忍者薬はあやしいおクスリでしょうか……!? その2
【薬術】のレベル1は、思っていたのとは少し違った。
これには、ファンタジーな効果はなかった。
作れるのは、漢方薬みたいなものだ。
生薬由来の成分で、史実の忍者が薬研やスリコギでゴリゴリしてる感じのクスリだな。
【忍術】の【薬術】なんだしね。
まあ、名前通りの効果だ。
レベル1は「簡易な薬」だし、こんなもんだろう。
西洋医学の薬のような化学物質でできているものも作れない。
たとえばリストにあった毒消し。
これはファンタジーの「薬草」に類する「毒消し」とは違う。
瞬く間に解毒効果が発揮されるアレではない。
デトックス的な効果があるだけ。
民間療法みたいなものだな。
あくまでも、史実の忍者が使っているような物だ。
ガマの油とか、越後の毒消しみたいなもの。
効果があるか、俺は使ったことがないのでわからないが、劇的な効果があるものではないはずだ。
こうして作れるクスリも日常生活には役に立つかもしれない。
でも、現代日本の薬局で手に入る薬のほうが効果がありそうだ。
これが異世界転移でサバイバルしているなら、かなり便利なんだけどね。
俺は薬局に自由に行けてしまうからな。ありがたみがない。
そしてもちろん、ダンジョンでは意味がない。
ケガがすぐに治ったりする効果がないからだ。
忍者風の丸薬も作れるけど、これも現実的な栄養補給の域を出ない。
でもこれは役に立つ。
結構おいしいし、携行しやすい。
料理の手間がなく、すぐに作れるのもいい。
「もっとファンタジー的な回復薬を想像していたんだけどなぁ」
たとえば、ダンジョンで手に入れた薬草みたいなね。
薬草は時間はかかるが傷を癒してくれる。
「素材が現代のものだからいけないのかな?」
レジャーシートの上には「ダンジョンの薬草」も並べている。
しかし、これは対象となっていないみたいだ。
じゃあ、この薬草だけに絞ってみたらどうだ。
俺は薬草と魔石を手に、レジャーシートから離れる。
これで、他の素材は混じらない。
「薬術! どうだ……?」
だが、ダメ。
候補がなにもないと、スキルが伝えてくる。
つまり、薬草を材料として作れるクスリはないということだ。
素材として見てくれてない。
「薬草がスキルに見向きもされていない感じなのか……?」
【薬術】ちゃん、選り好みが激しいぞ。
あるいはルールに忠実すぎる。
親切に教えてはくれるけど、ルールは破らない。
潔癖症の学級委員長キャラかな。
たぶん、スキルレベル1ではファンタジー素材を扱えないルールなんだ。
あるいは、スキルの限界か。
普通の素材から、易しい薬を作れるだけ。それが限度。
そして、無理を言っても聞いてくれない。
シビアである。
「スキルレベル2――普通の薬――ならイケるんだろうか。期待通りの効果があるクスリが作れる可能性はあるよな」
そもそも継戦能力をあげようと【薬術】を取ったんだ。
この段階では意味が薄い。
試してみる価値はある!
スキルレベルを上げてしまおう!
思い切って残っていた2ポイントを【薬術】に振る。
--------------------
スキル:
【薬術】2(1より増加)
(残ポイント:2→0)
--------------------
「よし、これで再挑戦だ。さて、薬草を使って作れるクスリは……?」
たのむぜ委員長ちゃん!
薬草が――認識された感覚!
来たっ!
ついに振り向いてくれたね! 委員長ちゃん!
「リストに薬草ベースの丸薬があるぞ! 薬草丸か!」
即効薬草丸、遅効薬草丸、強力薬草丸がリストに並んでいる。
即効薬草丸は、効き目が早く、持続が短くなる。
すぐに効いて、すぐに切れるわけだな。
これなら、戦闘中に飲んでも効果が期待できるかもしれない。
遅効薬草丸は逆の効果だ。
効きはじめが遅く、長く効く。
これは戦闘前に予防的に飲んでおくのもいいかもしれない。
どちらも、回復量は薬草と同じ。
薬草丸を作るには、薬草を二つ消費する。
それで回復量が同じでは、少し損した気がしなくもない。
でも、効き方や食べやすさが向上することは大きなメリットだ。
コストがかかってもしかたがないだろう。
戦闘中に薬草をもしゃもしゃ食ってられない。
丸薬ならぽいっと口に放り込めばいい。
ずっと、扱いやすいのだ。
そして、強力薬草丸は回復効果が五割増しになる。
これは普通にメリットが大きいな!
「すぐに効いて、長く効いて、強力な薬草丸……作れないかな?」
いいとこどりのヤツ、作れませんかね。
即効強力持続薬草丸とかさ。
委員長ちゃん? できませんかねえ?
あ、ダメ?
アッハイ。そうですか。ダメですよね。
「やっぱり無理か……。そういうのはレベル3なのかな。とりあえずおあずけだな」
ともあれ、薬草丸は期待通りの品だ。
地味ではあるが、ファンタジーで忍者なアイテムだ!
今はケガもないので、薬草丸を試すのは後になる。
原料の薬草は魔石10個。つまり薬草丸の価値は魔石20相当。
ちょっと試すにはもったいない。
ましてや、わざとケガをするなんてこともできない。
マゾじゃないんだ。ほんとうだ。
回復アイテムの検証は、毎回この問題に突き当たるな。
俺の戦闘スタイルは被弾が少ない。
なかなかちょうどいいケガなんてしないのだ。
だから試せない。
ヒットポイントとか防御力が増えそうなスキルは、相変わらず現れない。
被弾して耐える戦闘スタイルだったら、回復を試しやすいんだけどね。
ひとまず三種類の薬草丸を作成する。
紙に包んで腰袋に入れておく。
これで回復アイテムは治癒薬が一つ、薬草丸が三つだ。
ポーションはずっと使わずにしまいっぱなしだ。
いざという時のための保険だ。安心料ってやつだな。
これがあるおかげで、ダンジョンでケガをするリスクを気にせずに戦えるってわけ。
最初のころは足をくじいただけでも死ぬリスクに怯えていたからな。
回復アイテムがあるだけで安心できる。
薬草より、薬草丸。安心が増したぜ!
薬草から他に作れるものはあるのかな、とチラリと考える。
「え? 体力回復丸と魔力回復丸もある? 薬草から作れる? マジかよ委員長ちゃん!」
わあ、検証が終わらないね!(白目)
……このあと、めちゃくちゃ検証した。
次回は装備クラフトになります!
なお体力回復丸と魔力回復丸も、即効、遅効、強力の三種があります。




