伝線タイツと崩れたキモノ! 汚されてしまった……!?
「さて、ここらが潮時か。帰るぞ!」
「えー? まだ行けるっス!」
「魔力はポーションのおかげで大丈夫ですが……。でも、安全第一ですよね!」
「そうだ。無理して進んでケガしたらバカらしいだろ?」
あと、集中力も切れてきている。
攻略を急ぎたい気持ちはあるが、無理は禁物。
トウコは服をつまんで匂いを嗅いでいる。
「うー。そっスね! それに、なんかヨゴレた感あるっス!」
「言うな。それを言うな!」
フン爆撃を食らったせいだ。
もうヨゴレは塵になって消えているとはいえ……うん。
モンスター由来のヨゴレは倒せば消える。
血とか肉とかアレとか……。
リンが近づいてきて、恍惚とした顔で言う。
「もう変なニオイはぜんぜんしません。いつも通り、いい匂いですよー!」
「いや……はやく帰って風呂はいりたいよな!」
自分の汗は消えてくれない。
気分をリフレッシュするためにも風呂に入りたい!
「それなら、いそいで帰るっス! ほらはやくーっ!」
トウコが小走りになって急かす。
急にやる気だな!
「装備も直したいし、対策アイテムも考えなきゃな……」
穴をふさぐくらいの補修は今でもできるが――
リンがダンジョンの奥を指さす。
「あっ! コウモリさんが来ましたよ!」
「げっ! 撤退するぞ!」
装備を直しているヒマはない!
「しつこー! うらうらっ!」
トウコがショットガンを連射する。
すぐに応戦してくれるのは頼もしいが、戦ってるときりがない。
俺はトウコに声をかける。
「トウコ! いくぞ!」
「りょ! じゃまなんで、ショットガンはポイっス!」
トウコは弾を撃ち尽くしたショットガンを捨てる。
手を離れ、塵になって消えた。
俺は分身を走らせる。
条件を与えておいたので、どこまでも壁に沿って進む。
コウモリたちが手近な標的に狙いを定める。
こいつをオトリにして、俺たちは来た道を戻ろう!
狭い通路を急いで進み、振り返る。
「ふう。撒いたな」
「はい。コウモリさんはついてきてません」
これで一息つける。
「道もだんだん広くなってきたっス!」
「じゃ、隊列を組みなおそう。先頭はリン。システムさんを前に回してくれ」
「はーい」
もちろん、システムさんと一緒に分身も前に出す。
「二番手は俺。動きが取れない状態になったら【入れ替えの術】で隊列を変える」
「んじゃ、あたしが後ろっスね!」
「おう。背後から敵が来たらトウコがぶっ放せ!」
「りょー」
トウコは短銃身のショットガンに持ち替えている。
狭いところならこっちのほうがいいよな。
リンが前方を指さす。
「あ、蛾さんがいますよ。少し先です!」
「じゃあリン、倒しちゃって」
リンは手を突き出し、敵を狙う。
「はーい。ファイアボール! ……あれ?」
火球が飛ぶ。
だが、妙に弱々しい。
「どうした? 疲れたなら……」
「いえ……おかしいなー? ファイアボール!」
再び魔法をくり出す。
今度は力強い火球が飛んだ。
炎が蛾を焼く。
だが、すべての蛾は倒しきれていない。
「残りは俺が! うりゃっ!」
壁を登って狙いをつけ、投擲。
こうすればこの位置からでも射線が取れる。
何度か棒手裏剣を投擲し、残った蛾を倒す。
「よし、全滅! 進むぞ!」
「は、はい……」
リンの声は苦しそうに聞こえる。
暗さや【暗視】の見え方もあってわかりにくいが……顔色が悪いか?
「ん……? リン、大丈夫か?」
「なんだか、めまいがして――」
リンがよろよろと壁に手をついて体を支える。
後ろでトウコが言う。
「あたしもちょっとフラフラするっス。あれ!? これって――」
「毒か……!?」
装備のスキマから毒が入り込んだのか……!?
蛾は少し離れたところを飛んでいた。
だが、鱗粉は……?
狭い通路だ。
散らずに粉が舞っていても不思議はない。
リンが伝線したタイツを押さえながら言う。
「もしかして、お洋服に穴が開いちゃったから……?」
「うー。ぜんぜん気づかなかったっス!」
俺の装備は穴が開いていない。
だから、毒を受けずに済んだのだろう。
ともかく、薬だ!
「息を止めて、リカバリーポーションを飲め!」
「は、はーい」
「リョーカイっス……」
二人は慎重に薬の小瓶をあおる。
「装備の穴をふさぐぞ!」
そう言いながら【忍具作成】を発動させる。
二人の装備の穴をふさいでいくが――これには少し時間がかかる。
その間、俺は動けない。
いま敵が来ると面倒だ……。
本来、クラフトは安全な場所でやるべきだ。
だが今やらなくては!
リカバリーポーションは状態異常を治してくれるが、予防はできない。
治っても、また鱗粉を食らったら意味がないのだ。
「ふう……効いてきました。もう大丈夫です!」
「ふっかーつ!」
「よし! とりあえず服の穴もふさがった! 急いで帰ろう!」
「はーい」
「りょ!」
そのあとは問題なく十三階層を駆け抜け、階段へたどり着いた。
天の声が響く。
おっ!?
<【暗視】 2→3>
<【ファストスラッシュ】 2→3>
「熟練度で暗視とファストスラッシュのレベルが上がったぞ!」
「おめでとうございますー!」
「へー! 今度は何色になるんスか?」
色……?
「ああ、見え方は変わらず緑色だぞ?」
トウコががっかりしたように言う。
「なーんだ。地味っスねー!」
「【暗視】に派手さを求めるな! 赤や黄色になったら困るだろ!」
見づらいわ!
「なにか違いはあるんですかー?」
俺は周囲を見回す。
うん。ちゃんと違いがある!
「これまでよりも明るく見えるぞ。これはいい!」
「わあ。それはよかったですねー!」
リンは自分のことのように喜んでいる。
階段で充分な休憩を取り、十階まで戻る。
そして一階へ転移。
「ふう……。無事に拠点に帰還したな!」
「少し疲れましたねー」
「そうだな。風呂入って休もうぜ!」
「おっふっろー!」
新しい状況に対応すると頭を使う。
ちょっとしたケガ、装備の破損。
いつもとは違う場所や状況。
そんな小さな積み重ねが大事故を招く。
余力がある状態で引き返して正解だった!
うまくリカバリーもできたし。
なにより、今回は攻略がはかどった。
一気に三階層も進んだからな!
いいペースだ!
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