連続噛みつき事件発生!? 犯人はまさか!?
「クロウ君たちは噛みつき魔の事件を知ってるかい?」
「いや、知らないな」
最近はダンジョンに潜ってばかりでニュースを追えていないんだよな。
リンも首を振っている。
「私も聞いたことありません」
トウコがどや顔で言い放つ。
「ズバリ犯人は吸血鬼っス! 知らんけどー!」
この流れだと犯人の目星はついてしまうな。
吸血鬼は実在するし、実際に戦いもした。
なら、犯人はどう考えても吸血鬼だろ!
御庭が言う。
「関係している可能性は高い。まずは事件について説明させてもらえるかな?」
「ああ、頼む」
聞こうじゃないか。
話を聞く前に決めつけてもしょうがないからな。
ナギさんがリモコンを操作して、プロジェクターを起動する。
御庭が言う。
「これはテレビでも報道されているんだけどね。ごく普通の生活をしていた会社員が、突然暴れ出して同僚に噛みつく。そういう事件が起きている。一件じゃなくて複数。ごく短い期間にこれだけ集中することは不自然だ」
スクリーンに様々な事件が映し出される。
――学生がクラスメイトに噛みつき、全治二週間のケガを負わせる。
――会社員が同僚の耳を噛みちぎる。
そうした情報がずらずらと表示されていく。
「ずいぶん多いな……」
「これでも、テレビで流れているのはごく一部なんだよ。ただの暴力事件として扱われたものは表に出ていないからね」
ちょっとした暴力事件はいちいちニュースにならない。
「事件を大きく取り上げてはいないんだな?」
「そうだね。ただ、一部のメディアでは連続噛みつき事件として注目し始めている」
「連続? 別の人物が起こした事件だろ?」
「うん。ただ、事件が立て続けに起こっているからね。話題性はある」
「全く関係のない人たちが、別々の場所で同じ様な事件を起こしているってことだな」
「そうなんだよ、クロウ君。しかも彼らは暴力的な人物ではないし、犯罪歴もないんだ」
リンが眉をひそめる。
「こわいですね……」
「大人しいあの人が……ってやつっスね!」
人が人に噛みつくなんてニュースはめったに見ない。
めずらしい話だし、ニュースになるのはわかる。
まてよ? テレビで放送された?
「なあ御庭。例の薬……吸血鬼の血液が関係しているんだろ? だとしたら認識阻害で事件にならないんじゃないか?」
「うん。ところがそうはならない。事件を起こしているのは人間だからだ。異能やダンジョンは関係ない」
「うぇ!? どういうことっスか!?」
「あれ? 吸血鬼さんが起こした事件ですよね?」
異能やダンジョンの存在がバレると認識阻害が起きる。
見間違いと思ったり、記憶が消えたりして事件は発覚しないはずだ。
吸血鬼が事件を起こしたなら、そうなるはずだが……。
ん……。
そういうことか!
「つまり、事件を起こしているのは普通の人間なのか?」
御庭が大きくうなずく。
「そうなんだよ、クロウ君! あくまでも普通の人間が起こした事件なんだ。異能や吸血鬼は表に出ていない。だから認識阻害は働かないんだ!」
リンとトウコもうなずく。
「そうなんですねー!」
「へー!」
例えば魔法で火事を起こしたとする。
魔法を放つ姿を見られたら認識阻害の対象になる。
しかし家が燃えるところを見られても、これはただの火事だ。
赤いカプセルが原因だったとしても、起きた出来事は暴力事件にすぎない。
キバオのようにムキムキに変身したのなら話は違ってくるが……。
御庭が言う。
「これから事件の映像を流すよ。通行人が撮影した映像だ。刺激が強いから気を付けてほしい」
「ああ。わかった」
まずは、スクリーンに生々しいケガの写真が映し出された。
リンが小さく叫び声をあげる。
「きゃっ……!」
ギュッと目をつぶってしまった。
無理もない。
こういうのは普通のニュースではボカされて見れないな……。
お茶の間に流れたら大問題になる。
ネット上の情報を集めたのか、個人の端末から手に入れたものか……。
続いて動画が映し出される。
暴れる会社員を周囲の人が止めようとしている。
だが暴れて手が付けられない様子だ。
襲われた人は耳を手で押さえてうずくまっている。
流れた血が服を赤く染めていて、なかなか凄惨な映像だ。
トウコが言う。
「うぇー! 痛そうっ! ちぎれてるっス!」
俺は映像をじっくりと観察する。
犯人はひどく興奮した状態だが見た目は普通だ。
ショッピングセンター事件のキバオのように体が変化したわけじゃない。
ふむ。
たしかにこれなら、ただの暴力事件だな。
リンはまだ目をぎゅっと閉じている。
「うう……。ま、まだ映ってますか!? 終わったら教えてください……!」
「御庭、生々しい映像は飛ばしてもらえるか?」
「そうしよう! すまないね、リン君!」
リンは青ざめた顔で首を振っている。
「い、いえ……大丈夫です」
スクリーンの映像を消し、御庭が続ける。
「さて、これらの事件は都市部に集中している。全国どこでも起きているわけじゃない」
「ふむ……」
「加害者の行動履歴を洗ってみた。その結果、何人かは同じ場所にいたことがわかっている」
「ハカセが調べたのか?」
「うん、そうだよ。彼らは何度か繁華街に出入りしていた。そこで調査チームに現地を調査してもらったんだ」
「お、サタケさんたちか?」
「うん。そこでサタケ君たちが見つけたのが、例の薬だったってわけさ!」
なるほど。
赤いカプセルが事件に関係しているってことだな!?
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