ついに明かされるリヒトさんの秘密……!?
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現在の名称:ブラッククロウ@あなたはスゲタリヒトさんですか? リアダンのリヒトさんであれば、私の職業を答えてください
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「返事がこれだ」
これは昨日の分だから、このあともう一通ある。
一つずつ見ていこう。
「店長の職業は店長っス!」
「それは役職だ! しかも元店長だ!」
さらにリヒトさんにそれを話したことはない!
ツッコミどころの多いボケはよせ!
「ダンジョンの職業の話ですよねー?」
「ああ。答えは忍者だ。前にリヒトさんには伝えてある!」
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差出人:リヒト
件名:ご質問の答え
本文:
ご連絡ありがとうございます。
はい。
僕の苗字はスゲタです。
ブラッククロウさんの職業は忍者です。
壁走りの術や分身の術で攻略されているんでしたね。
この質問はとてもいい!
僕が、以前やりとりした僕であるかの確認ですね!
さすがは「ダンジョンの食べ物は安全か」を気にされていたブラッククロウさんです!
あなたが僕の知るあなたでよかった!
こちらも、やっと確信が持てました。
最初に書いたように、そうではない可能性もあったのです。
僕はリアル・ダンジョン攻略記で、苗字を名乗ったことはありません。
つまりリアダンの読者は、僕の苗字を知ることはできません。
インターネット上をくまなく探せば、特定できると思われるかもしれません。
ですが、それはできません。
なぜなら……リアル・ダンジョン攻略記は、僕がスキルで生み出したものだからです。
騙していたようで申し訳ありません。
僕の職業は【エンジニア】です。
ダンジョン内で地球の科学文明を再現できます。
つまり、スキルで生み出した攻略ブログを見ていただいていたのです。
今は通信経路が切断されていて、そちらにアクセスできません。
おそらくスキルが妨害されているのでしょう。
抜け穴がふさがれてしまったようなイメージですね。
このメッセージ機能は、ダンジョンの機能です。
いわば正式な通信手段なので、妨害されないはずです。
地球世界の仕組みとは関係がない、ということです。
とはいえ、頭痛や記憶障害が起きた場合は、すぐに知らせてください。
僕もどこまで安全に話せるかがわからないのです。
脱線してしまいました。
話を戻します。
クロウさんが僕の苗字を知る方法は一つ。
そちらにいる僕が関係しているのではないでしょうか?
彼は無事でしょうか?
お返事お待ちしています!
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「……どう思う?」
リンはうれしそうに言う。
「リヒトさんはリアダンのリヒトさんで間違いありませんね。よかったです!」
トウコは指先でこめかみをぐりぐりしながら言う。
「んー。ブログを作るスキルって、どうやるんスか?」
リンも首をかしげている。
「うーん。パソコンを作るんでしょうか? 【パソコン創造】みたいな……」
「パソコンっスか? んー。あたしが銃を出すのとは違うと思うっス」
俺はうなずく。
「そうだな。パソコンを作っただけじゃ、俺にブログを見せられない」
ブログが読めるパソコンが俺に転送されてきたわけじゃないし。
俺はもともと持っていた自分のパソコンでブログを読んだ。
「【エンジニア】のスキルが、そういう能力だから見せれるのはいいんス!」
「ああ。リヒトさん自身ができると明言しているし、実際俺はブログを読んだ」
「どうやってか、がわかんないんスよ!」
ファンタジーな不思議能力である。
念写やテレパシー的な仕組みなんだろうか?
「地球の科学技術を再現っていうと……うーむ?」
リンはよくわかっていない顔だ。
「えーと、パソコンがあってもダメなんでしょうか?」
「電気とかインターネットがないとダメっスよね!」
「そうだ。パソコンだけ作っても通信はできないだろ?」
インターネットにつなぐには電話線とか光ファイバーが必要だ。
無線だとしてもどう送信しているんだ?
通信ログが残っていないからインターネットは通っていないはず。
品物を作る能力では、どうにもならない。
なら俺のパソコンに直接……いや、脳や認識に働きかけたのかもしれない。
「よくわかりませんが……機械だけでは無理なんですね?」
「そうだ」
トウコの【銃創造】のようにモノを作るスキルではない。
トウコがドヤ顔で言い放つ。
「つまりっ! 概念系能力なんスよ!」
「ああ。俺もそう思う。ブログや掲示板の機能――概念を再現するスキルだろうな」
リンはピンと来ていない。
「がいねん……? 言葉の意味はわかりますが、よくわからないです。ゼンジさん、どういう意味ですか?」
「漫画やゲームでよくある能力だ。説明は難しいけど……ルールを作ったり変えたりする。結果を押し付ける感じだな」
リンは首をかしげている。
かしげすぎて倒れそうだぞ。
「うーん。むずかしいですね」
「ラノベや漫画に慣れ親しんでいないと、わかりにくいかもなあ……」
「それなら、あたしの得意分野っス! 性別の概念を反転させる能力とか、快楽を百倍にするとか――」
「お前が慣れ親しんでるのは違う種類の本だろ!」
ちょっと本筋から外れるが、もうちょい説明しておくか。
「リン。例えば【即死】スキルがあるとするだろ?」
「はい」
「これを食らったら、問答無用で死んでしまうんだ。ケガをさせるとか心臓を止めるとか、そういう物理的な効果がなくても、ただ死ぬ。それが概念系能力だな」
「【絶対命中】とか【無敵】とか、チートなやつっス!」
リンが驚く。
「えっ!? リヒトさんのスキルは、そんなにすごいものなんですか?」
「強さは違うけど、似ているんじゃないかな。ブログを見せるという概念を能力で再現しているとすれば、だけどね」
スキルの原理や正体なんて、使ってる自分でもわからない。
俺のスキルに概念系の能力はあったかな?
……ある!
たとえば【フルスイング】だ。
ノックバック効果がそれに近い。
盾で防いでも掠っただけでも一定の吹き飛ばす力が発生する。
ゲーム的で、一律の効果が出る。
これは、吹き飛ばすという概念を与えているとも言える。
「あたしの【復活】は概念系っぽいっス! 死んだことがなかったことになる!」
「死んだ、という状態をねじ曲げているよな?」
「死んだことが、なかったことに……そうですよねー……」
伝わったかな?
まだちょっと怪しいな。
「【復活】は傷を治したり心臓を動かしたり脳に血流を戻したから生き返るわけじゃない。復活したから、結果として体が治っているんだよ。結果ありきなんだ!」
リンの顔に理解の色が浮かぶ。
「わかりました! 概念ってそういうことなんですねー」
リンにも伝わったようだ!
考えてみると興味が湧いてくるな、概念!
「ということは職業もそうか? 【忍者】の職業は、忍者という概念を再現しているとも言える!」
「あたしも銃という概念を操っているのかもしれないっス!」
「じゃあ【火魔法】もそうですか? 燃えている、という状態を生み出しています」
「そうとも取れる。物質を燃焼させるのとは違うからな」
「うぇ? 敵を燃やしてるんスよね?」
「んー。ちょっと難しい話だが、火が燃えるのは化学反応だろ? 酸素との反応で……」
トウコが手を振って俺の言葉をさえぎる。
「あ、難しい話ならいいっス!」
「おいっ!」
概念系でなくファイアボールを再現するなら、手の中に燃える物質を生み出して、分子を振動させて高熱を発生させ……みたいな感じになるんだろうか。
魔法やスキルを真面目に考えると、ややこしくなってくるな!
リンがトウコに言う。
「油もなにもないのに、ぱっと火がつくのがすごいって話だよ、トウコちゃん」
「【火魔法】は火という概念を操ってるんスね!」
「そういうことだ。魔法は概念! 魔法はイメージ! そういうことにしておこう!」
俺は適当なところで話題を終わらせる。
あんまり物理だの化学だのと、難しいことを考えさせたくはない。
自由なイメージが持てなくなるといけない。
「なんとなくわかったっス!」
「概念の概念が分かった気がします!」
「ああ、そりゃよかった。で、それよりもだ! 気になるのは最後に書かれてる部分だ!」
「そうそう! リヒトさんがリヒトさんの心配してたっス!」
「そちらにいる僕……って言ってましたね。どういうことなんでしょうかー?」
本筋はこっち!
リヒトさんの正体、なんとなくわかってきたぞ!
没タイトルシリーズ!
■概念の概念……?




