事件は会議室で聞いている!?
噛みつき魔が立ち寄った、いかがわしいバー。
そこで働く店員は同僚の存在を忘れていた。
認識阻害の影響とみていいだろう。
消えた店員は事件に巻き込まれたと考えられる。
通信ログを調べたところ、ほかにも数人がこの場所で行方をくらましている。
サタケさんが続ける。
「ごほん。店に入った人たちの通信ログは途切れて、大半はそのまま戻っていない」
御庭が補足する。
「この時刻に大規模な通信障害は起きていなかったことは確認済だよ」
ふむ……。
現実的なネットワーク障害ではないと。
つまり――
「――バーの中だけ通信が途絶えたってことは……」
「ダンジョン領域のせいですねー?」
「これは事件っス!」
ダンジョン領域内では電子機器――通信は使えなくなる。
サタケさんが言う。
「店内には何の痕跡もなかった。遺留品、血痕、死体。そういうものは残らない。ダンジョンが関係していると踏んで調査を始めた」
普通のダンジョンは一般人や異能者には見えないし、入れない。
サタケさんはダンジョン保持者ではない。
「そういえばダンジョンがあるかをどう判別するんだ?」
「あっ! ダンジョンは普通の人には見えませんよねー」
たとえば異能者の犬塚さんはリンの部屋のトイレが使える。
トイレはダンジョンの入口になっているので、俺たちはトイレに入れない。
普通の人や異能者にとっては、ダンジョンの入口は見えないし触れない。
ダンジョン保持者しかダンジョンへは入れない。
しかし、例外はある。
サタケさんが言う。
「悪性ダンジョンなら俺のような普通の人間にも見える。それを調べるんだ」
「あー、悪性は見えるんスね!」
「そうだ。げほっ……」
サタケさんが目で合図し、エドガワ君があとを続ける。
「その……店員さんを脅して……じゃなくてご協力いただいて、店内を調べました」
「机や棚を全部開けましたけど、なにもありませんでしたぁ」
ハルコさんがげっそりした顔で言う。
あやしい場所を調べて、悪性ダンジョンがないかを調べる。
地味な作業だなあ……。
「ふーむ。悪性ダンジョンが発生したけど、そのあと誰かが対処したってことになるのか?」
対処しなかった悪性ダンジョンは成長を続け、パージされて消える。
今回、店は無事だ。パージは起こっていない。
「てことは事件解決っスか? ちぇー」
トウコがガッカリしたような顔をする。
「解決したんならいいだろ! ガッカリするな!」
サタケさんが言う。
「いや、解決していない。そのバーに悪性ダンジョンはなかった。そこで俺たちは行方不明になった人たちの行動履歴をたどった」
ハルコさんが興奮した様子で言う。
「そこでもやっぱり失踪事件があったんですぅ! すごくないですかぁ!?」
失踪事件をたどったら別の失踪事件だと?
「おお……? バーの前にも失踪事件があったってことか?」
「そうだ。被害者……つまり客のうち数人が別の店に出入りしていた。その店でも通信の遮断と行方不明者が出ていたんだ」
トウコが身を乗り出す。
「おおーっ! 連続連続失踪事件っス!」
なんだかすでに事件が迷宮入りしている……!
どれだけ事件が続いているんだ、これ?
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