ダンジョン領域の変化をはじめて体験してみた件!
転送門を出るとダンジョン領域だ。
ここは元の住人の家そのまま。
二階建て住居の一階である。
「よし、全員無事だな!」
「はい……置いていかれないでよかったです……はあはあ」
エドガワ君は息を切らしている。
最後は全力疾走だったからな。
あんなところに一人で置いていかれたら怖すぎる。
ハルコさんが言う。
「あれぇ? こんな狭いところに、あんなのが出てくるんですかぁ?」
「あ、たしかに。考えてなかったわ!」
御庭は以前、ダンジョン領域に誘い出してボスを討伐すると言っていた。
これが普段の手順のはず。
しかし俺は初めてだ。
サイズ的に無理じゃね?
トレントは大木だ。
天井ぶち抜くんじゃね!?
御庭が言う。
「大丈夫だよクロウ君。こういう場合はダンジョン領域が変化するんだ。空間が広がったり、天井が抜けたりする。モンスターが小さくなる場合もあるね」
「へえ。そういうものか」
「ボクも見たことありますよ。普通の家が迷路みたいになって……困ったなぁ」
お、流石はエドガワ先輩!
俺より公儀隠密歴が長いだけあるな。
トクメツの連中は俺たちとは離れて傷の手当をしている。
と言ってもケガしているのはキリトだけ。
やたらと包帯を巻いている。
不器用かよ、キリカ隊長さん。
そしてぜんぜん手伝わないカトウ。
転送門の前にナギさんがワイヤーを張っている。
ふむ。転送門から少し離れた位置に仕掛けるんだな。
ナギさんが言う。
「それでは、少し離れてください」
「クロウ君たちもこっちへ来たほうがいいよ」
御庭とナギさんが窓際まで下がる。
慣れた様子である。
ハルコさんが不思議そうに尋ねる。
「なんで離れるんですかぁ?」
「あれだろ? 返り血っていうか……」
返り草汁?
「うわぁ……って、あの……ボクの後ろに隠れるのやめてくれません?」
俺とハルコさんはエドガワ君の陰に隠れている。
「植物系だしグロくはないけどさ。枝とかぶつかったら痛そうだし」
「なかなか出てきませんねぇ?」
なかなかモンスターは出てこない。
まだダンジョンが変化していないからか?
「ダンジョンが変化するときってどうなるんだ?」
「どうって……ええと……難しいですね」
口下手なエドガワ君に聞いても無理か。
御庭が言う。
「そろそろ始まるよクロウ君!」
「おお、こういう感じか!」
不思議な感覚だ。
まっすぐ立っているのに足元が揺らぐ。
波打ち際に裸足で立っている感じに近いかな。
自分は動いていないのに、周囲が動くような感じ。
いや、それどころじゃ無い!
足元も動いているんだけど!?
「うわぁ……ぐらぐらして酔いそうですねぇ!?」
「なんか足元……緑色になってきました!」
建物の床がまるで腐葉土のようにふかふかしてくる。
天井がめきめきと伸びていく。
さらに、吹き抜けのように天井が高くなる。
二階があったはずだが……どうなってんだ!?
キリトが呆れたように言う。
「なんかお前らって緊張感ないよなァ」
「そうか? 結構ドキドキしてるんだけどな!」
「そういうことじゃねェ……いや、そういうトコだよ!」
「私らは死ぬ気でダンジョンに潜ってんだ。貴様らはユルい!」
キリカが指をびしっと突きつけてくる。
近いよ! 指が刺さるわ!
「そういうことか。俺は生きて帰る気だからな」
「俺たちはそういう覚悟で来ている。忍者野郎と違って、俺は逃げねェ!」
キリトは軽蔑したような眼で俺を見る。
しかし勝手な理屈だな。
「なに言ってんだお前。死ぬのは偉くないぞ!」
「んだとォ!」
前に出たから偉いわけじゃない。
戦って死んだら偉いなんてことはない。
ダサかろうが、後ろ指さされようが生きるのだ。
死んでも生きて帰る!
「生きて帰れば次も戦える。そうすりゃもっと多くの人を救えるんだよ。そのほうがいいだろ!」
「いい!」
キリトは勢いよくうなずく。
「いいのかよ!?」
「そりゃ、そのほうがいいだろ! でも選んでられねェからな!」
「まあそうだな。戦うしかないときもある。でも今日は違う。生きて帰るぞ!」
キリトがうなずく。
「おう!」
素直かよ!
御庭が言う。
「クロウ君! そろそろだよ!」
「わかった! みんな、気をつけろ!」
転送門が激しく波打っている。
そして門が膨れ上がり――
巨大な樹木が一気に膨れあがるように室内に広がっていく!
変化した領域にトレントが姿を現すぞ!
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