ニガテなことに挑む勇気!
エドガワ君はもっと引っ込み思案だと思っていた。
戦いを避けたり、人と関わらない人なんだと。
今回は妙に積極的だな?
「はい。その……ボクがスナバさんに頼み込んだんです。サタケさんは入院しちゃいましたし……」
「そうだったのか。やっぱり、この間の事件があったからか?」
俺の問いにエドガワ君はうなずく。
「あの事件まで、ボクは公儀隠密のことを……その、割のいいアルバイトみたいに考えていました。訓練もたまに参加するくらいで。任務も簡単だし、危険なことも少なくて……」
スナバさんが補足する。
「調査班でも危険な任務はある。サタケは、部下を育てるまでは危険の少ない任務を選ぶと言っていた」
スナバさんとサタケさんは話をする間柄だったようだ。
雰囲気も似ているし、気が合うのかな?
「あ……そうだったんですか。ボクが足を引っ張っちゃってたのかな、やっぱり」
エドガワ君が話しているのは、俺が入るより前の話だ。
俺からかける言葉はあまりない。
ダンジョン攻略だって、いきなりボスと戦ったら勝てない。
むざむざ死ぬような難易度に挑むのは無謀だ。
「そんなことないだろ? 選べるなら危険の少ない任務から慣らしていくべきだ。それは足手まといとは違う」
エドガワ君は泣きそうな顔でとつとつと話す。
「そうでしょうか……だけどダンジョン領域に閉じ込められて、ミムラさんも死んじゃって……。思ったんです。ボクがもっと強かったら。ボクがもっと動けていたら……。変えられたんじゃないかって。助けられなかった人たちを、もっと……」
「エドガワ君はちゃんとやれていたよ。俺はそれを知ってる」
「でも、あそこにいたのがボクじゃなくて、もっと強い人だったなら……ミムラさんも無事で、誰も死ななくて……」
「それは違う。あのときエドガワ君がいたから、みんな助かったんだ。誰一人かけても無理だった!」
サタケさんも、ミムラさんも、エドガワ君も自分の任務をこなした。
俺たちもハルコさんも最善を尽くした。
全員を救える状況じゃない。そういうことはある。
さっと現れて全員を救う都合のいいヒーローなんていない!
現実はダンジョンとは違う。
都合よく弱い敵から出てくるわけじゃない。
スナバさんが言う。
「エドガワ。過去を悔いてもしかたがない。反省して次に活かせ!」
「そうだ。エドガワ君はあのとき学んだ。苦い思いもした。だから今こうして、前に踏み出しているんだ!」
「そう……ですね。ボクはあの事件を無駄にしたくないと思ったんです。忘れたくないって。ミムラさんは普通の人なのに……異能もスキルもないのに、みんなのために戦いました。だけど、助けた人たちはみんな忘れちゃうんです」
「ああ、そうだな。だけど俺たちは憶えている!」
「そうです! ボクたちが生きてここにいるのは、戦ってくれた誰かがいるからだって。ミムラさんや皆さんのおかげだって。ボクはそれを憶えていたい! だからミムラさんの分も戦わなきゃって思ったんです。ちょっとした力を持ったくらいで傲慢かもしれません。だけど、それしかできなくて……」
エドガワ君は言葉を詰まらせる。
頬を涙が流れる。
俺はエドガワ君の肩に手を置いて言う。
「異能より、大事なのは心だ。立ち向かおうとする意志だ。それしかできないって言うけど、それはすごいことなんだ!」
「ああ。サタケはいい部下を持ったな……」
いつの間に近くに来ていたハルコさんが言う。
「うう……トオル君もいろいろ考えてたんですねぇ……! 私も、ミムラさんやサタケさんのことは忘れまぜん……」
ハルコさんは涙で顔をくしゃくしゃにしている。
号泣だ。
ハルコさんもサタケチームに助けられたんだよな。
通じるところがあるのだろう。
でもサタケさんは生きてるからね!
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