ルールの再定義! からの乱入!?
スナバさんが言う。
「さて、休憩はもういいな」
「ですね。三回戦やりますか! 今度の役割はどうします?」
「攻撃役はエドガワだな」
「えっ! ボクが攻撃ですか……?」
俺はうなずく。
「攻撃役をやってないのはエドガワ君だけだ」
スナバさんが言う。
「あとは護衛と護衛対象だが、クロウさんはどちらがいい?」
選ばせてくれるっていうなら護衛役だよね。
守られる練習をしてもしょうがない。
「護衛役でお願いします」
「よし、なら俺が護衛対象だ」
「ルールはさっきと同じでいいですか?」
俺は言う。
「さっきと同じで、スキルや異能には触れてもオーケーとしよう。分身には攻撃してもいいぞ」
エドガワ君の異能には最初から触れているようなものだし。
壁や膜があるわけじゃないので、触ってはいないのだが。
ややこしい能力だこと!
能力に触れても負けにはならない、ということを明確にしておく。
エドガワ君は困った顔をしている。
「分身を攻撃って言われても……殴ったら倒せるんですか?」
「ある程度ダメージを与えたら消える。俺は痛くないから気にせずやっていいぞ」
「やりにくいんですが……」
エドガワ君は気まずそうな顔をしている。
そりゃそうか。
「他に確認や変更はあるかな?」
エドガワ君があわてたように言う。
「あ、あります! さっきのはナシで……えっと、入れ替えの術ですか?」
スナバさんがうなずく。
「たしかにこのルールでは強すぎるな。禁止でいいか、クロウさん?」
スナバさんが俺を見る。
俺はうなずく。
「入れ替えなしか。いいですよ。分身はアリでかまいませんね?」
「ええと、はい」
「普段使うスキルはなるべく使ったほうが訓練になるからな」
これはスキルや異能は持っている前提の訓練だ。
実戦では能力を縛って戦ったりしない。
でも、訓練のルール上バランスが崩れるから【入れ替えの術】を禁止するという話だ。
何度も術を見せると弱点がバレるし。
例えば【入れ替えの術】は動き回る相手には発動できない。
能力を知られると対策される。
仲間とはいえ、弱点をわざわざ知られたくない。
だから使わないで済むならそのほうが良い。
ちなみに【分身の術】にはこれと言った弱点がない。
見せ放題な術である!
スナバさんが言う。
「他のスキルがあるなら使ってもかまわない。ただ、ケガするような攻撃は禁止だ」
エドガワ君が両手を合わせて俺を拝む。
「やさしくお願いしますね! ほんとに!」
「わかってるって。強く殴ったりはしない」
ルール上、護衛役が攻撃してもいいのだ。
でも生身で攻撃したら攻撃役に触ってしまう。
すなわち負け。
しかし分身なら接触扱いにならない。
攻撃できるってわけだ。
だけど、防御的な使い方にとどめるとしよう。
エドガワ君が泣いちゃうからな!
ルールを調整しながら訓練を続ける。
同じルールでくり返すより、変化があったほうが役に立つ。
「あとは……ん?」
「誰か来たな」
訓練室のドアが叩かれている。
エドガワ君がドアを開け、顔を見て言う。
「はい……あ、ナギさん?」
ドアからひょこりと顔をのぞかせたのはナギさんだ。
楽しげに笑いながら室内に入ってくる。
足取りも軽い。
あれ? ナギさんてこんな感じで笑うのか。
なにか浮ついているし、違和感があるな……?
御庭がいないからか?
俺は言う。
「ハルコさんとの話はもう終わったんですか?」
「……」
ナギさんは無言でうなずく。
口元は緩んで笑顔の形になっている。
エドガワ君は後ろに下がってもじもじしている。
ナギさんがエドガワ君に近づく。
「……」
「な、なんです……?」
エドガワ君は顔を赤らめてうつむく。
この二人のからみは見たことなかったな。
ていうか、違和感の正体がわかった。
これ、ナギさんじゃない。
見た目はナギさん。顔も服もさっき見たままだ。
でも中身は――
「ぷっ! あはは! 私ですよぉ」
「やっぱりハルコさんか!」
笑いをこらえきれずに吹き出したのは、ナギさんの幻をまとったハルコさんだった。
おかしいと思ったんだよね!
ハルコさんは目に涙まで浮かべて笑っている。
ナギさんのイメージが壊れるわ!
エドガワ君が驚いて、ナギさんに化けたハルコさんを見る。
「えっ!? これ、幻ですか!?」
「そうなんですぅ! 御庭さんが変化の術をやれって……そしたら、できちゃいましたぁ!」
ハルコさんがくるくるとその場で回る。
うーん。ナギさんの見た目だと違和感がすごい。
「見た目は完全にナギさんだな。表情や動きが違いすぎるけど!」
「盛れすぎて別人ですよねぇ! すごくないですかぁ!?」
自分の体にナギさんの見た目を貼り付けているのだ。
ハルコさん風に言えば盛っている。
「ああ、すごいな!」
俺は変化の術は持っていない。
取得リストにも現れないから、適性がないのかな?
「御庭さんがすごく喜んでくれて……君こそ次世代の忍者だ! なんて!」
スナバさんがやれやれという感じで言う。
「また御庭の忍者かぶれが出たか……」
スナバさんは黙っていたけど、入ってきたときから気づいていたな。
スキルで見破ったのかもしれない。
俺は二人を紹介する。
「こちらスナバさん。ナギさんのふりをしているのがハルコさんだ」
ハルコさんが幻を解く。
いつもの顔が現れる。服もブランド服に戻る。
「アオシマハルコです。よろしくおねがいしますぅ!」
ハルコさんは上目遣いにスナバさんに笑いかける。
スナバさんは小さくうなずく。
「よろしく。スナバレンジだ」
エドガワ君が続く。
「あ、ボクはエドガワトオルです……って、知ってますよね」
「これから一緒に働くらしいので、お願いしますねぇ、トオル君!」
いきなり名前呼び! グイグイいく!
エドガワ君は少し戸惑いながら言う。
「えっと……はい。お願いします」
「でもトオル君、私のときとコハルさんのときで差がありすぎじゃないですかぁ?」
ハルコさんは頬をふくらませてエドガワ君に指をつきつける。
「え?」
「しゅっとした美人さんがタイプなんですねぇ?」
ハルコさんはからかうように言う。
「い、いえ。どちらかというとニガテで……」
「ドキドキしちゃうからですかぁ? 私には塩対応なのに……」
ハルコさんが悲しげな顔を作る。
エドガワ君は降参するように両手を上げて後ずさる。
「いえ! ハルコさんもニガテです! じゃなくて……ああ……」
エドガワ君は頭を抱える。
そろそろ助けるか。
「ハルコさん。訓練の途中なんだ。少し待ってもらえるかな?」
「あ、はーい。わかりましたぁ」
スナバさんが言う。
「それならシズカと一緒に見学していてくれ。シズカ、挨拶しろ」
シズカちゃんが小さく頭を下げる。
「うわぁ! かわいいですねぇ? よろしくね」
「……」
シズカちゃんはさっと、スナバさんの後ろに隠れる。
ハルコさんが俺を見る。
「あれぇ? また私、嫌われちゃいましたかぁ?」
「シズカちゃんは人見知りなんだ」
「いつものことだ。すまないが、仲良くしてやってくれ」
スナバさんがシズカちゃんの背をやさしく押す。
二人は訓練室の端に仲良く座った。
さて、訓練の続きだ!




