VS 浮遊剣の長髪男 その2
長髪の男は銃を突きつけられても恐れていない。
冷静……というか面倒くさそうな態度を取り続けている。
銃弾が当たらない自信がある?
あるいは防御的な能力を持っているのか……?
俺の手に武器はない。
本体がダンジョンに飛び込むとき、武器を置いていく余裕はなかった。
俺を出すだけで精一杯だったのだ。
「とにかく話し合おう! 俺たちは――」
「キリトが出てこない。さっさと助けなきゃいけないし、アンタらと話すのも飽きてきた。寝ていてもらう!」
「ああ、くそ!」
二本の剣が俺に向けて飛んでくる。
一本はなんとかかわす。
だが二本目が――
「うあっ!?」
二本目の剣が俺の腕を刺し貫き、そのまま壁に縫い付ける。
俺は激痛で動けない。
――フィードバックを受ける俺の痛みは小さい
――自律分身が意識をフィードバックする際に調整してくれたおかげだ。
「まず一人。次は――!」
長髪がエドガワ君に剣を飛ばす。
「うわあーっ!」
エドガワ君が発砲する。
だが、弾丸は大きくそれて壁に小さな穴をあける。
さらに発砲。
金属音がして、弾丸が防がれる。
俺の位置からではよく見えない。
長髪の前に現れたのは――盾か?
いや……幅広の剣だ!
記憶を読む俺は、長髪の能力を分析する。
――剣が変化したんだ。
――細く鋭い剣から、幅が広く長い剣に!
――斬馬刀や巨大な肉切り包丁を思わせる頑丈なものだ。
――銃弾をはじくだけの厚みがある。
そして、記憶の続きは――
エドガワ君がたじろぐ。
「うう……!?」
エドガワ君の目の前に二本の剣が浮かんでいる。
さらに増えていく。
五本の剣が別の角度からエドガワ君を周囲から斬りつけていく。
「へえ? 斬っても突いても通らないな。防御壁のような能力か……?」
剣がエドガワ君の顔の前でドリルのように回転する。
エドガワ君の息が乱れる。
「はぁ……はぁはぁ」
「落ち着け、エドガワ君――うおぉ!?」
剣が動いて、俺の腕をえぐる。
激しい痛みで動けない。
抜き取ろうにも剣は壁に深く突き刺さっている。
両刃の剣を手でつかんで引き抜くわけにもいかない。
長髪はエドガワ君への攻撃を続ける。
「ふうむ。貫通できないな。ただの防御膜ではなく、そういう効果の異能か?」
そう言いながら長髪は左右に移動している。
盾にした剣の陰からエドガワ君の様子をうかがっている。
「うううっ!」
エドガワ君が発砲する。
盾にしている剣がそれを防ぐ。耳障りな金属音。
「集中が乱れたな? さっきより剣が近づいたぞ。やはりアンタは素人だ。戦い慣れしていない!」
エドガワ君のすぐ近くまで剣が迫っている。
と言うよりも、エドガワ君が自ら近づいているんだ。
最初より前に出てしまっている。
銃で狙うために体を動かした。
恐怖や興奮にかられて、無意識に動いてしまったのだ。
今の俺には投げる武器はない。
術も使えない。
出せるのは口だけだ。
「エドガワ君! 訓練を思い出せ! 冷静に……うぐっ」
「あ……はい!」
エドガワ君が銃を持つ手をひっこめる。
ややたどたどしく、ハイポジションの構え。
長髪は剣をいろいろな角度で動かしてエドガワ君を狙う。
「――剣を押したりはじいたりはできないようだな? 銃を使うってことは、その能力で攻撃はできない。壁を背にしているってことは、前しか守れないのか? どれ……」
剣がぱっと周囲に散る。
そしてエドガワ君の背面を狙うように動く。
頭上や壁ギリギリから背中を狙うコース。
エドガワ君は頭を動かしているが、すべての剣を同時に見ることはできない。
見えない位置からの攻撃は相当な恐怖を与えている。
背後だけでなく、エドガワ君の目前に回転する刃が迫る。
エドガワ君が喉を詰まらせたような声を出す。
「ひっ……!」
「どんな能力にも弱点がある。強い能力ほど消耗も激しい。維持するのが辛くなってきたんじゃないか……? ほら、後ろからも俺の刃が近付いているぞ!」
――これはフェイク。ゆさぶりだ!
――実際にはエドガワ君の能力は破られていない。
――記憶を読んでいる俺は冷静に見ていられる。
――だが当事者のエドガワ君や自律分身は冷静ではいられない。
この長髪の男……駆け引きがうまいぞ!
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