


 俺の術は良くも悪くも地味である。

 見てわかる(たぐい)じゃあない。


 【体術】や【回避】は最低限だが機能する。

 そもそも体に染みついた技術や戦闘経験は消えない。


 ただ力が強いだけの相手なら、なんてことはない。



 前にリンをチンピラから守ったときはケンカを避けようとした。

 チンピラ相手とはいえ暴力で解決するわけにはいかない。


 だがコイツは人外の吸血鬼。法律の(さば)きなど埒外(らちがい)の存在。

 ぶちのめしてもかまわない。


 ……かまわない?

 違う。ぶちのめさないと気がすまないのだ!


 少し冷静になって自覚したが、俺は頭に来ている。

 ムカついているんだ!


 オトリ作戦だから危険は承知していた。

 任務だと理解している。


 だけどやっぱり、リンが脅されるところを見れば冷静ではいらない。


 今日の俺はぜんぜん忍べていない。

 黙って見ているなんてできないからな!

第11回ネット小説大賞 受賞ならず! 残念!

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― 新着の感想 ―
[一言] 残念… ついでに全然通りすがりじゃなかった彼氏w
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