探索! 緑のダンジョン!
ふわりとした感覚。
視界が切り替わる。
暗い室内に慣れた目を光が射る。
エドガワ君が目を細めながら言う。
「ま、まぶしいですね」
「ここは……公園? ……植物園ですかぁ?」
屋外だ。
日が差していて暖かい。
背の高い植物が多く、遠くは見えない。
見える範囲にモンスターの姿はない。
俺たちが立っているのは遺跡風の石畳の上だ。
建物はなくて土台だけ。
地面より一段高くなっている。
四隅に柱があるが、天井はない。
この土台の外は植物がもさもさと生えている。
「ジャングルみたいなだな。さて――とりあえず分身の術!」
二体の分身を出し、二人の護衛を命じる。
エドガワ君はほっと息を吐く。
「あ、ありがとうございます。これで安心ですね」
「エドガワ君は自分で身を守れるだろ? あ、ここだと異能が弱まるのか?」
スキルはダンジョン外だと弱まる。
異能はダンジョン内だと弱まる。
エドガワ君の異能はどの程度機能するんだ?
「あ、試すのは初めてで……どうなんでしょう?」
「んじゃ、試してみるか!」
俺はエドガワ君に触れようと手を伸ばす。
「およそ三十センチか」
「けっこう弱くなっちゃいますね……」
強度や持続力も気になるが、それはあと。
「ハルコさんはどうだ?」
「私もですかぁ?」
そりゃ、ハルコさんも異能者なんだから、同じだぞ。
「試してみてくれ。柱と柱の間に壁を出せるか?」
ハルコさんは柱に手を向ける。
すぐにあきらめた。
「うーん! ムリムリ! できないですぅ」
「壁は無理か。どこまでできるか試してみてくれ」
「えーと……じゃあ、トオル君に帽子をかぶせて……」
「ええっ!?」
なぜかイヤそうにするエドガワ君。
かなり時間がかかったものの、帽子が完成した。
やたらとオシャレなハイブランド品である。
ハルコさんは満足げにうなずく。
「似合いますよぉ。トオル君は磨けば光るタイプだと思うんですぅ」
「そ、そうですか。あれ、これ、取れないんですね」
エドガワ君は頭に手をやるが、帽子を外せない。
「幻だから触れないのか。そもそもエドガワ君の能力で防げないのか?」
「えぇー? なんで防ごうとするんですかぁ?」
ハルコさんが心外そうに言う。
「いや、ただの興味だよ」
「防ごうと思ってませんでしたが……試しますか?」
「ああ、やってくれ」
エドガワ君がやや神妙な顔で言う。
「どうぞ。ハルコさん」
「じゃあ、やりますよぉー」
エドガワ君にオシャレなサングラスがかけられる。
「あれ、防げませんね」
「実在しない幻だから、近づいていることにならないのか?」
物理じゃない。魔法に近い。
でも火魔法の炎は防げてたんだよなぁ。
難しい能力だ。
「でも似合ってますよぉー」
「たしかに似合うな」
「あ、このサングラス、ちゃんと見えるんですね」
エドガワ君が顔を動かしてもサングラスはズレない。
帽子もズレない。
風の強い日も安心!
あれ? 能力の限界か?
ハルコさんのブランドカバンの様子がおかしいぞ。
幻が薄くなって、安物のカバンがのぞいている。
自分の盛りを維持する能力が弱まってるみたいだ。
新しい幻を出すと古いものから消えていくのかな?
「ハルコさん。そのへんで……」
しかしハルコさんはエドガワ君を飾り立てるので夢中だ。
「あと、洋服も今シーズンの――」
「あの……ハルコさん? 服が……」
服が……消えるのか!?
いやいや、さすがにそんなわけない。
服を着て、その上に幻を盛っているはず……だよな?
よかった。服は着ている!
だが少しずつ柄や質感が消えている。
さらにメッキがはがれるように、ブランド服が安物に変わっていく。
ハルコさんは気づかない。
「いいですねぇ! あと靴を変えれば完成です!」
「あ、もう大丈夫です……ハルコさん!?」
エドガワ君の靴が高級品に変わる。
なんということでしょう!
草食男子大学生みたいなエドガワ君が、ファッション誌に載っていそうなイケメンファッションに!?
そしてその分、ハルコさんのまとう幻が減る。
俺は後ろを向きながら言う。
「ハルコさん中止! 自分の幻が解けてるぞ!」
「え? えぇえ!? ちょ、見ないでぇー!」
ハルコさんが顔を隠してその場にかがみこむような気配。
エドガワ君が小声で言う。
「あれ? ハルコさん……こっちのほうが……」
「な、なに見てるんですかぁー!?」
俺は見てないよ!
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