忍者薬はあやしいおクスリでしょうか……!? 【クラフト】【スキル検証】【薬術】
家に戻ると、注文しておいた素材が届いていた。
さっそく、ダンジョンに入ってクラフト開始だ!
「まずは薬術から試していこう!」
ステータスウィンドウからスキルの説明を表示してみよう。
【薬術】をタップする。
ウィンドウが切り替わり、説明が表示された。
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レベル1:簡易な薬を作成
レベル2:普通の薬を作成
レベル2への必要ポイント:2
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なるほど。
【忍具作成】と似た感じだな。
だとすればレベル3は「複雑な薬を作成」だろう。
今ある素材を床に敷いたレジャーシートの上に並べる。
買ってきたものと、家にもともとあったもの。
買い置きの風邪薬や消毒薬、酒など。
ペットボトル入りの水なども素材になりそうだ。
思いつく限りの物をとにかく並べていくスタイル。
ちょっとしたフリーマーケット状態だな。
あいかわらず、床に座っての作業だ。
絵的に、どうよこれ。
机、机欲しい……。
作業机を買うか作るかしたいな。
DIYするのも楽しそうだ。
Do It Yourself、だ。
ダンジョンの中でなら音を立てても苦情は来ない。
ダンジョンならイイよ、やかましくても、だ。
ギコギコうるさくてもOK!
無駄なくらいに工具を散らかしてもOK!
男の作業場! みたいな感じにこの拠点を改造したい。
洋画の気難しい親父のガレージみたいな。
俺の工具にさわるんじゃねえ! みたいな雰囲気。
壁一面に大小の工具が並んでいて、いつでも作業できる感。
そういうわけで、百円ショップでワイヤーネットを買ってきてある。
これを壁に並べて、フックで工具や武器を並べるのだ。
武器を並べれば展示ラックになるな。
殺し屋映画の主人公がクローゼットの裏に持ってる隠しスペースみたいな。
ズラッと並ぶ武器はワクワクするんだよな。
スライドしたりせり上がってくる棚とか、最高だな。
まあ、それは後で。
まずは五階層を攻略してしまいたい。
そのための武器や薬を作ろう。
今日は地べたスタイルでクラフトしていくぞ!
【薬術】は、素材から作れるものが事前にわかるらしい。
――薬の調合、使用するための知識を得る、という効果だな。
薬は効能がはっきりしていないと使い物にならないからかな?
なんだかわからないクスリなんて飲みたくないし。
「えーと、作れるのは消毒薬、毒消し、風邪薬、虫下し、解熱剤……」
あれ……思ってたんと違う!
普通のクスリじゃないか。
これなら薬局で買ってきたほうが早い感あるぞ。
いや……「簡易な薬」だもんな。
スキルレベル1はこんなもんだ。
【忍具作成】だって、最初はショボかった。
でも、作る前に候補が分かるのは便利だな。
【忍具作成】には、なぜかこの機能がない。
そのせいか、多少融通が利く気もする。
イメージ力でカバーできる感じ。
擬人化するなら――
ちょっと親切な【薬術】ちゃん。
頼まれたら断れない【忍具作成】君。
スキルもなかなか個性豊かじゃないか。
作れるリストには忍者っぽいものもある。
それを意識した素材を買ってきてるからな。
こっちを作ろう。
これが本命だ!
「兵糧丸、水渇丸があるな。これは頑張れば普通に料理で作れるけど……ものは試しだ。作成!」
まずは兵糧丸から。
持ち運び、食べやすさを考慮して小粒なイメージを浮かべる。
兵糧丸もサイズはまちまちらしいが、大きいのは食べにくいだろう。
オニギリやオハギのサイズのものを口いっぱいにほおばるより、ひょいひょいとつまめるほうがいい。
ウズラタマゴくらいのサイズ感にしよう。
素材と魔石が淡く光る。
穀物やソバ、きな粉、調味料などから光が集まってくる。
「お、できたな。きな粉をまぶした団子みたいだな。さっそく食べてみるか」
ちょうど昼時だ。
ランチに保存食を食べるのもどうかと思うけど。
驚くほどまずかったりしたら、改良しておかないといけない。
できたての丸薬、兵糧丸を指でつまんで口に放り込む。
「んむ。味は……ぼそぼそのソバだな。きな粉ソバ味って感じか。……食べられないほどじゃないけど、うまくはないなあ」
これはこれでいいか。
さらに、味付け変えるイメージでもう一度作ってみよう。
調理時間がかからないから、気楽に作れる。
今度はゴマを多め、はちみつを多めに。ベースはソバと雑穀。
食感が欲しいのでゴマは表面にまぶす感じに。
【薬術】さん、美味しいの頼むよ!
スキルが発動して、あたらしい兵糧丸が出来上がる。
「今度のはゴマ団子風だな。ゴマのプチプチ感はなかなかいい。ベース部分はぼそぼそ……おっ?」
噛んで兵糧丸を割ると、なかからトロリとはちみつがあふれてくる。
真ん中に空洞があって、そこにはちみつが隠れていたのか!
「おお、甘くてうまいし、ぼそぼそ感もなくなる。こりゃいいぞ!」
はちみつ自体も高カロリーだし、栄養補給の観点でもバッチリ!
これは、女子ウケもよさそうだ。
オトナシさんに食べさせたら喜ぶだろうな。
でも、持ち出せないんですけどね。
持ち出せるなら兵糧丸屋として一旗あげるのもアリだな。
フードデリバリーが流行っているようだし、イケるんじゃね?
……まじで、やろうかな。
「よし。次は水渇丸を作るか。これは酸っぱい系だな」
食べると口の中に唾液が湧き出して喉の渇きを癒すというシロモノ。
しかし、長期間張り込み任務でもするのでなければあまり意味ない気はする。
俺はダンジョンにスポーツドリンクを持ち込んでいるし、日帰りだ。
活躍の場はないような気がする。
でもとりあえず作成!
梅干し、ショウガ、塩、砂糖などから光が集まってくる。
一か所に集まった光が消え、丸薬が残る。
完成だ。
食べる前から予想はつく。
どうせ罰ゲームみたいな味なんだろう。
俺は眉をひそめながら、意を決して口に放りこむ。
「――酸っぱぁ! やっぱりね!」
つよい酸味に、口の中に唾液がじゅわっとあふれてくる。
味の濃い梅干しで、あとは時にツーンとショウガが香る。
すっぱさとしょっぱさ、それに少しの甘さ。
たしかに、喉が潤う。
それに、刺激が強いので眠気覚ましにもいいかもしれない。
……二つ目を口に入れる。
「んんーっ! これ、くせになる味だな!」
追加でいくつか作っておこう。
しょっぱい系に寄せたイメージでも作ってみる。
塩分補給丸だな。運動の後によさそうだ。
「これもなかなか……」
甘い兵糧丸としょっぱい水渇丸で無限に食い続けられる!
甘い、しょっぱい、甘い……。
はっ!
ついつい食べ過ぎてしまった……。
作ったもの全部食べたら携帯食として意味がない。
追加でもっと作っておこう。
保存がきくので、瓶に入れて拠点に置いておくことにする。
料理するのが面倒な時は、これで済ませてしまうのもいいな。
無精すぎるか。
あれ、思ってた感じのクスリを作るスキルじゃないけど便利じゃん。
ちなみにコストも安い。
魔石1個の消費で、小さな丸薬が3粒という感じ。
料理の手間を考えれば、ゴブリン一匹狩るほうが楽だからな。
試しにやってみたところ、材料ナシでも作ることができた。
魔石を5個使う。お高い。
そして味は……マズい。
驚くほどマズい。
飢え死に寸前だったら食べてもいいかな、という味。
泥団子に泥をかけて食ったような……。
それはもう、泥ですよね!
味覚がなくなったら、こんな感覚なんだろうか。
だが、わざわざマズいものを食べることはない。
これは没だな。
食事はダンジョンの中での気力回復や気分転換でもある。
ゲーム的な、ステータス的な気力やSAN値があるわけじゃない。
だけど、それに近い概念は普通の人間にもある。
医食同源とはよくいったものだ。
食べ物をちゃんととることは健康につながる。
生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。
トクホ的なやつだね。
バランスの良い食生活は病気の予防にもつながる。
さらにそれが美味しい食事なら、もっと元気になれる。
最近、朝は元気な俺。
元気を持て余すほどだ!
オトナシさんのおかげだな!




