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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
五章 本業は公儀隠密で!

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探索! 緑の館!

「ダンジョン領域に入りましたね……!」

「ですねぇ……?」


 玄関をくぐって家の中へ。

 館の内部は薄暗い。


 外壁は緑のつたに覆われていたが、内部は普通の建物だ。


「おじゃましまーす!」


 俺はあえて大声を上げる。

 住人が無事だとは思えないが、いるなら出てきてほしい。


 モンスターがいるなら、出口の近いここで見つければ対処しやすい。


「やっぱり返事はありませんね」

「本当に誰もいないんでしょうかぁ?」


「とりあえず――分身の術! これで二階を調べる!」


 個人宅なので、それほど広くはない。


 二階に判断分身を向かわせる。

 壁に手をついて進むように指示。ドアがあれば開ける。


 使える条件は二つなので、ただ移動するだけである。

 敵がいても戦わないし、攻撃されても防がない。


 索敵が目的なので、これでいい。


「さて、一階にも同様に――分身の術!」


 俺は各部屋に分身を放つ。

 それを見てエドガワ君が言う。


「なんていうか……ボクたちは要らないんじゃあ……?」

「ん? そんなことないぞ。分身はダンジョンの入口を見つけられないし」


 ハルコさんが小さく手をあげ、上目づかいにたずねてくる。


「えっとぉ……ここもショッピングセンターみたいな場所なんですよねぇ? なんにも襲ってきませんけどぉ?」

「今のところモンスターの気配はないな。物音もないし、姿も見せない。エドガワ君、こういうことは多いのか?」


「あ、はい。危険度の低いダンジョンでは、敵の数も少なくて弱いらしいですよ。たいてい、少しはいるんですが……」

「そうか。まったくいない場合もありえるか?」


 俺たちの中で公儀隠密歴が長いのはエドガワ君である。

 ダンジョン領域の調査はエドガワ君が詳しい。


 エドガワ君は自信なさそうに言う。


「ボクはこれまで、何もないのには当たったことがありません。珍しいと思います」

「でもこれって、ラッキーですよねぇ?」


「そうだな。だが気を抜くな。隠れたり、見えない敵がいるかもしれないからな」


 【隠密】などのスキルを持っているかもしれない。


 ハルコさんがおびえた顔で言う。


「ゆ、幽霊とか!? やめてくださいよぉー!」


 古びた館の内装は、それらしい雰囲気と言えなくもない。

 だが壁や床はきれいに磨かれている。

 そのせいか、おどろおどろしい雰囲気はない。


「脅かすつもりで言ってるわけじゃないぞ。そういう能力の敵がいてもおかしくないってことだ」


 これまで、分身は攻撃されていない。

 物音もなし。


 ふーむ。モンスターはいないのか?

 こうも静かだと調子が狂うな。



 その時、部屋の一室からなにかが現れる。


 エドガワ君が驚いて一歩下がる。


「うわあっ!」

「ひえぇ! ――あうっ!?」


 ハルコさんがエドガワ君に飛びつこうとして――空中で止まる。

 エドガワ君の能力が発動していて近づけなかったんだな。


 俺はやれやれと首を振る。


「落ち着け! よく見ろ、分身だ。部屋を一周して出て来ただけだ」


 俺は分身を解除する。


「お、脅かさないでください!」

トオル(エドガワ)君、ヒドくないですかぁ? ちゃんと助けてくださいよぉ!」


 ハルコさんがふくれてエドガワ君をにらむ。涙目だ。

 エドガワ君は困ったような顔で弁解する。


「はい……。その、わざとじゃないですからね、ハルコさん」



「とりあえず部屋を探索しよう。どこかにダンジョンの入口があるはずだ」

「はぁい」

「わかりました」



 家の中には生活の気配が残されている。


 仏壇にしおれた花。


 写真が飾られている。

 おそらく先立った配偶者のものだ。


 写真はほかにもある。

 庭で穏やかに微笑む老夫婦。

 季節を彩る庭の花々。


 公儀隠密が調べた情報によると、老婦人が一人で住んでいた。

 子供はおらず、親戚も近くにいない。


 住人はもうダンジョンに呑まれているだろう。


 こんな穏やかな老人のもとにもダンジョンは現れるのか……?



 ダンジョンの入口はすぐに見つかった。

 立派な桐のタンスの中だ。

 観音開きの扉を開けると、黒い水面のような転送門がざわざわと揺らめいている。


「ありましたね」

「これでおしまい、ですかぁ?」


「いや、中を確認する。入るぞ!」


 ダンジョン領域に敵はいなかったが、中はどうかな?



 エドガワ君は表情を引きつらせている。


「やっぱり……入るんですか? 普段はこれで調査は終わりなんですが……」

「ダンジョンの中じゃないとポーションは使えないからな。今回は中を確認しなきゃ意味がない」


 ハルコさんも緊張気味である。


「ですよねぇ? 私、ダンジョンに入るのはじめてなんですけどぉ……」


 俺は刀を抜きながら言う。

 今日は戦えるのが俺だけなので、すぐ動けるようにしておきたい。


「心配なら二人で手をつなぐといいぞ。俺も最初、そうした」


 あのときのリンも不安そうにしていた。

 手をつなぐとすぐ落ち着いたようだし、効果はある。


 リンとトウコは今頃学校だ。

 やわらかな手の感触を思い出したせいか、早くも帰りたくなってきたぞ。


 集中しろ、俺!



 ハルコさんがエドガワ君に手を伸ばし――


「じゃあ手を――あうっ」


 ――手が見えない壁に阻まれてぐきっと曲がる。


「わ、わざとじゃないですからね!」


 エドガワ君はバツの悪い顔で、さっとハルコさんの手を取った。


「いくぞ!」


 俺たちはダンジョンに突入した。

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[一言] ダンジョンて持ち主死んだら消えるのかな? 持ち主の老夫婦は中にいるのか…ダンジョンで生存?できるの?
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