雨時々曇り! いったん出直そう!
雨が止む。
すると木の化け物――トレントも動きを止めた。
裂けた口も閉じ、普通の木にしか見えない。
「雨が降っている間だけ活発になるようだな」
「しばらくは動かない……んですかね?」
雨はどれくらいの周期で降るんだろう?
雨が降ってないときは動かないという確証もないが……。
……情報が足りない。
俺は首を振る。
「わからん。とりあえず外に出て御庭に連絡するぞ」
「やっと出られるんですねぇ!」
ハルコさんが両手を上げて喜ぶ。
異能者にとって、ダンジョンは居心地が悪いかな?
……バケモノのいる場所なんて、誰だって嫌か。
「で、サタケさんを呼んで、間に合うならポーションで治療する。その前にヤツがここまでたどり着くなら――倒す!」
「倒すって、どうやるんですかぁ?」
火で焼くか、斧で切り倒すか……。
デカい敵は戦いにくいんだよなぁ。
「方法はやってみて考える!」
「そんなぁ……」
ハルコさんは肩を落とす。
「あ、ハルコさんに戦えとは言わないから安心してくれ。御庭に戦えるメンバーを集めてもらう」
リンとトウコを呼ぼう。
そろそろ学校も終わるだろうし、終わってなくても緊急招集だ。
エドガワ君が言う。
「スナバさんが来てくれたら頼もしいですね」
「そうだな。多いほどいい。ここは住宅街のど真ん中だから、あんなデカブツが出てきたらマズイ!」
「あのぉー。やっぱり倒すしかないんですかぁ?」
「そうだな。帰りたいと言ってはいたが……あれは考えてしゃべってるのとは違うだろうしなぁ……」
庭、と言っていた。これは住んでいた家の庭のことだろう。
よく手入れされた素敵な庭だ。
飾られた写真では、夫と仲良く映っていた。
思い出の場所なんだろうな。
「もう駄目だと思います……。ダンジョンに取り込まれた変異者が対話に応じたケースは……聞いたことがありません」
トウコはダンジョンに呑まれかけた。
いわば変異者のなりかけ。ちゃんと意思疎通できる人間だ。
まったく別物。特例だ。
ショッピングセンターで出くわした暴食と呼ばれる男。
あれは……どうなんだろう?
変異者にしては人間的だったが……。
人間にしては禍々しい気配をまとっていた。
あの樹木モンスターは大鬼に近い雰囲気だと感じた。
会話が成り立つかどうか――
「試してみたいと思うが……。それも出たとこ勝負だな!」
「そんなぁ……」
簡単な答えなんてない。
そもそも解決方法があるとも限らないからな。
「とにかく一度出よう! 御庭に連絡して人を呼ぶ! 対策はそれから考える!」
「はぁい」
「はい……急ぎましょう!」
俺たちは転送門から外へ出る。
――視界が暗転する。
再び室内。
ダンジョン領域内である。
俺たちの服は雨に濡れたままで、しずくが滴っている。
俺たちのダンジョンなら、外に出たら水気や汚れは消えるんだが……。
ここが悪性化したダンジョン領域だからか?
転送門はモンスターも通り抜けられるし、ダンジョン内の雨水も外に出れるってことか……。
俺はあたりを確認する。
室内にモンスターの姿はない。
やはり敵は湧かないようだな。
「着替えが欲しいところだな」
「領域の外に出れば水気も消えると思います」
「だったら、一回みんなで出ませんかぁ?」
俺は口元に指をあてて小声で言う。
「しっ――しずかに!」
なにか聞こえる。
複数の気配!
玄関のドアノブが回る音!
エドガワ君とハルコさんも息を殺している。
ハルコさんが何事かと目で訴えてくる。
俺にもわからない。
ダンジョン領域内に入り込んでくるってことは――普通の相手ではない。
「モンスターがいねぇな。すでに先客がいるかもしれねぇ!」
「例のダンジョン狩りかもしれないな。はあ、面倒だ……」
声は玄関のほうから聞こえてくる。
どちらも若い男性の声。聞き覚えはない。
足音も二人分。
まだ俺たちがいる部屋からは見えない。
足音はこちらに近づいてきている。
俺はちらりと窓に目を走らせる。
壁から床まで続く掃き出し窓だ。すぐ外は庭になっている。
窓から逃げるか……?
その場合、窓を開ける音でバレる。
なりふり構わず脱出するならそれでもいい。
ダンジョンに戻る?
これはない。外部に連絡ができなくなる。
助けが呼べない。
入ってきた連中が敵か味方かはわからない。
だが――公儀隠密のメンバーでないことは確かだ。
公儀隠密なら俺たちがここにいると知っている。
知っていれば先客という言葉は使わない。
この家に来るのが初めてで、公儀隠密ではない。
ダンジョンやモンスターを恐れない相手……。
味方だとは考えにくい!
さて、どうしたものか!?
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