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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
五章 本業は公儀隠密で!

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切り離しても倒れても……!?

「倒れてくるぞ! 気をつけろ!」


 上半身……木の上部がゆっくりと倒れてくる。

 倒れた大木が地響きを立てて転がる。

 そしてさらさらと塵になって消えていく。


 俺は言う。


「よし、切り離せば倒せる!」

「効いたみたいですねぇ!?」


 エドガワ君がトレントの下半分を指さす。


「あっ! まだ根っこは動いてますよ!」

「へえ。人間とは急所が違うみたいだな」


 人間なら首をはねれば死ぬ。

 植物モンスターなら根か?


 トレントの根が動き、庭へとたどり着く。


 動く切り株だ。

 その幹の表面に顔が浮かび上がる。

 老婦人の顔だ。


「アア……カエッテキタ……ワタシノ……ワタシタチのニワ!」


 目からは涙のように樹液を流している。


 モンスターに変異してしまえば、もう戻れない。

 人間だったころの名残が残っているだけ。理性などない。


 それでも俺は声をかける。


「なあ……もうやめよう。ダンジョンに帰れ。そのまま消えてくれないか?」

 声をかけても無駄だとわかっている。

 それでも……。



 幹に浮かび上がった顔は怒りに似た表情を浮かべて叫ぶ。


「ワタサナイ! ニワ! ワタサナイ!」


 執着心だろうか。心残りだろうか。

 俺たちは庭など欲しくない。奪おうとなどしていない。


 やはり話は通じない。


「なにしてんだ忍者野郎! そいつはモンスターだ! 斬るしかねェ!」

「ああ、そうだな! わかってるよ! わかってるんだ!」


 わかっている。

 モンスターはモンスターだ。


 元は人間だとしても変異してしまえば話など通じない。

 変異者は敵。モンスターだ。


 悪性ダンジョンは害。倒すべき悪。

 わかっていたことだ。


 だけど、庭に帰るという目的を果たせば鎮まるかもしれないと期待した。

 悪霊が成仏するように、納得ある結末を期待したんだ。


 どうやらそうはならないようだ。

 そう甘くはない。


 変異しかけたトウコのように、救える可能性があると信じたかった。

 倒すだけが道ではないと探りたかったんだ。


 それにどうせ倒すのなら、最後に庭を見せてやりたかった。

 無意味だとしても感傷的になっているだけだとしても意味はあると信じたかった。



「オォォォ――!」


 根がすさまじい勢いで伸びて、庭に根を張っていく。

 切り株から新しい芽が出て成長を始める。



 キリトが言う。


「おい、どうすんだァ? ぶった切ればいいか!?」

「ああ、頼む!」


 キリトが刀を振り下ろす。

 その一撃は切り株を真っ二つに切り裂く。


 だが、倒せていない。塵にならない。

 なんてタフなんだ!



 御庭が敷地のへりから叫んでいる。


「クロウ君! キリト君! そろそろ切り離し(パージ)が起きる! 急ぐんだ!」

「もうか!?」


 早いな! 思っていたよりずっと早い!


 キリトは切り株をさらに斬りつける。


「んなこといっても、もうちょいなんだよォ!」



 トレントが叫ぶ。


「オォォ――ワタサナイ! モッテイク!」


 ……持っていく?


 うっ!?

 気圧が変わるような妙な感覚が俺を襲う。


 御庭が叫んでいる。


「クロウ君! 外へ出るんだ! 走れ!」

「……わかった!」


 パージが起きるのはもっとあと、領域がさらに拡大してからだと思っていた。


 エドガワ君とハルコさんはもう外へ出ている。

 キリトはトレントの切り株を斬りつけている。


 木片が飛び散り、切り株が削れていく。

 だが……トレントは倒れない。


「おい、キリト! 急げ! 外へ出るぞ!」

「くそッ! ああ、わかったよォ!」


 空気が重くなる。

 気圧が高まるように、耳鳴りが聞こえる。


 これがパージの前兆か!

 なるほど見過ごすはずがない。不吉な感覚!


 俺たちは全力で走る。

 刻一刻と、不吉な感覚は強くなっていく。


 俺とキリトはなんとか外へとたどり着く。


 そのとき、背後でなにかが起こる。

 空間に波紋が広がって揺れるような、不思議な感覚を覚える。


 振り向くと――


「おおっ! ……家が!?」


 さっきまであった家がなくなっている!?


 空地になったわけではない。

 両隣の家がくっついているのだ。


 老婦人の家などはじめからなかったかのように……。


「クロウ君。これがパージだよ。悪性ダンジョンは消えた。これで問題解決だね!」


 御庭はさわやかな笑みを俺に向けている。

 たぶん、気を使っているんだろう。


 俺はなんともいえない気持ちでうなずく。


「解決か……。ああ、そうだな」


 強大な敵を打ち倒したのとは違う。

 かわいそうな相手を救ったのとも違う。

 自分の行動が正しかったのかも、よくわからない。


 とはいえ人的被害はない。

 俺たちもキリト達も無事だ。

 近隣住民は危険があったことに気づいてもいない。


 それでよしとしよう!

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ庭が欲しいならもってけば…というベターエンド?
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