安全な悪性ダンジョンを探そう!?
俺、ハルコさん、エドガワ君の三人は閑静な住宅街にいる。
「ゼンゾウさん。ここに悪性ダンジョンがあるらしいですよぉ!」
ハルコさんが指差しているのは瀟洒な館だ。
豪邸というほどじゃないが、個人の家としてはかなり広い。
「ハルコさんにとっては初任務になる。気負わずいこう!」
「はぁい」
庭には花が咲き乱れ、よく手入れされている。
建物まで植物に覆われていて、おもむきがある。
俺たちは庭を通って玄関前までやってきた。
俺はドアを指さす。
「エドガワ君。まだ誰も中に入っていないんだよな?」
「はい。中に入るのはボクたちが初めてです。ええと、家主は一週間前から行方不明。足が悪いので一人での外出はできません。通いの家政婦さんも行方不明ということです」
俺も資料には目を通しているから知っている。
あえて聞くのは、エドガワ君が理解しているかを試すためだ。
「なんでここに悪性ダンジョンがあるとわかったんだ?」
「ええと……だからそれを調べに来たんですけど……」
「俺が聞きたいのは、なんで建物に目星をつけたかって話だ」
「ああ……ボクたちの前に情報チームが調べています。通信やカメラ映像の分析ですね。それをもとにダンジョンに関係しているか判断して……ええと、ボクたちが直接来るわけです」
あいかわらずエドガワ君の説明は訥々としている。
でも内容はあっている。
ちゃんと資料を読んできたようだ!
「あやしいところを私たちが調べるんですよねぇ?」
「そうだ。家の中の電子機器は通電していない。外の照明は昼なのにつけっぱなしだな」
俺は玄関の照明を指さす。
今は昼だが、灯ったままだ。
ハルコさんが口元を指で押さえて言う。
「それってぇ、消す人がいないってことですよねぇ?」
「普通、つけっぱなしにしませんよね……?」
「ああ。庭はよく手入れされているし、消し忘れは考えにくい」
いちいち照明を消さない不精な住人という可能性もある。
でも違うだろう。
インターホンを押してみる。
音は鳴らない。
つまり、建物内は通電していない。
念のためドアをノックする。
「こんにちはー! いらっしゃいますかー?」
「……返事はないみたいですね」
「えっとぉ……誰もいないってことですよねぇ?」
「応答がない場合、内部に入るのがいつもの手順です!」
俺は玄関のノブに手をかける。
「じゃあ、ドアを開ける――お、鍵はかかってない!」
ドアは軋む音など立てず、滑らかに開いていく。
一週間前まで普通に生活していたのだ。
室内は暗い。
エドガワ君があせったように言う。
「え、もう入るんですか。ちょっと心の準備が……」
「ともかく、入ってみよう! ヤバければ逃げる!」
玄関前でまごついていると、通行人に見られるからな。
「調査だけですよねぇ? 戦うとか、なしって聞いてますよぉ?」
「小規模な戦闘はありえるけど、本格的には戦わない。様子を見るだけだ。サタケさんを連れてこれるくらい安全ならそれでいい。危険なら次回、リンとトウコを連れてくる」
「うう。緊張しますねぇ」
「敵がいたらハルコさんは隠れていてくれ。エドガワ君、護衛は任せる」
エドガワ君がびくっと俺の顔色をうかがう。
「護衛、ですか? ボクも緊張してきました!」
「さんざん練習しただろ? やれるよ!」
基本的に、今回は調査だけ。
ケガ人を運び込んでポーションを使えればいい。
手に負えないほど危険なダンジョンの場合は即撤退する。
玄関をまたぎ超えると、腕のスマートウォッチが消える。
「よし! あたりだ!」
「ここは悪性ダンジョン領域ですね!」
「あ、安全な? 悪性ダンジョンだといいですねぇ?」
安全な悪性ダンジョンというのはヘンな言葉だ。
ともかく、ほどよいやつだといいね!
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