護衛ゲーム! 道場を脱出しよう!
スナバさんが言う。
「では二人はスタート地点に立ってくれ。俺は一度外に出る。準備ができたら合図してくれ」
スナバさんが入り口から外に出る。
エドガワ君が不安げに俺を見る。
「準備……? えーと、なにかありますか?」
「エドガワ君が不安なこととか、気になることはあるか?」
「ルールが少し。触られずに、クロウさんを部屋から出せば勝ち、ですよね?」
「そうだ」
「出れなかったら負け、ですか?」
「それは決めてなかったな。護衛対象が無事なまま時間切れってことだろ?」
「そうです」
「引き分けかな? この試合が終わったら改めてルールを決めようか」
スナバさんを呼び戻してもう一度ルールを話し合うのはテンポが悪い。
このまま始めてしまおう。
「はい。じゃあ、負けないようにがんばります……」
「どうせなら勝ちたいが……まあ、頑張ろう」
「作戦、どうします?」
「今回はナシでやってみようか。俺はエドガワ君の言う通りに動くから、自由にやってくれ」
「自由にやれと言われると緊張しますね……」
「まあ、訓練だ。失敗してもいい」
本番で失敗するのとは違う。誰も死なない。
なら勝ち負けなんてどうでもいい。
楽しめればいいよな!
「は、はい。なんだか楽しそうですねクロウさん……ボクは緊張してきました……」
「ま、気楽にやろうぜ!」
「クロウさん。僕のそばにぴったりとくっついていてください」
「おう。こんなもんでいいか?」
俺はエドガワ君の斜め後ろにぴったりと立つ。
これ以上近いとぶつかって動けない。
「は、はい。大丈夫です! これで準備オーケーです!」
「じゃ、アラームを三分にセットして――」
俺はスナバさんに声をかける。
「――スナバさん、準備できました。訓練開始です!」
「よし、突入する!」
俺はアラームを開始させる。
スナバさんが素早くドアを開け、部屋の中を確認する。
そして素早く侵入してくる。
あっという間に距離を詰めてくる。
もう道場の半分以上をスナバさんは進んでいる。
「クロウさん。こちらはゆっくり進みますよ! 能力を使います!」
「おう!」
能力を発動したらしいが、目に見える変化はない。
エドガワ君の異能は敵味方問わず、接近を許さない。
今俺はエドガワ君のすぐ近くにいる。
おそらく能力の範囲内だろう。
だが、範囲外まではじき出されたりはしないようだ。
エドガワ君が一歩前に出る。
俺はその歩みに合わせて動く。
む……!
これは……!?
俺は動揺を隠して、なるべく早く追従する。
スナバさんはもう目の前、手が届きそうな距離にいる。
スナバさんがエドガワ君に掴みかかる。
だが、その手は届かない。
空中のなにかに阻まれるように動きを止めている。
「む。これがエドガワ君の能力か!」
「はい」
スナバさんが手に力を込める。
その様は、まるでパントマイム。
見えない空気の膜でもあるみたいだ。
「近寄れないな。力で押しても手ごたえがない」
「壁があるわけじゃないんで……」
エドガワ君とスナバさんの距離は一メートルほど。
それ以上縮まらないようだ。
あれ?
前は半径五十センチ程度だったよな?
そうか! ここは外だからだ!
「いいぞ! エドガワ君! がんばれ!」
「はは……」
俺を守ってくれ!
応援することしかできないけど!
異能者は悪性ダンジョン領域内では力が弱まる。
外にいる今、エドガワ君には制限がない!
逆に俺とスナバさんはダンジョン保持者だ。
ダンジョン内に比べるとスキルは二段階弱まる。
しかし異能者であるエドガワ君は全力を出せるってわけだ!
これなら勝てるかもしれない!




