くせ者と銀行強盗とマスク美女による十一階層攻略!?
「いたぞ! 気をつけろ」
「はい!」
「蛾っスね!」
十一階層から登場する新モンスター。
数匹の蛾が群れをなして、ひらひらと飛んでいる。
松明の明かりを反射して、きらきらと何かが光る。
粉のようなもの……。
おそらくこれが鱗粉か毒針毛だろう。
ホコリのように、空気中に舞っている。
近づきたくはない。
俺はポーチからクギ束をつかみ出して、流れるような動作でまとめて投げる。
ショットガン投法!
「ていっ!」
軽量級相手にはクナイよりこっちがいいんだよね。
鋭く飛んだクギが薄い翅をやすやすと貫く。
悲鳴もなく、蛾が地に落ちる。
不規則な動きで宙をただよう蛾に当てるのは難しい。
ショットガン投法なら楽である。
数撃てば当たる。
射撃場で点数を稼ぐのとは違う。倒せればいい。
芋虫のような体を貫けば倒せるし、羽を撃ち抜けば無力化できる。
耐久力はないようだ。
攻撃を当てると、ぱっと粉が舞う。
刀で戦うには厄介だな。
しかし俺たちには飛び道具がある。
トウコが悪ノリしながらショットガンをぶっ放す。
「うらうらーっ! 金を出せー!」
カウボーイハットと覆面がトウコにはよく似合う!
覆面銀行強盗スタイルだ!
散弾が蛾の群れを吹き飛ばす。
【弾薬調達】の効果で、弾が生成されて転がる。
バードショット。小粒の散弾だ。
蛾やコウモリを撃つにはうってつけ!
じゃらじゃらと弾丸が手に入った!
金ではないが儲けたな!
リンが手を向けて詠唱する。
「えーい! ファイアボールっ!」
炎の玉が飛び、洞窟の壁面を明るく照らす。
「うええ! きもっ! 壁にもいっぱいいるっス!」
リンの放った火球が蛾の群れを焼く。
炎に焼かれてぼとぼとと落ちてくる。
「おお! やっぱり火は効くな!」
空中に小さな火の粉が舞う。
どうやら鱗粉も一緒に燃えてしまうようだ。
「はい! よく燃えますね!」
ゴーグルをしたリンが嬉しそうに言う。
リンも肌を隠している。
帽子は被らずに、俺と同じ頭巾スタイルだ。
同じ服装なんだが――うーむ。
ぜんぜん違う!
不審人物にも銀行強盗にも見えない。
「リンはなんでもうまく着こなすんだなぁ」
「すごいっス! みなぎるオシャレさ!」
ただの作業用ゴーグルが、まるで高級ゴーグルのようだ!
スキー場の女神! ゲレンデで恋に落ちたい感じ!
「そ、そうですか? 普通にしているだけですよ?」
口元を覆う手拭いすらファッショナブル!
これが【モデル】の効果なのか!?
「あーっ! リン姉のゴーグルが邪魔っス! その下の顔がみたいっ!」
「えっ? 顔はいつもみているでしょう?」
気持ちはわかる。
マスク美人の口元が気になるみたいな。
「見えない部分に想像の余地があるんスよ!」
「そ、そうなの? ちょっとわからないかなぁ」
リンは首をかしげる。
トウコが俺をびしっと指さす。
「たとえば、いま店長はリン姉の見えない部分を想像して鼻の下を伸ばしてるっス!」
「そんな顔してねえよ!?」
見えない部分ってどこよ!?
「……私を見て喜ぶゼンジさんの顔……? そういうことねトウコちゃん!」
リンはしきりにうなづいている。
いや、ヘンタイの考え方を学ばないで!?
トウコはきょろきょろと洞窟を見回す。
「でもやっぱゴーグルがあると見えにくいっス!」
「視界が制限される感じはあるな。でもこういうのは慣れだ」
俺は手作業でクラフトするときにもゴーグルを使う。
目つぶしを使うときもそうだ。
慣れれば気にならなくなってくる。
「いい匂いがして、守られているみたいで安心しますねー」
そう言うとリンは深く息を吸う。
リンが巻いている手拭いは俺が使っていたものだ。
「……そうか? ヘンな匂いはしないと思うが……」
「えへへ。いい匂いですよー」
せがまれて交換したのだが……うーむ。
露骨に匂いを嗅がれるとちょっと対応に困る。
「リン姉のフェチは、あたしには理解できないっス!」
「俺の手拭いじゃなくてリンのだとしたらどうだ?」
トウコがぐっと親指を立てる。
「なる! リン姉の下着ならそそるっスね!」
「露骨なヘンタイはやめろ!?」
リンもなぜかうなずいている。
理解できないよ!?
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