もう付き合っちゃえよ!?
転送門の周辺は安全だ。
今のところ敵の姿はない。
「さて、周辺を探索するぞ!」
ハルコさんは涙目で言う。
「うう……ウソでしょぉ? ノーメイクの顔、見られちゃったのおぉ?」
「だ、大丈夫ですよ!」
「大丈夫じゃないですよぉ! 服も安物なのバレちゃったし!」
「服もヘンじゃないですよ! いつもより気楽というか……」
「あー! やっぱり安い子だと思ってるんですねぇ!?」
「違いますって!」
エドガワ君は降参するように手をあげる。
ハルコさんはエドガワ君に掴みかかろうとして失敗する。
なんだこの二人。
もう付き合っちゃえよ!
俺は少し声を張る。
「おーい。そろそろ周辺を探索するぞ!」
「あ、はい。すいません……」
「あぁ……はぁい……はぁー」
ハルコさんのため息が濃い。
エドガワ君にかけた幻を解除すると、ハルコさんの服やメイクは元通りになった。
外ではわからなかったが、出せる幻の数には上限があるのかもしれない。
ダンジョン内での能力は自分をデコれる程度しかないってことみたいだ。
壁のように大きな幻も出せなかったしな。
エドガワ君の能力も弱まって、範囲が狭くなっている。
それでも触れないことに変わりはないから、自身を守ることはできるだろう。
俺は周囲を見回す。
背の高い木、ツタのような植物。
下草は濃く、足元が見えづらい。
少しジメジメしていて空気が重く感じる。
「敵の気配はないな。俺のダンジョンならゴブリンの一匹や二匹は現れてるころだぞ」
このダンジョンには鳥や虫のような生き物もいないようだ。
耳を澄ませてもモンスターらしき声は……ないな。
聞こえてくるのは木々がこすれあう、ざわざわとした音ばかりだ。
「ぜんぜん来ませんねぇ? ほんとにアタリだったとかぁ?」
「だといいんですけど、静かすぎて逆に怖いですね」
「うむ……」
いや、これって悪性ダンジョンじゃなくて安全ダンジョンじゃないの?
転送門を離れて、少し進んでみるか。
「じゃあ、分身の後をついて歩くぞ」
俺たちは石畳の上に立っている。
分身を先に歩かせて、一段低くなっている地面に降り立つ。
足の裏に柔らかい土の感触。
ふかふかしていて歩きやすい。
分身、俺、エドガワ君、ハルコさん、分身の順だ。
二人はおっかなびっくりついてくる。
分身が草むらをかき分けて進む。
草が分身の姿を隠す。
草をかき分けると、分身の姿がない。
「むっ!? 分身がやられた!? 下がれ!」
俺は素早くバックステップする。
「て、敵ですか!?」
「えぇ? 来たんですかぁ!?」
刀を前に構えて待つ――が、敵の姿は見えない。
草木が揺れるばかり。
さっきの分身は低コスト長時間の調整で出していたので耐久力はない。
今度は耐久力を高めた分身を出す。
ゆっくりと、先ほど分身がやられたあたりへ進ませる。
草が揺れる。
分身が足を止める。
いや、止められた!?
だが敵の姿は見えない。
足元だ!
なにかが分身の足に食いついている!
「罠……いや、草だ! おいおい……トラバサミみたいな花に足首まで食いつかれてるぞ……!」
「な、なんですかこの植物は! み、みたことないですよ!」
分身の足をガジガジとかじっているのは、花弁にびっしりと鋭い牙を生やした植物だった!




