VSボス戦! 統率者はゴブリンリーダーで!
「ウゴォァー!」
統率者ゴブリンが手斧を振り回しながら走り出す。
狙いはリンとトウコだ!
二人はまだ体勢が整っていない!
「来るぞ! 立て!」
俺はすでに走り出している。
リンとトウコの横を通り過ぎ、敵前へ!
手斧が振り下ろされる。
その手首へと狙いを定め――
「――ファストスラッシュ!」
「ウォァアッ――!」
硬い手ごたえ。手斧と刀が打ち合って火花を散らせる。
手首を切り裂くはずだった刀がはじかれる。
防御しやがった……!
弾かれた刀を引き戻しながら、さらに一撃――
だが【危険察知】がぴりぴりと危機感を発している。
目の端に赤く――炎が映る。
魔法だ!
とっさに地を蹴って跳躍。
足元を炎が通り過ぎていく。
空中を蹴って、きりもみ回転しながら刀を振る。
「フルスイングっ!」
「ウォァッ!」
統率者は手斧で刀の峰を防ごうとする。
再び武器が打ち合い、火花が散る。
だが結果は違う!
発生したノックバック効果が手斧を跳ね上げ、吹き飛ばす!
統率者は後ろへバランスを崩す。
それでも倒れずに踏みとどまる。
「くそ、倒れないか! もう一発だ!」
俺は床に着地し、すぐさま足元に反発力を発生させて加速。
スキだらけの喉元へ刀を狙う。
「ファスト――」
「――フゴアッ!」
そこへ、盾を構えた戦士ゴブリンが割り込む。
刀の切っ先は統率者に届かず、盾の表面を滑る。
「ちいっ!」
俺は盾を蹴って距離を取り、さらにバック転。
呪術師ゴブリンが俺に杖を向けている。
口を開き、詠唱じみた言葉を発する。
「ゴブウェウェ――ウゲェ!?」
その口の中にクナイが突き刺さる。
魔法は不発!
「よし、命中!」と自律分身。
「ナイスっ!」と俺。
リンが立ち上がり、統率者に手を向ける。
「ファイアボールっ!」
大きな火球が放たれる。
盾を構えたゴブリンが立ちふさがり、火球を受け止める。
盾で止めても、炎の燃焼は防げない。
当たりさえすれば燃やすことができる!
しかし――火球はあらぬ方向へと弾かれてしまう。
リンの火魔法を受けても盾は燃えていない。
戦士ゴブリンが構えた盾の表面が、ぼんやりと発光している。
リンが驚きの声をもらす。
「あ、あれっ? どうして……!?」
「なにかの防御スキルだ! 別の奴を狙え! リーダーだ!」
「はいっ!」
リンは次の魔法の準備を始める。
トウコがショットガンを呪術師ゴブリンへ向け、引き金を引く。
「うらあっ! ピアスショットォ!」
呪術師が杖を掲げ、なにかを呟く。
杖の先が発光する。
「ゴブ……ゲフッ!」
しかし呪術師は血を吐いてむせる。
言葉を発せず、詠唱が中断される。
魔法はまたも不発!
さっきの攻撃で口が傷ついていたようだな!
散弾の雨が呪術師ゴブリンへと突き刺さる。
貫通効果を帯びた散弾が呪術師を塵に変える。
「ナイス!」
「っしゃー! 燃やしてくれたお礼っス!」
これで一匹減った!
トウコがガッツポーズを決めて笑う。
そこへ統率者ゴブリンが突撃する。
その動きは予想外なほどに機敏!
「トウコちゃん!? あぶないっ!」
「あわっ!」
トウコが背後へ跳ぶ。緊急回避だ。
いつもなら、これで避けられていたはずだ。
――だが、統率者はそれを追ってさらに踏み込む。
「ウギッ!」
統率者ゴブリンが、トウコをめがけて手斧が振りおろす。
「っとわぁっ!?」
トウコはとっさに銃でその一撃を防ぐ。
ショットガンがひしゃげて床に転がり、塵となって消える。
「ウゴアァ!」
再び手斧が振り上げられる。
手斧がうっすらと発光し、加速してトウコを襲う。
まずい! 何かスキルが発動している!
俺は【入れ替えの術】の狙いをつける――
――だがトウコは回避行動を取っている。
ダメだ! 動いている相手に術はかけられない!
「や、やばっ――!」
トウコが両手を上げて防御する。
だが、生身で斧は防げない。
振り下ろされた手斧が嫌な音を立てる。
金属がこすれるような耳障りな音。
「うおっ……つぅ!?」と自律分身。
トウコの前に自律分身が割り込み、盾トンファーで手斧を受け止めた。
しかし防ぎきれず、盾トンファーがひしゃげてしまったようだ。
自律分身が苦痛に顔をゆがめる。
攻撃を受けた腕から血がしたたっている。
それでも自律分身はひるまない。
決死の表情で逆の腕で突きをくり出す。
「でやあーっ!」と自律分身。
「アガァッ!?」
トンファーの突きが統率者の顔面に突き刺さる。
前歯が砕けて吹き飛んでいく。
統率者は顔面を手で押さえて後ろへ下がる。
トウコが自律分身に向けて言う。
「助かったっス! 二号……腕が!」
「まだだ! 敵が残っている! 油断するな!」と自律分身。
トウコはホルスターから拳銃を抜いて構える。
「りょ、リョーカイっス!」
攻撃を受けた腕はだらりと下げられ、血が流れている。
おそらく折れている。
自律分身はポーションの栓を口で抜いて、一気に飲み下す。
骨折程度なら治るはずだ!
にしても、やってくれたな!
ふつふつと怒りがこみ上げる。
自律分身のケガは他人事ではない。
まさしく自分事だ。
意識共有するとき、あの痛みの一部を味わうことになる。
こいつは許せん――!
俺が刀を構えて斬りかかろうとしたところで、リンが言う。
「よくも……よくもゼンジさんにひどいことをっ! 燃えちゃえぇぇ!」
リンが突き出した腕に炎が渦巻く。
過度な魔力があふれ出して、腕を燃え上がらせる。
「ファイア……ラァァァンスっ!」
リンの腕から極太の火の槍――いや、炎の濁流がほとばしる。
盾ゴブリンがあわてて盾を構え、統率者ゴブリンの前に立ちふさがる。
「フゴォ!」
その表面が発光し、何らかの防御スキルが発動する。
先ほど火球を弾いたスキルだ!
炎の槍が着弾し、その軌道がそらされる。
盾の表面でそらされた炎の槍が、洞窟の壁面に赤々と線を描く。
「うぅ……! も、燃えちゃえぇーっ!」
リンが叫ぶ。手からは炎がほとばしり続ける。
炎は途切れない。
「フ、グググ……!」
ゴブリンの盾が安定を失ってぶるぶると震える。
力比べに負けたかのように、盾が跳ね上げられる。
そこへ炎の濁流が襲いかかる。
戦士ゴブリンと統率者ゴブリンは、あっというまに炎に呑まれて消える。
炎はなおも止まらない。
もう、二体のゴブリンの姿は視認できない。
確認は後だ!
それよりも――
「――リン、もういい! 腕が燃えるぞ!」
俺は魔法を放ち続けているリンを制止する。
「は……はい」
リンがぼんやりとした顔で腕をおろす。
白い腕から、ぶすぶすと煙が上がっている。
スーツが燃え尽きて、肩のあたりまで素肌が露出している。
見れば、ところどころ火傷を負っているな……。
自律分身が統率者ゴブリンが立っていたあたりを確認している。
「敵は倒した! 魔石を確認したぞ!」と自律分身。
「他に敵もいないっス! てか、リン姉。大丈夫っスか!?」
トウコがリンに駆け寄る。
「うん……だいじょうぶ。ありがとー」
「よし、とりあえず全員無事だな! おつかれ!」
戦闘終了!
十五階層のボス、討伐成功だ!




