クローゼットダンジョン・十三階層!
休憩を終えて十三階層へ踏み込んだ俺たち。
「やはり洞窟か。少し様子が変わったな。狭い……」
階段を出てすぐ長い通路だ。
幅が狭い。
その分、天井は充分に高い。
頭をぶつけたりする心配はない。
縦に細長い通路という感じ。
リンが両手を水平に広げる。
「こうすると手がぎりぎり当たらないくらいですねー」
「動き回るにはちょっと狭いっス!」
トウコがショットガンを両手で構えてその場で回転する。
動きに制限がかかりそうだ。
「壁にぶつかりそうだな。今のうちに試しておこう」
「そっスね!」
「はーい」
俺は背中から刀を抜いて構える。
抜く動作は問題ない。
トウコはショットガンを左右に向けながら左右に動いている。
動きにくそうだ。
リンは手持ち無沙汰に手をぶらぶらさせている。
ちょっと微笑ましい。
武器がないから試すこともないんだよな。
ふーむ。
軽く素振りしてみる。
「縦には振れるが、横は厳しいなぁ」
横振りの【フルスイング】は使いにくくなる。
突きか縦振りがメインになるだろう。
鎖分銅も使いにくいな。
【壁走りの術】も使いにくいか?
両手を広げた長さはだいたい身長と同じ。
壁に立つと頭をぶつけかねない。
だが、垂直に立たなければいい。
三角飛びをくり返せばどんどん上に行ける。
天井近くに張り付けば、かなり見つかりにくいだろう。
俺にとって壁が近くにあるのは頼もしいことだ。
通路はグネグネと曲がっていて先を見通せない。
壁からところどころ水滴が滴り落ちており、床に水たまりがある。
湿っぽい空気が流れていて少し肌寒い。
「先が見えませんねー」
「そもそも暗くてよく見えないっス!」
「真っ暗じゃないからなんとかなるだろ?」
発光キノコやヒカリゴケがあるので【暗視】がなくても気を付ければ進める。
ときおり光る水晶もあるので、その周囲は明るい。
「店長は【暗視】があるからっスよ!」
「オフにしてもギリ見えるぞ。まあ、松明の明かりで充分だろ」
リンが声を上げる。
「あっ! 来ました! ゴブリンさんです!」
先行させたリンの【サポートシステム】が敵を発見したようだ。
俺たちは声を落とさずに会話していたので、こちらの存在はバレているだろう。
「アギャっ!」
「お、さっそく来たな! 正面から突破するぞ!」
通路の先にゴブリンが姿を現す。
まだ遠い。
狭い通路だから、やり過ごすことはできない。
「最初、あたしが撃っていいっスか?」
「撃ち切ったら交代だな。トウコ、リン、その後俺が前へ出る」
「りょ!」
「はーい!」
盾に身を隠しながらゴブリンが走ってくる。
「ゴブッ!」
勢いのままに俺たちを押し込む気だろう!
トウコがショットガンを向ける。
銃口に魔力が集まって発光している。
「チャージショットぉー!」
事前にタメておいたチャージショットが放たれる。
細かい散弾の一粒一粒が光の尾を引く。
盾に着弾した光の粒が弾ける。
まるで花火みたいに派手だな!
「ウギッ!」
たまらずゴブリンは盾を跳ね上げてたたらを踏む。
防がれたが、大きく体勢を崩した。
トウコが銃口を下に向け、ポンプを動かす。
「さらにリコシェショット! うらうらっ!」
下向きに二射目。
これは跳弾狙いだ。
盾ゴブリンの足元で跳ねて、後続に散弾が襲いかかる。
さらに発砲。スキだらけの盾ゴブリンにトドメを入れる。
これで絶命。
残りの弾丸を後続へ射撃。
最後の弾丸はちゃんと【ラストショット】のエフェクトを発している。
いいね!
新ショットガンは連続で撃てるのが強い!
入れ替わるようにリンが出る。
すでに手の中には炎が渦巻いている。
「ファイアランスーっ!」
突き出した手から炎の槍が放たれ、暗闇を切り裂いて飛ぶ。
狭い通路に隠れる場所はない。
頼りの盾ゴブリンも、すでに塵になっている。
「ギャー!」
後続のゴブリンが逃れようと武器を投げ出して通路の奥へ走る。
だが逃げ場はない。
そのまま炎にあぶられて塵となっていく。
俺は壁面に張りついて待ち構えていたが――
「おお全滅か! 俺の出番はなかったな!」
後続もなし。
見える範囲に敵はいない。
俺は壁をすべり降りる。
「へへー。店長の分まで残らなかったっスね!」
「あ、残せばよかったですねー」
リンが申し訳なさそうに言う。
俺は手を振る。
「いやいや、倒せるならそのままやっちゃっていいぞ」
「バードショットだとチャージショットの威力もイマイチっス!」
「盾は貫通しなかったな。でも、そのあとの跳弾はナイスだった!」
小粒のバードショットでは盾を抜けない。
だが威力は充分。
そのあとの跳弾はいい考えだ。
跳弾なんて普通は運だ。
狙って当たるものじゃないと聞いている。
【リコシェショット】は反射する角度がイマイチで使いにくいスキルだった。
だが、この狭い通路でなら命中が期待できる。
それに跳弾の方向を制御すると誤射のリスクが減る。
いいことずくめ!
「リンの火力もさすがだったな!」
「はい! 熱が逃げないので、こんがり焼けました!」
「こっちは熱くならなかったっスね!」
「奥に向かって抜けていくようにしたのー」
二人の後、俺が攻める想定だった。
だからリンは熱が奥へ抜けるようにイメージしたんだな。
俺が突っ込んでも炎の巻き添えにならないってことだ。
気が利いてるね。
魔法はイメージの比重が大きいとはいえ、器用だよなぁ。
戦闘はあっけないものだった。瞬殺だ。
相手になにもさせずに倒したので、力量はつかめていない。
だがこちらの攻撃は通じているし、問題なかろう。
十三階層の攻略は順調な滑り出しだ!
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