ダンジョン攻略はやめられない!
リヒトさんはもうすぐ大規模な攻略に出るらしい。
その前に一つくらいは質問できる。
なにを聞こうか。
リンやトウコのことか?
公儀隠密のことを聞いてみるか?
まてよ……?
みんなの名前を出して大丈夫なのか?
いや、リヒトさんなら問題ないだろう。
いまさら疑う気はない。
すぐ出かけそうな文面だったので、あまり待たせられない。
二人と相談する時間はなさそうだ。
「ゼンジさん、書いちゃってください!」
「店長! 早く早くっ!」
「急かすな! ええと……」
あまり考えずに書いてしまおう!
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現在の名称:ブラッククロウ@オトナシリン、アソトウコ、シモダ、御庭、大河、犬塚。知っている名前ありますか?
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もう確定した。
あとは返事を待つのみだ。
トウコが俺が入力した内容をのぞき込む。
「シモダさんて! そんなん知るわけないっス!」
「まあ、とりあえず名前を挙げてみただけだからな」
「ゼンジさんは、リヒトさんがこのアパートを知っているか確かめたいんですね?」
「ああ。俺のアパートへ来たことがあれば、名前くらいは知っているかもしれない」
もちろん、あちらの俺がブログ上で伝えた可能性は少ないだろう。
普通に考えたらご近所さんの名前なんて出さないし。
リヒトさんは俺を探せなかったと言っていた。
おそらくアパートにも来てもいない。
でも、もし俺を探しにアパートに来たことがあったとしたら?
会えなかっただけかもしれない。
それならシモダさんを知っている可能性はゼロじゃあないよな?
「そうですね。リヒトさんがゼンジさんを探しに来ていたら、シモダさんとお話したかもしれません」
「表札を見たかもな」
「うぇ? そんなんで名前覚えてるってことっスか?」
「本命はリンとトウコの名前を知っているかだ。他は反応があればラッキーって感じだな」
他はオマケである。
時間がなかったので思いついた名前を挙げてみた。
苗字だけじゃ伝わらないかもしれないが……。
「お、返事が来たぞ!」
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差出人:リヒト
件名:ご質問の答え
本文:
どのお名前も存じ上げません。
ブラッククロウさんの友人でしょうか。
少なくともクロウさんのお話に出たことはありません。
あとで仲間にも確認してみます。
では出発します。
お互い攻略がんばりましょう!
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短い文面だ。
どの名前にも反応なしか……。
御庭のような珍しい苗字でも思い当たらなかったようだ。
「うーむ。誰も知らないのか……」
「トウコちゃんと私のこともご存じないんですねー?」
さすがに二人のことは知っているんじゃないかと思っていた。
「向こうの俺は二人のことを話していないのかな?」
リンがうなずく。
「そうかもしれませんね。ゼンジさんは慎重だから、名前を出さないんじゃないですか?」
「店長は、あたし達の話をしたんスか?」
向こうの俺じゃなくて、俺自身が話したかどうか?
話していない。
なんなら自分の話すらあまりしていないくらいだ。
鉄壁の情報リテラシー!
忍んでいるぜ!
「自分のことしか話していない」
「じゃあ、あっちのあたし達のことはわかんないっスね!」
「残念だが、そうなるな」
「あちらのゼンジさんがどんな人かも、新しいことはわかりませんでしたね」
俺と同じ印象ってことなら、そう違いはないんだろう。
「おっと、あとでもう一度名前を変えなきゃな! 個人情報の露出は短くしないと!」
「細かーっ! 誰も見てないっスよ!」
「さすがゼンジさん。マジメですね!」
ちゃんとしておかないとね!
「遠征って、ガッツリ攻略するんスかねー」
「俺たちは日帰りで攻略しているけど、いずれはダンジョンで寝泊まりする必要があるかもな」
「そうですねー。広いダンジョンだと途中で帰れないですよね」
トウコがぐっと親指を立てる。
「いいっスね! ダンジョンお泊り会っ!」
「そんな軽いノリじゃねーだろ!」
「でも、きっと楽しいですよー」
まあそうだ。楽しいだろうな!
「草原ならキャンプ感覚でいけそうだけど、洞窟だとガチの探検家みたいになってくるよな……」
「あたしのダンジョンで寝るのはおススメしないっス!」
ゾンビダンジョンで寝るだなんて、とんでもない!
「お部屋は豪華ですが、ちょっとイヤですねー」
「すごくイヤだぞ! 目を閉じたら二度と起きられる気がしない!」
部屋が豪華って……。
まあ、貴族の館みたいだけど、それはプラス要素じゃないし!
リンが小さなガッツポーズを作る。
「リヒトさんも攻略を頑張っているみたいです。私たちもがんばりましょう!」
「そうだな! 俺たちもこの調子で二十階層をクリアするぞ!」
「管理者権限ゲットっスね!」
ダンジョン攻略に近道はない。
コツコツと力をつけ、問題を乗り越えていくしかない。
リヒトさんも今頃は遠征に出発しただろう。
遠く離れていても、どこか心強い気持ちになれる。
――いつかお会いできる日を願っています!
リヒトさんはそう言っていた。
いずれは会えるということだ。
その日に向けて、俺たちは力を蓄える。
まずは管理者権限だ。
リヒトさんはなにかを頼みたいと言っていた。
メッセージ機能が正式に解禁されれば、詳しい話が聞けるだろう。
危険を伴う依頼になりそうだ。
だが頼まれなくてもダンジョン攻略は続けていく。
損得や義務でやってるわけじゃあない。
これは俺の趣味だからな!
ダンジョン攻略は単純に楽しい。
リンとトウコと一緒なら楽しさは三倍だ!
「なにニヤニヤしてんスか、店長ーっ!」
「いや、毎日が楽しいと思ってさ」
「私もゼンジさんとトウコちゃんと一緒に居るだけでしあわせです!」
俺たちはわけもなく笑いあう。
戦いはときに厳しいこともある。
だけど嫌だとは思わない。
ダンジョン攻略はやめられないね!
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