社畜辞めました！ 忍者始めました！ 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します！～ダンジョンのある新しい生活！～

五章 本業は公儀隠密で！

現代ミリタリーは可変式軽量耐荷重装備で！？

「じゃーん！　どうっスか！？」

「おお、似合うぞ」

　トウコの装備も革ボディースーツである。

　肌が露出しない防毒仕様だ。

　暗い洞窟で使う想定なので色は黒。

　リンがうんうんとうなずく。

「いいですねー！　私のより、ゼンジさんのに似てるかなー」

「未来忍者というか現代兵士風かな？」

「シューターゲームみたいでいいっスね！」

　西部劇風ではなく現代ミリタリー風だ。

　タクティカルベルトも黒色で用意した。

　ホルスターも同様だ。

「防弾チョッキもあるっス！」

　トウコがボディースーツの上に重ね着した防具を親指で差す。

「これはプレートキャリアだ。まあ、似たようなもんだが」

「ええと……防弾チョッキとプレートキャリアはどう違うんですか？」

「防弾チョッキは自衛隊が使ってるやつだな。肩や脇腹も守っている。いわゆるボディアーマーってやつだ」

　上半身全体をカバーするわけだ。

　もちろん、ものによる。

　防弾チョッキでも古い装備品だと脇腹が守られてなかったりするらしいが……。

　ん……？

　トウコがなにやらニヤニヤしている。

　横を向いて防具のスキマを見せつけてくる。

「これは横がなくてスケスケっス！　店長はスケベっスねー！」

　ボディーアーマーを着ているから露出度はない！

　横が開いているのは別にエロ要素じゃねーし！

　いや、素肌にプレートキャリアならどうだ……？

　裸エプロン的なフェチズムがあったりなかったり……。

　いやいや、そんな目で防具を見てねーし！

　正気に戻れ！　忍べ！

「軽量化のためだ！　もともとそういう装備なんだよ！　ゲームで見たことあるだろ？」

「そーっスね！　見たことあるっス！」

　わかって言ってやがる……。

「プレートキャリアは文字通り、防弾プレートを運ぶベストみたいなものだ。胸と背中を守る板を差し込んで使う。入れてるのは防弾用のプレートじゃないけどな」

　ボディーアーマーより軽いし、動きやすい。

　これならトウコの良さ――機動力や瞬発力が活(い)きる。

「うぇ？　防弾じゃないんスか！？　それじゃコスプレっス！」

「重い板を入れれば弾も防げるぞ。一応買ってある」

　参考にするために通販で買ったのだ。

　公儀隠密のおかげで財布に余裕がある。

　ちょっとしたものなら作るより買ったほうが早い。

「あれ？　売ってるんですか？」

「ああ。日本でも防具は合法だぞ」

　国によっては所持が違法な場合もあるらしいけど。

「あるなら強いほうがいいっス！」

「重いぞ？　前後二枚入れたら五キロくらいになるかな」

　もちろん、ちゃんと使える品物を買ってある。

　しかしこれはコウモリの攻撃を防ぐには過剰である。

　トウコがいらないというように手を突き出す。

「あ、やっぱりいらないっス！」

「だよな？　今入れているプレートは革製だ。クモ織ワイヤーで補強してある。コウモリの攻撃くらい防げる」

　ワイヤー帷子(かたびら)、ボスクモの糸も使用。

　【中級忍具作成】で軽量化もかけた。

　トウコが納得したようにうなずく。

「じゃあこれで大丈夫っス！」

「わざわざ作ったんだからもうちょい感謝しろ。防弾性能はないが、防刃性能はあるし、コウモリのフン爆撃にも耐えられるはずだ」

　トウコがぺこーっという感じで頭を下げる。

「あざっース！」

「よーし！」

　リンがトウコの着たベストを指さして言う。

「よかったね、トウコちゃん！　これなら荷物もたくさん運べそうですねー」

「マガジンポーチがついてるんスね！　弾がたくさん持てそうっス！」

「モール(MOLLE)システムになっているから、好きなようにカスタマイズできるぞ」

　リンが首をかしげる。

「もーる？」

　聞きなれない用語なのは当然。

　ミリタリー用語である。

　俺だって調べなきゃ知らなかった。

「あたしもよく知らないっス！」

「前から使ってるタクティカルベルトにもついてるだろ？」

「そんなん知らないっス！」

「細いベルトみたいな輪っかだよ。マガジンポーチやダンプポーチを固定している部分だ」

　弾丸やシェルを挟むカートリッジホルダー(弾丸保持具)とは違う。

　ベルトにポーチやホルスターを固定している部分だ。

　ボタンで簡単に着脱できるし、位置も自由だ。

「あ、これっスか？　よく考えないで使ってたっス！　この輪っかみたいなベルトがモールなんスか？」

「そのパーツというより全体だな。つけたり外したりできるシステムってことだ。モジュラー、ライトウェイト、ロードキャリーイング、エクイップメント。略してモール！」

　今日から使える雑学である。

　どこで使えるかは不明だ！

「ながっ！　もじゅ……モールっスね！」

「速攻であきらめたな！　日本語だと可変式軽量耐荷重装備だ！」

　覚えてもテストには出ないけどね！

「かへんしき……モールっスね！」

「あきらめ早いぞ！」

　リンが意気込んだ顔で言う。

「可変式軽量かじゅっ……装備ですね！　えへへ」

　噛んだなリン……！

　噛んだのにやり切った風を装った！

　はにかんだ！　かわいい！

　俺は忍具作成台の上を指さす。

「最後にこれだ。全員分あるぞ」

　台の上には白く、ロール状に巻いた品物が置いてある。

　ロールの直径以外は一般的なガムテープに近い。

　かさばらないように巻く数を減らしている。

「なんスか？」

「当ててみろ。触ってもいいぞ」

　ロールの中心にはガムテープのように芯がある。

　バンドを通せば、モールシステムでトウコの装備に固定できる。

　俺のベルトにもつけている。

　軽いし、全員で持ってもいいだろう。

　現代素材をクラフトして作成した品だ。

　今回の材質は不織布だが、綿でも作れるだろう。

　これが無くても普段のダンジョン攻略に支障はないだろう。

　だが、今回は使う機会があるかもしれないと思って用意した。

　これは一般的な品物だが、クラフトして使いやすくしたものだ。

「うーん。なんでしょうか……？　やわらかいですね？」

　手触りはやわらかく、弾力がある。

「ちょっとベタベタしてるっス！」

　ある程度の接着力がある。

　さて、なんだろうね？

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