バットでキャットでボンテージ!?
リンが新衣装を身にまとっている。
トウコは目を輝かせながらリンの周りをぐるぐる回っている。
「なんスかコレ! やばっ! ラバースーツっスか!?」
「いわゆるレザースーツだ。キャットスーツと呼ばれることもある」
いつものくノ一装束と違ってノースリーブではなく、手首までカバーしている。
露出はないが、魅力的なボディラインがあらわになっている。
「すごーっ! 女スパイっス!」
トウコのテンションにリンが困惑している。
「スパイってこういう格好なのかな? 目立っちゃうんじゃ……?」
「目立つのがいいんス! ハニートラップっ!」
目立つことで情報収集するタイプ!
スパイ、忍ばない!
トウコがリンの前に回り込む。
「あー、ジッパーは前なんスね! さすが店長っ! お目が高いっ!」
「わかるか! これは譲れないポイントだな!」
そう! レザースーツは前開きがいい!
謎に盛り上がる俺たち。
リンが怪訝そうに言う。
「ええと、前のほうが着やすいからですよね?」
「うん。まあ、そうだな」
どちらかと言えば脱がしやす……脱ぎやすいからだ。
はだけて着ることもできる!
現実的なレザースーツは背面にジッパーがついているらしい。
伸縮性が悪いから背骨に沿うようにするんだとか。
リンのスーツは首元から股下までジッパーが続いている。
トウコが手をワキワキさせながらリンににじり寄る。
「リン姉、ちょっとチャックを下げてもいいっスか? いいっスね!」
「えっ!? ちょっとやめ……!」
トウコが首元のファスナーへ手を伸ばす。
リンがきわどいところで阻止する。
おしいっ!
……じゃなくて、やめろ!
困っているじゃないか!?
「もうっ! トウコちゃん!?」
「ちぇー! 今日はガードがかたいっス!」
防御力は上昇している!
「ところでゼンジさん。レザースーツはわかるんですが、どうしてキャットスーツって呼ばれるんですか?」
革製だからレザースーツ。
これはわかる。
当たり前だが猫の素材など使っていない。
猫は毛があるし、テカテカ光ってないし……。
なんでキャットスーツと呼ばれるのか?
これ、調べたけど諸説あるんだよな。
「着ると猫っぽくなるらしいんだけど……」
「着るときにヨガの猫のポーズになるんスか!? みたいっ!」
膝を床につけて背中をそらせるポーズ?
なにそれ見たい!
っていうか、そんな着かたしないだろ!?
「うーん? 普通に着れましたよー」
「だよな? 着ている状態が猫っぽいのか? そう言えなくもないが……」
ムリに寄せて考えれば猫みたいにしなやかなボディラインである。
「あの、あまりまじまじ見られると……ひゃあっ!?」
ふいに、トウコがリンの太ももに指を走らせる。
「な、なに!? くすぐったいよトウコちゃん!」
リンがびくりと飛び上がる。
あ、猫っぽい。
トウコがマジメくさった顔で言う。
「これ……ボスコウモリの革素材っスよね?」
「触っても素材なんてわからないだろ!? まあ、正解だ!」
ただ触りたいだけに一票!
ボス素材の『頑丈なコウモリの皮』を【忍具作成】で加工した品だ。
「コウモリ革ならバットスーツっスね!」
お金持ちのダークヒーローみたいになっちゃう!
あ、キャットスーツの由来はヴィランの猫女さんかもしれないな。
「ボディースーツ、ボンテージスーツ、パイロットスーツ……なんとでも呼べるけどな」
「呼び方はどーでもいいっス! 機能はどうっスか?」
「トウコちゃん、言いかたー!」
「外側はコウモリ革。裏地はクモボス素材の糸を使っている。中級忍具作成で強度も増した。とはいえ強力な攻撃に耐えられるわけじゃないから過信しないでくれ。コウモリの爆撃で穴が開かない程度だろう」
ボスコウモリの素材は比較的頑丈だ。
新素材、ボスクモの『丈夫なクモの糸』も投入している。
シルクのように滑らかな肌触り。それでいて強度もある。
さらに【中級忍具作成】で強度を強化している。
それでも、テレビゲームの装備品のような防御力には及ばない。
ゴブリンのなまくら刃物くらいなら防げるが、貫通されなくたって衝撃は通る。
キリトたちのような鋭い斬撃は防げないだろう。
防具なんてそんなもの。
ケガの程度がマシになるくらいだ。
それが重要なんだけどね!
コツコツと安全を積み上げていくのだ!
【中級忍具作成】を育てるか、もっといい素材があれば、いつかはガチガチ装備を作れるだろうか。
「でも、安心ですね! うれしいですー!」
「見た目も最高っス!」
「おう。気に入ってくれてよかったよ!」
作りがいがあるね!
まだ一つ目だ。
次の装備品も試着していこう!




