炎のピロートーク!?
部屋の中に残った敵を倒す。
「ぜんぶ倒したっスね!」
「ああ。でもまだ入るなよ」
「毒ですね?」
「そうだ」
部屋のなかにはきらきらと粉が舞っている。
布で顔を覆ってはいるが、完全ではない。
過信して毒の濃い場所へ入りたくはない。
「でも、魔石が消えちゃうっス!」
「分身で回収する!」
自分では中に入らず、分身に回収させる。
ついでに投げたクギも拾っておく。
これはもう、しみついた習慣である。
使った道具はなるべく回収。再利用するのだ。
痛んだものはクラフト素材に回す。無駄がない。
アイテムを回収しながら罠を確認する。
ローラーは使っていない簡易なチェックだが、罠はなさそうだ。
俺は部屋を眺める。
空中に舞う毒粉も減ってきた。
「もう大丈夫だろう。進もう!」
「はーい」
「残弾もバッチリっス!」
俺たちは部屋の中を探索する。
岩陰に隠れていた通路を発見した。
「ここから先に進めるな」
「他に道はないみたいですね」
「んじゃ、どんどん行くっス!」
松明を持たせた分身を先頭にして進む。
この階層は暗い。
炎は目立つが、隠れて進む必要はないだろう。
「ここの敵、楽勝っスね!」
「コウモリさんはあまり私たちに興味がないみたいですねー」
「まったく襲ってこないわけじゃないけどな。俺たちより蛾が気になるんだろ」
コウモリは俺たちを優先して狙うわけじゃないらしい。
蛾がいる分、攻撃が分散する。
さらに蛾は、俺たちに対してもコウモリに対しても攻撃しない。
ひらひらと逃げるだけ。
と言っても無害じゃない。まき散らす毒は厄介だ。
この通路にはコウモリたちはいないようだ。
曲がり角の向こうから叫び声が聞こえる。
「アギィ!」
「ギャギャ!」
聞きなれたこの声は――
「ゴブリンだ! この階層にもいたな!」
「四匹います。もうすぐ来ますよ!」
リンが索敵して、トウコが銃を構える。
「んじゃあたしが!」
角を曲がってゴブリンの一団が現れる。
まず姿を現したのは盾持ちが二体。
銃口が魔力の光を放つ。
「チャージショットぉー!」
銃声が響く。
派手な光を放って、強化された散弾が敵に突き刺さる。
一匹が塵に変わり、もう一体の盾持ちは後ろへ転がる。
半壊した盾を構えて起き上がろうとしている。
後続は――呪術師ゴブリンだ!
運よく盾の陰に入っていたらしく無傷!
「手前を頼む!」
呪術師ゴブリンは呪文を唱えようと口を開いている。
せまい通路で魔法を撃たれては危険だ。
俺は素早く踏み込み、刀を突きこむ。
刃は開いた口から後頭部まで貫通し、血しぶきを上げる。
ひねり上げながら刀を抜く。
呪術師が倒れて、塵に変わる。
さらに踏み込む。
狙いはもう一体の呪術師!
残った呪術師が俺に杖を向け、短く叫ぶ。
「ゴブアッ!」
俺はとっさに、杖の射線から飛びのく。
だが、わずかな違和感。
杖の先端から炎は噴き出さない。
不発――?
いや!
【危険察知】が知らせる感覚は背後からだ!
なにかヤバイ!
俺はさらに足を速める。
跳ぶようにして、呪術師の胸を刺し貫く。
「うおっ!?」
呪術師ゴブリンが塵となる。
と同時に、背後で炎がはじける。
通路が明るく照らされる。
熱が俺の背中をあぶる。
ムリな体勢で跳んだ勢いを殺すため、前に転がって膝立ちになる。
「あつっ!」
背中が熱い!
「店長! 燃えてるっス!」
燃えているのはマフラーだ!
俺はマフラーの端を切り取って捨てる。
慌てた様子でリンが両手を突き出して叫ぶ。
「しょ、消火! 消火! 大丈夫ですか、ゼンジさん!」
「ああ……大丈夫だ。助かったよ!」
俺はマフラーを【忍具作成】で修復しながら言う。
「ふう……。いまのゴブリン……なんか強かったな」
「戦い慣れてるっス! 銃弾も盾で防がれたっス!」
前衛二体が盾持ち。後衛二体が呪術師。
しっかり盾を構えながら通路を移動していたようだ。
とっさの攻撃に反応して攻撃を防いだ。
そして呪術師の反応もこれまでより速い。
リンが言う。
「さっきの魔法は……いつもと違いましたね?」
「火炎放射じゃなかったな。俺の位置からは見えなかったけど、なにか飛ばしたのか?」
リンが涙目で言う。
「ファイアウォールでしょうか? ゼンジさんの立っていたところが燃え出して……姿も見えなくなって、心配しちゃいました!」
「ファイアウォールか……」
火球や、火炎放射は避けられる。
足元から燃え上がる攻撃は対処が難しそうだな……。
トウコが言う。
「柱みたいにズゴーって燃えてたっス! ファイアピローっスね!」
「ピローは枕だろ! 柱ならピラーだ!」
炎の枕ってなんだよ……。
似てるけど全然違うわ!
「それそれ! 炎の柱っス!」
「新魔法か……厄介だな!」
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