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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
五章 本業は公儀隠密で!

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役立たずなんていない! 護衛とサポーターとアドバイザー!

 エドガワ君がたじろぐ。


「う、後ろ……!?」

「やはり背後が弱点か……?」


 エドガワ君の背後、壁との隙間に一本の剣が入り込んでいる。

 幻のタンスの上から、エドガワ君の背中に剣先が向いている。


 しかし剣はエドガワ君の異能に阻まれて進めない。

 能力は全周囲を守っている。

 背後は弱点ではない。


 ――しかし、これはまずい。

 ――背後に隙間ができている!

 ――銃を撃つときに無意識に前に出てしまったからだ!



 長髪の男が足元を見る。

 そして、なにかに気づいて目を見開く。


 幻のタンスと床の間から、水――ハルコさんの服から滴った雨水が漏れ出している。


「もう一人……そこに潜んでいたかっ!」


 剣がエドガワ君の背後に向けて動く。

 ハルコさんはエドガワ君の能力の範囲からはみ出している!


 剣が勢いよく放たれ、幻のタンスに向けて殺到する!



 それに驚き、息をひそめていたハルコさんが叫ぶ。


「ひゃぁぁ!?」

「は、ハルコさん――!」


 剣が一斉にハルコさんを襲う。

 幻をすり抜けて、剣が飛ぶ。


 ぱっと、血の花が咲く。


「きゃあっー!」


 だが、ハルコさんは貫かれていない。

 無事だ。



 苦しげな声を上げたのはエドガワ君だ。


「うぅっ……!」


 エドガワ君の肩から血が噴き出す。

 背後から突きつけられていた剣が刺さったのだ。


 下がるためにはそれしかなかった。

 ハルコさんはエドガワ君の能力に守られて無事だ。


「へえ……!? 最初に隠れていたのもこいつの能力か!?」


 幻が消えて、青い顔をしたハルコさんが姿を現す。


「あ……ああ! トオル君!? 私のせいで……血がぁ!?」

「だ、大丈夫です……うあっ――ぬ、抜けない!?」


 エドガワ君に突き立った剣は傷口に食い込んで離れない。


 ――先端が変形して返しになっている……!?

 ――うわ、痛そう!

 ――深く刺さることもないが、抜けもしないらしい。


 ハルコさんの顔に血しぶきがかかる。


「面倒な能力だ。足手まといがいなけりゃ当てられなかったかもな!」

「わ、私のせいで……!」


 ハルコさんがうなだれる。



 自律分身()が叫ぶ。


「足手まといなんかじゃない! 戦わなくていいと言ったが――今こそサポートを頼む!」


 (自律)の腕から血が滴る。

 壁に張り付けられて身動きもままならない。


 手も足も出ない状況……だが口は出せる!



 ハルコさんが涙目で(自律)を見る。


「さ、サポートなんて……どうやってですかぁ!?」


 長髪が(自律)の腕に刺さる剣をひねり上げる。


「黙っていろ!」


 腕に激痛が走る。

 だが(自律)は痛みをこらえて叫ぶ。


「さ……サングラスだ! さっきみたいなオシャレなやつじゃない! 前が見えないほど真っ黒なやつだ!」


「えぇ!? サングラスですかぁ……? あっ! そういうことですねぇ!?」


 ハルコさんの顔に理解の色が浮かぶ。


「なにをごちゃごちゃ言っている! 面倒だ。アンタを先に刻むか!」


 剣の一本が(自律)を向いて突きつけられる。

 そこに――


「な、なんだ……暗い……見えない!?」


 長髪がうろたえる。

 その顔には大きな黒いサングラスがかけられている。

 いや、(デコ)られている!


「光をぜんぜん通さないやつですよぉ!」


 いいぞ! ハルコさん!


 透過率ゼロ!

 UV(ユーブイ)カット百パーセント!


 これでなにも見えないはずだ!



 長髪は手で触ったり顔を振ったりしている。


「目……いや……幻なのか……!?」


 長髪が目元に手をやりサングラスをつまもうとする。


 だが幻には触れない。

 そしてズレない! 外せない!



 浮かぶ剣の狙いがあやしくなる。

 そのスキをついて、エドガワ君とハルコさんが位置を変える。


「さて、言ってやれ、エドガワ君!」

「ボクの銃が盾の外から狙ってますよ! さあ、降参してください!」


「くっ……!?」


 長髪が表情をゆがめる。


 もう充分だ。

 やけを起こして暴れられては困る。


 今はこちらがやや有利だが、争う意味はない。


 (自律)が言う。


「なあ、もう戦うのはよさないか? 面倒だろ?」

「……面倒だからといって、ダンジョンを放置することだけはできない!」


「俺たちはダンジョンを調査すると言ったが、放置するつもりはない! 人に害をなさないようにするつもりだ!」

「……」


 長髪が黙り込む。


 (自律)はさらに言う。


「退けないか? なら賭けをしよう。ダンジョンから先に出てくるのがあんたの連れだったら――俺たちが退く」

「そっちが出てきたら俺たちが退けと? ダメだ。ダンジョンを放置はできない」



「こっちが出てきたら、俺たちと一緒にダンジョンに対処する。それでどうだ?」

「ああ。わかった。はあ……とんだ面倒をしょい込んじまった……!」


 長髪がわずかに緊張を緩める。



 わずかな間。

 お互いに武器は降ろさない。

 決まずい沈黙……。



 転送門が揺らめく。


「あっ! 転送門が動いてます!」

「誰か出てきますよぉ!?」


 (自律)は祈る。

 俺ならさっさと戻ってくるはず!


「よし来い! (本体)!」


 ――記憶を読んでいる(本体)はもちろん結果を知っている。

 ――でもすまん。ちょっとスキル試したりもしてたわ!

 ――そのおかげで早く出てこれたとも言えるけどな!


 長髪も沈黙を破る。


「……キリト、頼むぜ!」


 そして――

 出てきたのは(本体)だ!


 刀を構えて油断なく周囲を見回している。


「みんな、無事か!?」

「よう(本体)……いいところに戻ったな! いつつ……」


 そういうわけで、賭けは俺たちの勝ち!

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[一言] 人に暗闇付与って目つぶしって言いません? めっちゃ役立つハルコさん…
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