VSボス戦! ゴブリンは集団戦で!
通路の先からゴブリンたちのわめき声が聞こえる。
「ブアォ!」
ひときわ大きな声が響くと、ぴたりと声が止む。
「急に静かになったっス!」
「妙だな……?」
「なんか、足音がするっス! あのへん!」
トウコが指さしたあたりを見る。
誰もいない。
いや――意識を集中してみると、ぼんやりと人型の姿が見える。
「リン! あのあたりをシステムさんで索敵してくれ!」
「はい! ……いました。ゴブリンさんです!」
俺はトビクナイを放つ。
「うりゃっ!」
「ギヤッ!」
胸元にクナイが突き立ったゴブリンが倒れる。
斥候だ。【隠密】で隠れていたんだ!
「他にもいないか索敵してくれ!」
「はいっ!」
「りょ!」
斥候が隠れていたあたりに目を走らせる。
【隠密】を使っている前提で探せば……いるいる!
岩陰に、壁のくぼみの暗がりに……ゴブリン達がひそんでいる!
「上にもいたっス!」
「あんなところに横穴があったのか!」
トウコが天井付近にショットガンを向ける。
こちらに向けてなにかを投げようと振りかぶっている!
ゴブリンが手を振りおろすより前に、トウコが引き金を引く。
銃口が火を噴き、散弾をまき散らす。
散弾が岩壁にあたって派手な音を立てる。
穴だらけになったゴブリンがぐらりと倒れる。
「ファイアボールっ!」
リンが放った火球が隠れていたゴブリンに着弾する。
「ギャァァ!」
ゴブリンが燃え上がる。その炎が暗がりを明るく照らす。
そこには――
「うげーっ! うようよいるっス!」
武器を構えたゴブリンがこちらの様子をうかがっている。
「気をつけろ! いつものゴブリンと違う!」
「――ブオァアッ!」
俺の声をかき消すように、さっきの声が叫ぶ。
この声――ゴブリンのボスか!?
まるで呼応するかのように、ゴブリン達が鬨の声を上げる。
「アギャァー!」
「ゴブァァー!」
まさか、ゴブリン達に指示を出している……?
ゴブリンの統率者のような個体がいるのか!?
「来るぞ! 迎え撃て!」
叫び声をあげて、無数のゴブリンがやってくる。
今度は姿を隠していない。
粗末な武器を構えて、一直線にやってくる!
俺は分身を展開して守りを固める。
リンとトウコがそれぞれに応戦する。
「止まってくださいっ! ファイアウォールっ!」
「チャージショットーっ! うらうらっ! ピアスショットっ!」
燃え盛る炎の壁が現れて、ゴブリンの足を止めさせる。
炎越しに光をまとったチャージショットが敵を薙ぎ払う。
続けて連射された散弾が雨のように降り注ぎ、ゴブリンを撃ち抜いていく。
「ウギッ……!」
後続のゴブリンたちがひるんで立ち止まる。
だが、次々と後続が押しよせてくる。
後ろから押されて先頭のゴブリンが炎に突っ込む。
「ギャァァ!」
焼かれる仲間を見て、さすがにゴブリン達の動きが止まる。
そこへ再び、奥から統率ゴブリンの怒声が響く。
有無を言わさぬ迫力だ。
「ウゴァァー!」
「アギギッ!」
「アギャァァ!」
ゴブリン達が前に進む。
死に物狂いで炎を突っ切ってやってくる!
「分身! 腰だめ突撃!」
分身の一団がクナイを構えて突撃する。
相手が数で来るなら、俺も数で押す!
愚直に走ってきたゴブリンと分身がぶつかり合う。
ゴブリンが倒れ、何体かの分身も塵となって消える。
次々とゴブリンが走り込んでくる。
強さはたいしたことはない。だが、とんでもない数だ!
ならば――
「分身の術ッ! いけいけっ!」
俺はさらに分身を出し続ける。
強度よりも数を優先!
ありったけのクナイを持たせ、足りなくなったら倒された分身が落としたクナイを拾わせる。
間に合わなければ素手で突っ込ませる。
とにかくぶつかっていけ!
争いが激しくなってきた。
混戦の様相。
ゴブリンは雑に振り回した武器で同士討ちをしている。
だが分身は――判断分身は間違わない。
ゴブリンだけを狙って確実にしとめていく。
分身が肉の壁となって前線を支える。
炎が、銃弾が敵の数をけずっていく。
あっというまにゴブリンが数を減らしていく。
トウコがショットガンを装填しながら言う。
「ははっ! ちょっと数が多かったけど、やっぱり余裕っスね!」
リンが通路の先を確認しながら言う。
「もう来ないみたいですねー?」
この先には指示を出していたゴブリンがいるはずだ。
それらしき姿は確認できていない。
「油断するなよ……ん?」
背後に違和感。なにか聞こえたか……?
自律分身が叫んでいる。
「おーい! 後ろだ! ゴブリンがいるぞっ!」
「アギャギャッ!」
自律分身がクナイを投擲する。
俺たちの背後に忍び寄っていたゴブリンの背中に突き立ち、塵に変える。
だが一匹だけではない。
隠密状態のゴブリンたちが姿を現す。
俺たちの背後……通路の後方にゴブリンの一団が回り込んでいたんだ!
くそ挟まれた!
挟撃だ!
「こいつら、どこから来たんスか!?」
「横道があったのか!?」
来るときには気づかなかったが、別の通路があったのか……。
まさか……さっきの混戦は、別動隊が背後に回り込む時間をかせぐためか?
俺たちの注意を引きつけるために、わざと正面から戦いをしかけてきた……?
偶然だろうか……?
いや、戦いに偶然なんてない!
運なんて不確かな要素を計算に入れるな。
ゴブリンに戦略を立てる知能があるとは驚きだが……あるものと考える!
統率の取れたゴブリンの集団……あなどれん!




