護衛ゲーム! 道場を脱出しよう! その2
「クロウさん。行きますよ!」
「おう!」
エドガワ君がゆっくりと動く。
スナバさんを周りこむように、少しずれる感じ。
俺は遅れないようについていく。
だが……わずかなズレが生じる。
スナバさんが言う。
「この能力……俺が押し返されるわけではない。近寄らせない能力とはこういうことか!」
「そうです。押し返す能力ではないんです」
磁力や反発力、バリアとは違う。
近づかせないだけだ。
バリアや透明の膜で、相手を押すのとは違う。
こちらから相手を遠ざけることはできない。
この能力は距離に作用する。
だが距離を一定に保つのとは違う。
相手側から距離を狭めさせない、という能力なのだ。
複雑だなぁ……。
スナバさんが思案顔で言う。
「エドガワが自分から近づくことはできるんだな?」
「はい。ボクのほうから近づけます。そのぶん近づいちゃいますけど……」
自分で距離を詰めても、相手は遠くならない。
詰めた分、相手との距離は短くなる。
スナバさんとエドガワ君は能力について口にしている。
普通なら自分の能力は隠すものだ。
相手側もわかったことを言わない。
これは訓練だし、エドガワ君を鍛えるためでもある。
俺もエドガワ君の能力の問題点に気付いたが、あとで話すことにしよう。
言ったらすぐ負けちゃうからな。
スナバさんは手で空中を押すような動作をしている。
強度を確かめているんだろう。
ふわりと押し返されるような感じだ。硬くはない。
トウコが試したときは柔らかい膜のようだと言っていた。
「たしかに近寄れない。だが、さっきよりも距離は近づいた」
「ボクが前に出た分ですね。これ以上僕からスナバさんに近づかないように動きます」
エドガワ君が斜め方向へ一歩進む。
これでも出口へは近づいている。
俺はエドガワ君に遅れないように、できる限り早く反応する。
ぴたりとくっついて動くのは難しい。
二人三脚のハードモードみたいな感じ。
スナバさんが位置を変える。
俺たちが進みたい方向をふさぐ位置取りだ。
「近づくことができなくても、こうして進行方向をふさいでしまえばいい」
「そうですね。でもこうして少しずつ斜めに進めば……」
エドガワ君はスナバさんに近づくことができる。
押し返すことはできないので、距離は近づく。
だがスナバさんは、そのわずかな距離を詰められない。
仮に十センチの距離に近づいたとしても、エドガワ君に触ることはできないのだ。
これを利用して、エドガワ君はギリギリの距離を保つ。
俺を背にして、間に入る感じだ。
こうして俺たちはじわじわと進んでいく。
進んでいくのだが……。
でもこれ……ヤバいな。
位置取りが悪い。
スナバさんが言う。
「このままいくと壁だが、いいのか?」
「えーと……壁際はダメなので……方向転換します」
スナバさんは両手を伸ばして立ちふさがっている。
壁とスナバさんの間に、俺たちが通れるスキマはない。
仮にエドガワ君が通れたとしても、あとに続く俺は通れない。
すでに俺とエドガワ君の距離は開始時よりも遠くなっている。
エドガワ君の能力は敵味方を区別しない。
俺のほうからエドガワ君に近づくことはできないのだ。
これが気付いた弱点の一つ。
後ろについていく仲間も、エドガワ君に近づけないこと。
どんなに素早く反応しても、エドガワくんと同時に動くことはできないからだ。
わずかな動きのズレでも、距離が少しずつ離れてしまう。
もちろん、エドガワ君が少し下がって近づいてくれれば済む話だ。
だが、前後の距離を把握するのは難しいだろう。
今回、俺は一般人の役割だ。
助言はしない。
エドガワ君が考えて動くしかないのだ。
とはいえ俺も、スナバさんに弱点がバレないようには動くつもりだ。
「回り込んで……!」
「そうはさせないがな」
そういうとスナバさんはエドガワ君の動きたい方向に移動する。
エドガワ君は壁とスナバさんに阻まれて動けない。
スナバさんもうまい!
エドガワ君は能力で距離を支配している。
対してスナバさんは経験と立ち回りで、行く先を阻む。
どちらもじりじりと動けない。
立体的な詰将棋みたいだな。
「うう……絶妙なところに……」
アラームが鳴る。
時間切れだ。
俺は言う。
「訓練終了! おつかれさま!」
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