戦うしかないときもある。でも今日は違う!
木が裂ける激しい音。
早回し映像のように転送門から木の幹が現れ、太く成長していく。
床に根が張り、みるみる大木へと育っていく。
太くなった幹がワイヤーに接触する。
ナギさんの能力でワイヤーは停止している。
このワイヤーは動かない。
だが幹の成長――膨張は止まらない。
スッパリいくか!?
めきめきと木が張り裂けていく。
ワイヤーが幹に鋭い切断面を作っていく。
成長を続けたトレントの樹皮はそのままワイヤーを飲み込んでいく。
あれ?
斬れないのか……?
でもワイヤーは切れずにナギさんのもとへ続いている。
停止したワイヤーは壊れない。動かない。
しかしトレントはさらに成長していく。
「うわぁ……埋まっちゃいましたよぉ!?」
「斬れた先から成長してるのか……」
俺とハルコさんはエドガワ君の後ろから観察する。
トレントの全身がワイヤーを越えた。
切断されながらも無理やり通りやがった!
植物モンスターだから平気なのか……!?
それともヒットポイントや耐久力のたまものなのか……!
とんでもないタフネス! そして執念!
木の幹に刻まれたトレントの顔が叫ぶ。
「オォォォオオ! カエルッ!」
そこにキリトが立ちふさがる。
大上段に刀を構えて力をためている。
まだ刀の届く距離ではないが――
「お前の行き先はあの世だよォ! おらァ!」
キリトが刀を振り下ろす。
空を割いて剣が唸る。
刀はトレントに届かない。空振りだ。
だが、刀そのものを当てる攻撃じゃない。
俺も腕を切られた。飛ぶ斬撃だ。
振り下ろした剣が風を巻き起こす。
まるで暴風。風が吹き荒れる。
砂埃を舞い上げて斬撃が飛ぶ。
長い予備動作から繰り出される本気の一撃――俺に放ったものとは段違いの威力!
飛ばしていたのは斬撃じゃない。
風だ。圧縮した空気だ!
刀で斬った空気を吹き飛ばしている!
風の斬撃がトレントの胴体に炸裂する。
めしめしと音を立て、大きな傷が刻まれる。
「オォォォ――!」
遅れて吹きつけた風がトレントの巨体を揺さぶる。
葉をまき散らし、枝をへし折る。
それでもトレントは倒れない。
ただひたすらに前へ進む。
「おいおい……硬てェな!」
キリトは汗をぬぐいながら不敵な笑みを浮かべる。
トレントの枝が伸びてキリトを襲う。
キリカが前に出る。
「させないよっ!」
枝が切断されて塵となる。
やはり攻撃は見えない。
「一発で効かないんなら倒れるまで斬ってやらァ! 我慢くらべなら負けねェ!」
キリトが刀を振りかぶってタメ動作に入る。
また大技を出す気だ。
スキだらけのキリトへと、トレントの枝が鞭のように襲いかかる。
だが枝は届かずにはじき返される。
宙に浮いた大剣が盾のように攻撃を防いだのだ。
カトウが言う。
「面倒だ……。我慢比べに付き合わされる俺の身にもなってくれ!」
「それでもコウは最後まで付き合ってくれるんだろっ! そらよっと!」
はじき返された枝をキリカが切り落とす。
この三人は戦い慣れている。お互いをカバーする術を心得ているな。
トレントへのダメージは大きい。
幹も、切り落とされた枝もそのままだ。
俺は言う。
「効いているぞ! 再生しない!」
「クロウ君の読み通りだったね! ダンジョンの外、水がなければ成長は止まる!」
「くたばれ! おらァァ!」
キリトの大技がトレントを押し返す。
幹には大きな亀裂が入り、枝もへし折れてボロボロだ。
このままいけば勝てそうだ。
「カエル――ニワ――モウスコシ――!」
トレントはそれでも前に進む。
キリト達は押しとどめようと応戦する。
ダンジョンの中で戦っていたときよりもトクメツ連中の動きがいい。
たいしてトレントの動きは鈍い。
ダンジョンの外では力が弱まるからな。
それに、ワイヤーを無理やり通ったダメージがデカい。
水分も足りないのか、再生力は弱まっている。
俺は戦闘に参加していない。
というか、戦わないでもいいんじゃないかと思っている。
そんなに帰りたいなら、庭に出しちゃえばいいんじゃないか?




