水を得た樹木! トレントの猛攻!?
雨は降り続けている。
今のところ雨脚が弱まる様子はない。
空にはどんよりとした雨雲が垂れ込めている。
雨のせいか、植物モンスターは活発だ。
とりわけトレントは水を得た魚……いや、水を得た樹木のような大暴れを見せている。
「ぶった斬れろォ! おらぁッ」
キリト君の斬撃。枝がはじけ飛ぶ。
だが、斬られたばかりの枝が驚くべき速度で再生する。
「オォォォォォ――! カエル! ニワ!」
新しい枝が伸びて急速に成長しているのだ。
「コウ、次よこせ!」
「どうぞ隊長!」
コウと呼ばれた長髪のカトウがキリカ隊長へ剣を渡す。
鞘に納められた刀だ。
カトウが異能で生み出した刀である。
俺たちと戦ったときは刀身だけだったが、今は柄や鞘も作っている。
柄も鞘も金属製で、布や木材は使われていない。
時折こうして新しい刀を受け取っている。
ふむ。これはなんのためだ?
「わざわざ鞘まで作っているようだな」
「うん。キリカ君の能力にはやはり鞘が必要なんだね。彼はサポート役というわけだ」
キリカは受け取った刀を腰に差して手を添える。
「そらそらっ! 斬られたい奴から前に出な!」
御庭がカトウを見て言う。
「彼の異能は刀剣を作ることみたいだね。自分の身も守れるようだ」
カトウは自分の近くに大きな一本の剣を浮かせて、敵の攻撃をしのいでいる。
自分から攻撃するような動きはない。
「あのカトウとも戦ったけど強かったぞ。五本かそれ以上は剣を出せるようだ」
カトウが自分で剣を操る場合は刀身だけを作っていた。
だが、キリカに使わせる場合は鞘も作っている。
鞘も金属製だが……刀剣ならなんでも作れるということか?
ハルコさんが頬を膨らませてカトウを指さす。
「トオル君の傷はあの人がやったんですよぉ!」
「あの……ハルコさん。そんなに睨むと……! その……もう治してもらったから大丈夫なんで。……ありがとうございますクロウさん!」
エドガワ君の傷は先ほどポーション手拭いで治療した。
もう綺麗に治っている。
「ああ。ポーションはもうないから今日はケガしないようにな」
皆に言い聞かせるように言う。
これは俺にとってもそうだ。保険はもうない。
この戦闘で新たなケガを負うことを考慮してポーションを残しておく手もあった。
だけどエドガワ君の傷は深く、出血が止まらなかったのだ。
あまり無理はさせられないし、痛々しいからな。
これ以上ケガをしないようにして、無事に帰らなくては!
御庭が言う。
「刀と鞘。それから自分を守るための剣か。まだ余裕がありそうに見えるね」
「ここだと力が弱まるんですよねぇ? 私は弱くなっちゃうのに、あの人たちズルくないですかぁ?」
ハルコさんの疑問に御庭が答える。
「異能も練習次第だよ。使い込むことである程度はダンジョン内でも力を使える。もちろん個人差があるんだけどね」
「ボクの力は狭くなるけど、基本は変りません。練習したことはないので個人差……ですね」
「いいなぁ……」
「俺のスキルは外に出ると一律で弱まるな」
「クロウ君のスキルには段階があるから、区切りもわかりやすいよね」
スキルレベルの低下は、違いが明確。
それに比べて、異能は曖昧。
そういうことか。
キリトが叫んでいる。
「おい忍者野郎! サボってんじゃねえッ! ――無視すんな!」
でも俺のほうを向いてはいない。
近くの分身に話しかけているのだ。
当たり前だが分身は反応しない。
カトウが呆れた顔で言う。
「キリト、そいつはニセモノだ」
「あァん!? どういうことだよ!」
キリトがカトウをにらむ。
カトウが後方の俺に目で訴えかけている。
ああ、説明が面倒なのね。
敵の勢いは衰えない。
分身を出しているだけじゃ、押されはじめている。
そろそろ俺も前に出るか。
だけど……近づいて大丈夫なのか?
いきなり斬られたりしない?
さっきはキリトをダンジョンに置き去りにしたけど、今は共闘する取り決めになっている。
説明が面倒だからって、ちゃんと伝えてないとか、やめてほしい。
キリトを心配する様子だったキリカ隊長にも説明してあるんだろうな……?
「じゃ、俺も前に出てくるかな。エドガワ君とハルコさんはここで退路を守ってくれ。危なくなったら外に出てもいい」
「はい……」
「がんばってくださぁい」
俺は前線へと駆けていく。




