記憶のフィードバック! VS 浮遊剣の長髪男
「ああ。んじゃ解除!」
俺は自律分身の記憶を読み取る。
【自律分身の術】【意識共有】による意識のフィードバックだ。
俺がキリトをダンジョンに蹴り込んで引き離している間の、自律分身の体験である――
三本の浮遊剣が俺を襲う。
避けきれないと判断して、転送門に飛び込む俺。
自分で自分を客観的に見るというのは不思議なものだ。
回避のタイミングはかなりギリギリだったな。
廊下から長髪の声が聞こえる。
「ちぃ……ダンジョンに逃げ込まれたか。追うのも面倒だ。ま、キリトに任せとけばいいか。そもそも、隊長を待てばよかったんだ。先走りやがって……」
記憶を読みながら俺は考える。
――長髪はフルスイングで廊下に吹き飛ばしたんだったな。
――ダメージは与えられていないようだ。
エドガワ君が俺を見る。
「ど、どうすれば……?」
俺は指を唇に当てて首を振る。
長髪は俺がここにいることを知らない。
ダンジョンに入ったと思っているはず。
長髪が部屋の入口前で立ち止まる気配。
まだ部屋に入ってこない。
警戒しているのか?
長髪がエドガワ君に向けて言う。
「面倒だけどアンタを倒してキリトのアホを助けなきゃな。邪魔しないんなら見逃してやる。俺が部屋に入る前に、外へ出てくれないか?」
エドガワ君がちらりと掃き出し窓を見る。
そして首を振る。
「……それはできません!」
エドガワ君の背後にはハルコさんが隠れている。
離れるわけにはいかない。
エドガワ君のすぐ前に剣が浮かんで突きつけられている。
能力で接近を拒んでいるが、押し返せるわけではない。
男が部屋を出ても剣は残っている。
多少距離が離れても剣は浮いたまま維持できるってことだ。
となれば、見えない位置からでも操作できる可能性が高い。
エドガワ君は銃を抜いて構えている。
練習したハイポジションの構えだ。
「へえ? どうしても邪魔するのか? それならちょっと痛い目をみてもらうことになる――」
長髪が部屋に入ってくる。
自律分身は死角から掴みかかる。
長髪はやせ型で、力は強くない。
さしたる抵抗もなく壁に押し付けることができた。
「うっ――アンタは!?」
俺を見て、長髪が驚く。
「動くな! お前たちは何者だ? 俺たちはダンジョン狩りとやらじゃない! 公儀隠密の者だ!」
「公儀隠密だと? ――知らんな!」
「クロウさん! あぶないっ!」
風を切る音。
廊下から剣が飛んでくる!
「――っ!」
俺は飛び退いてそれをかわす。
剣が俺と長髪の間に浮かんで、こちらを向いて止まる。
「……アンタ、テレポーターか? いや、さっきの攻撃は別の能力だった。ダンジョン使い……だな?」
ふむ。長髪は冷静なタイプだ。
ダンジョンに消えたはずの俺がここに居る。
つまり瞬間移動したと考えたわけだ。
しかし他の術――【分身の術】と【フルスイング】も見せている。
これで異能者ではないと気付かれたか……?
俺はとぼける。
「……さてな? そういうあんたは、念動力使いか?」
「自分の能力をペラペラしゃべる奴はいない」
「おたがいさまだな! それじゃあ、所属は? 吸血鬼か? 旧家の関係者か?」
男の表情がピクリと動く。
だがどういう思いがあるかは読めない。
「アンタは俺が言ったことを信じるのか? 俺なら信じない。アンタが何者かにも興味はない。任務をこなして終わり。そうすればシンプルで面倒はない」
「任務だと? 目的はなんだ?」
「ダンジョンを潰す以外に何がある? そっちは違うのか?」
「俺たちは調査に来た」
「調査だって? なにを企んでる……? いや、聞くのも面倒だな……」
長髪から会話を打ち切る気配がただよう。
記憶を読みながら俺は考える。
――これはキリトと似た反応だ。
――ダンジョン使いだとわかると敵と認定された。
――ダンジョンを潰すことを優先する勢力なのか……?
――公儀隠密を知らないようだが、目的は近い相手だと言える
――争う必要はないはずだ。とはいえ、すでにお互いが退けない状況にある。
エドガワ君が震える手で長髪に銃を向ける。
「う、動くと撃ちますよ!?」
――構えがウィーバースタンスに変わっている。
――威嚇しようと思うと無意識に手が前に出るよな。
「お前は素人だ。人を撃ったことはないな? 黙っていろ」
「……うう!」
エドガワ君の銃口がぶれる。銃を持つ手がふるえている。
これでは撃っても当たらない。
銃を撃つ練習をしても、人を殺す心構えは身につかない。
モンスターと人間は違う。
俺だって人間を斬る気にはなれない。
それには相当の覚悟が必要だ。
いまは武器もないし、なるべく話し合いで解決したいところだが――
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