役立たずなんていない! 護衛とサポーターとアドバイザー!
エドガワ君がたじろぐ。
「う、後ろ……!?」
「やはり背後が弱点か……?」
エドガワ君の背後、壁との隙間に一本の剣が入り込んでいる。
幻のタンスの上から、エドガワ君の背中に剣先が向いている。
しかし剣はエドガワ君の異能に阻まれて進めない。
能力は全周囲を守っている。
背後は弱点ではない。
――しかし、これはまずい。
――背後に隙間ができている!
――銃を撃つときに無意識に前に出てしまったからだ!
長髪の男が足元を見る。
そして、なにかに気づいて目を見開く。
幻のタンスと床の間から、水――ハルコさんの服から滴った雨水が漏れ出している。
「もう一人……そこに潜んでいたかっ!」
剣がエドガワ君の背後に向けて動く。
ハルコさんはエドガワ君の能力の範囲からはみ出している!
剣が勢いよく放たれ、幻のタンスに向けて殺到する!
それに驚き、息をひそめていたハルコさんが叫ぶ。
「ひゃぁぁ!?」
「は、ハルコさん――!」
剣が一斉にハルコさんを襲う。
幻をすり抜けて、剣が飛ぶ。
ぱっと、血の花が咲く。
「きゃあっー!」
だが、ハルコさんは貫かれていない。
無事だ。
苦しげな声を上げたのはエドガワ君だ。
「うぅっ……!」
エドガワ君の肩から血が噴き出す。
背後から突きつけられていた剣が刺さったのだ。
下がるためにはそれしかなかった。
ハルコさんはエドガワ君の能力に守られて無事だ。
「へえ……!? 最初に隠れていたのもこいつの能力か!?」
幻が消えて、青い顔をしたハルコさんが姿を現す。
「あ……ああ! トオル君!? 私のせいで……血がぁ!?」
「だ、大丈夫です……うあっ――ぬ、抜けない!?」
エドガワ君に突き立った剣は傷口に食い込んで離れない。
――先端が変形して返しになっている……!?
――うわ、痛そう!
――深く刺さることもないが、抜けもしないらしい。
ハルコさんの顔に血しぶきがかかる。
「面倒な能力だ。足手まといがいなけりゃ当てられなかったかもな!」
「わ、私のせいで……!」
ハルコさんがうなだれる。
自律分身が叫ぶ。
「足手まといなんかじゃない! 戦わなくていいと言ったが――今こそサポートを頼む!」
俺の腕から血が滴る。
壁に張り付けられて身動きもままならない。
手も足も出ない状況……だが口は出せる!
ハルコさんが涙目で俺を見る。
「さ、サポートなんて……どうやってですかぁ!?」
長髪が俺の腕に刺さる剣をひねり上げる。
「黙っていろ!」
腕に激痛が走る。
だが俺は痛みをこらえて叫ぶ。
「さ……サングラスだ! さっきみたいなオシャレなやつじゃない! 前が見えないほど真っ黒なやつだ!」
「えぇ!? サングラスですかぁ……? あっ! そういうことですねぇ!?」
ハルコさんの顔に理解の色が浮かぶ。
「なにをごちゃごちゃ言っている! 面倒だ。アンタを先に刻むか!」
剣の一本が俺を向いて突きつけられる。
そこに――
「な、なんだ……暗い……見えない!?」
長髪がうろたえる。
その顔には大きな黒いサングラスがかけられている。
いや、盛られている!
「光をぜんぜん通さないやつですよぉ!」
いいぞ! ハルコさん!
透過率ゼロ!
UVカット百パーセント!
これでなにも見えないはずだ!
長髪は手で触ったり顔を振ったりしている。
「目……いや……幻なのか……!?」
長髪が目元に手をやりサングラスをつまもうとする。
だが幻には触れない。
そしてズレない! 外せない!
浮かぶ剣の狙いがあやしくなる。
そのスキをついて、エドガワ君とハルコさんが位置を変える。
「さて、言ってやれ、エドガワ君!」
「ボクの銃が盾の外から狙ってますよ! さあ、降参してください!」
「くっ……!?」
長髪が表情をゆがめる。
もう充分だ。
やけを起こして暴れられては困る。
今はこちらがやや有利だが、争う意味はない。
俺が言う。
「なあ、もう戦うのはよさないか? 面倒だろ?」
「……面倒だからといって、ダンジョンを放置することだけはできない!」
「俺たちはダンジョンを調査すると言ったが、放置するつもりはない! 人に害をなさないようにするつもりだ!」
「……」
長髪が黙り込む。
俺はさらに言う。
「退けないか? なら賭けをしよう。ダンジョンから先に出てくるのがあんたの連れだったら――俺たちが退く」
「そっちが出てきたら俺たちが退けと? ダメだ。ダンジョンを放置はできない」
「こっちが出てきたら、俺たちと一緒にダンジョンに対処する。それでどうだ?」
「ああ。わかった。はあ……とんだ面倒をしょい込んじまった……!」
長髪がわずかに緊張を緩める。
わずかな間。
お互いに武器は降ろさない。
決まずい沈黙……。
転送門が揺らめく。
「あっ! 転送門が動いてます!」
「誰か出てきますよぉ!?」
俺は祈る。
俺ならさっさと戻ってくるはず!
「よし来い! 俺!」
――記憶を読んでいる俺はもちろん結果を知っている。
――でもすまん。ちょっとスキル試したりもしてたわ!
――そのおかげで早く出てこれたとも言えるけどな!
長髪も沈黙を破る。
「……キリト、頼むぜ!」
そして――
出てきたのは俺だ!
刀を構えて油断なく周囲を見回している。
「みんな、無事か!?」
「よう俺……いいところに戻ったな! いつつ……」
そういうわけで、賭けは俺たちの勝ち!
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