ぐるぐる追いかけっこ!?
十一階層に入ってすぐの通路はなんなく通過した。
「体調は問題ないな?」
「へーきっス!」
「ゼンジさんの準備のおかげですね!」
俺の体調も問題ない。
蛾の毒は防げている!
魔法やスキルのように、狙って攻撃してくる類ではないようだ。
蛾の周りを舞う毒粉を吸いこんだり、皮膚に触れると効果が現れる。
対策してきてよかった!
蛾の毒粉は、空中や床に散っている。
しかし、これは蛾を倒すと消える。
ゴブリンの武器と同じ。
持ち物も一緒に消えるルールだな。
これは都合がいい。
おかげで残った毒を吸い込まなくてすむ。
素材として採取できないのは残念だが、いつものことだ。
俺のダンジョンで手に入るのは魔石だけ。
モンスターから素材や肉は落ちない。
蛾は十数匹で群れている。
数が多いので、魔石がジャラジャラと手に入る。
この魔石をモノリスで引き換えれば蛾の素材は手に入る。
もうトウコは【弾薬調達】を切って戦っている。
すでに使いきれないほど弾丸は手に入った。
リンの【食材調達】もオフである。
昆虫食やコウモリ肉はお断りだ。
もっと普通に美味い肉を食えばいい。
ウサギ肉や鹿肉、ワニ肉……。
うーむ。これはこれで普通じゃないか!?
通路の先は広い空間になっている。
そこから顔だけ出して中を確認する。
「キィキィ……」
耳障りな声。バサバサと羽ばたく音。
聞きなれた音だ。
「お。コウモリのお出ましだ!」
「さっきから羽音が聞こえてたっス!」
「天井にもたくさんいますよ!」
この先は広い空間になっている。
とはいえ三階層のドーム空間と比べると狭い。
洞窟の部屋といった感じ。
ごつごつと張り出した岩。
松明の明かりが影を伸ばしてチラチラと揺らす。
どこかに通路があるはずだ。
暗い洞窟でも俺の目は見通す。
だが、ここからは先へ進む道は見えない。
高い天井からコウモリがぶら下がっている。
これまでの階層より大柄だ。
かなりの数のコウモリが旋回するように飛んでいる。
「なんでこんなに飛び回ってるんスかね?」
「あれは……狩りだ。蛾を追っている!」
コウモリは無意味に飛び回っているんじゃない。
その先には蛾がいる。
ふらふらと飛ぶ蛾をめがけて、コウモリが襲っているんだ。
しかし蛾を捉えられないでいる。
スピードはコウモリが上。
それなのに、蛾はぎりぎりのところで攻撃を逃れているのだ。
トウコがじれったそうに言う。
「あー! ぜんぜん当たんないっスね! コウモリへたくそっス!」
俺は首に巻いたマフラーをつまみながら言う。
「あれは尾で幻惑してるんだ。蛾はコウモリ対策の参考にした先輩だからな。さすがだぜ」
コウモリはときおり、誤って天井や地面に激突している。
普段のコウモリはこんな動きはしない。
「あれは……毒にやられちゃったんでしょうか?」
「だろうな。鱗粉で動きを乱しているんだ」
蛾の周囲には毒の粉が舞っている。
あとを追うコウモリは毒に侵されてしまう。
「あ、食ったっス!」
もちろんコウモリの攻撃が成功することもある。
蛾はいとも簡単に引き裂かれて食われてしまう。
「キィィ……」
しかしコウモリも無事ではすまない。
床に落ちて痙攣している。
毒だ。
「蛾を食うのはやめておいたほうがよさそうだな」
「言われなくても食べないっス!」
トウコは心外そうに言うが……。
うっかり食べちゃいそうな気がするんだよな。
「コウモリさんは毒のことを知らないんでしょうかー?」
「同じフロアのモンスターなのにな?」
「まー、アイツらに学習能力なんてないんスよ!」
食べられない蛾を追って、ずっと飛び回っているコウモリ。
モンスターが同士討ちするってことは――【捕食】持ち。
毒のおかげで蛾を食べて成長しないのは助かるが。
「まあ、見ていてもしょうがない。先に進むぞ!」
「おっ! もう撃っていいんスね!」
「じゃあ、準備しますねー」
リンは魔力を練っている。
ほどよいところで俺は声をかける。
「んじゃ、撃ちまくれ!」
「リョーカイっス! うらうらっ!」
「ファイアァラーンスっ! ファイアボールっ!
散弾が、魔法攻撃が、クギが部屋の中に撃ち込まれる。
追いかけっこに夢中なコウモリたちはこちらに気付いていない。
コウモリも蛾も分け隔てなく魔石へと変えていく。
楽勝だ!
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