協力体制を築こう! 交渉は難しいね!
俺は自律分身の体験を読み取った。
時間にして数秒。そう長い間ではない。
自律分身と長髪は賭けをした。
先に出てくるのがどちらかという賭けだ。
俺が先に出てきたから俺たちの主張が通ることになる。
俺は長髪に向き直る。
「……状況は理解した。俺たち公儀隠密と、あんたたちトクメツとで協力することになるな?」
一緒にダンジョンに対処するって約束だ。
「そうだ。キリトと話したのか?」
「ああ。あまり会話にはならなかったけどな」
長髪はやれやれと、ため息を吐く。
「まあ、そうだろうな。それはそうと、これを外してもらえないか?」
長髪はサングラスを指さす。
まあ、顔が見えないと話しにくいよな。
「ハルコさん。解除してやってくれ」
「えぇ? いいんですかぁ?」
「ああ。これから協力するんだから歩み寄らないとな」
「はぁい。消しましたぁ」
視界を遮るサングラスが消えた。
長髪が俺を見る。
視線は鋭い。値踏みするように俺を見ている。
それでも敵意――攻撃する気はなさそうだ。
「助かる……俺も剣を収めよう」
エドガワ君に刺さっていた剣が抜ける。
「いたっ……」
「だ、大丈夫ですかぁ?」
ハルコさんがカバンからハンカチを取り出して傷口にあてがう。
すぐに死ぬような傷ではないが治療は必要だろう。
俺は長髪に言う。
「では俺も武器を収める。――戻れ!」
構えていた刀をおろし、手に下げる。
背中の鞘には戻さない。
それと同時に、クナイを突きつけていた判断分身が俺のそばへ戻ってくる。
あえて口に出して分身に命令したのは能力を隠すためだ。
長髪の剣は床に転がったままだ。
だが……いつ動くかわからない。
警戒しておかなきゃな。
判断分身に防御を命じておく。
剣を消すか、しまうように言ってもいいが……これは見逃そう。
今は詰めるタイミングじゃない。
交渉は強気で攻めるばかりが正解ではないからな。
長髪がしみじみと言う。
「しかし……まさかこんな隠し玉があったとはね」
隠し玉とはハルコさんのことだ。
幻に隠れていたこともそうだし、サングラスもそうだ。
直接的な戦闘力はないが、サポート能力は高い。
さわれないサングラス目隠しには対処できないよな……?
俺が食らったら、どうやって切り抜けようか……。
おっと! 脱線しているな!
今は考えてる場合じゃない。
エドガワ君が長髪に言う。
「ハルコさんは足手まといなんかじゃありませんからね!」
「ああ、謝罪するよ」
長髪がハルコさんに頭を下げる。
俺は長髪に言う。
「さて、改めてあんたの所属と名前を教えてくれないか? 俺は公儀隠密……いや、特異対策課のクロウと言う」
「特異対策課だと? 俺は特異殲滅課のカトウだ」
トクメツ……特異殲滅課を略したものか。
わかるわけないし!
というか正式名称で言われても知らんし!
ハルコさんが口元に指を当てながら言う。
「あれぇ……? もしかして、私たちの親戚みたいなグループなんですかぁ?」
「特異対策課の名は聞いている。その中にも色々いるらしいが……すまないが公儀隠密は聞いたことがない」
認知度低いっ!
いや忍者だし、有名でも困るけど!
「まあ、知らなくてもいいさ。敵じゃないってことだけわかってくれ」
「ああ、わかった」
ふう……。
ようやくまとまりそうだ。
お互い秘密組織だから、相手の所属を聞いてもわからない。
不便なものだ。
今度、御庭に説明してもらおう!
まずは現状を丸く収める!
こうしている間にダンジョンでキリト君が死んだりしたら困る。
ぜったいモメるわ。
それこそ大問題になって、敵対しかねない。
一応、長髪も彼のことを心配しているようだ。
俺も少しは心配している。
本気で心配しないのは、ある種の安心感があるからだ。
戦ったからわかるが、彼は強い。そうそう負けはしないだろう。
俺は言う。
「で、ダンジョンに残してきたキリト君のことだが――」
そう言いかけたところで、玄関のドアが派手にぶち破られる。
その音に俺たちは一斉に身構える。
ピリピリとした緊張感が漂う。
おいおい! さらなる乱入者か?
これ以上の混乱はいらないんだが!?
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