投擲で的あて! トンチで穴を突く!?
エドガワ君が言う。
「あ、そうだクロウさん! 銃じゃなくて、なにか忍術みせてください!」
「ん。いいけど……的を狙うのか? それなら手裏剣を投げるか。術ではないけど投擲のスキルを使う」
銃とか魔法みたいな見栄えのいい派手な術はない。
見せれるのは投擲、手裏剣術だな。
スナバさんも乗り気みたいだ。
「俺も見てみたい。やってくれクロウさん」
お。お許しが出た。
シューティングレンジで手裏剣を投げても問題ないらしい。
俺は隠し持っていた三寸釘を取り出す。
ベルトなどに仕込んで、いつでも使えるようにしている。
「投げるのはこのクギだ。棒手裏剣に見立てている。相手によっては五寸釘やクナイを使うんだけど、持ち歩くには大きすぎる」
持ち運べないわけじゃない。隠し持てないのだ。
法的なアレである。
「こうして、手の指に添わせるようにして構える。親指で押さえてチョップに近い形にする。上から振りおろすようにして――投げる!」
棒手裏剣が一直線に的へと向かって飛ぶ。
的の中心に穴を穿つ。
「おお、やるな!」
「すごいですね!」
お、わりと高評価!
スナバさんが言う。
「無回転投げなんだな」
「ナイフ投げだとそう呼ぶらしいですね。回転させず、すっと飛ばす感じです」
俺は直打法と呼んでいるが、呼び方はどっちでもいい。
「他の投げ方もできるんですか?」
「俺はこの投げ方しかやらないな。回転する投げ方は好みじゃなくてさ」
「そうなんですねー」
スナバさんが補足する。
「回転させる場合は刃が標的に向かわないといけないからな」
お、わかってるね。
たぶんスナバさんも刃物を扱うんだろう。
「スナバさんの言う通りだ。距離によって投げる力加減を変えなきゃならない」
直打法でも多少の回転はかかるし、力加減も変えている。
そのへんは【投擲】さんがうまくやってくれる。
やってるうちに体で覚えて、考えなくてもできるようになってくる。
回転させる場合は、もっと加減が難しくなるってことだ。
多数の動く相手と戦うには都合が悪い。
練習とスキルの補正でどうとでもなるのだが、やはり最初に覚えたやり方がしっくりくる。
そういうわけで、この投げ方を愛用しているのだ。
俺は棒手裏剣を構える。
「さて、回転させない投げ方にもいろいろある。上から下じゃなくて、下から上でも投げられる。こうだ!」
俺は一歩下がって、ブースから距離を取る。
そして下からすくい上げるようにして釘を投擲した。
命中。
動かない的に当てるのは簡単だ。
「あ! ちゃんと中心に当たってますね!」
「ダンジョンではポーチを腰につけている。そこから抜いて投げる。動いたり走ったり、跳んだりしてな」
俺は動きながら釘を投げていく。
壁や天井に立って投げてみたり。
【壁走りの術】はレベル三だ。外でも使える。
「すごっ! 壁に立ってるのがすごいですよ!」
「どんな体制からでも投げられる。相手が動いていても同じだ」
飛び回るコウモリに比べれば、動かない的に当てるのは簡単だ。
全弾が中心に命中しているわけではない。
でも、当たれば敵は死ぬ。有効打にはなる。
俺は的を戻す。
紙の中心付近は穴だらけだ。
「うーん。ワンホールショットにはなっていないな」
「それはそうだろう。銃とは違うからな。俺がナイフを投げたとしても難しい」
スナバさんがフォローしてくれる。
ナイフ投げで似たことができるってことだな。
「ボクが投げてもあたるかわかりませんよ!」
「別のスキルで試してみたらどうだ?」
「んー。投擲以外のスキルか……。俺は飛び道具を出す能力はないんだけど」
「別に飛び道具でなくてもいい。クロウさんがレーン内に入らず、三メートル先の標的の中心に穴をあける。できるか?」
「ふーむ。そのルールならできるな」
射撃場でやることじゃないけど。
俺の言葉にエドガワ君が反応する。
「あるんですか!? そういうスキル!」
「たぶん、期待するのとは違うけどな」
「それでもいいです。やってみてください!」
「んじゃ、分身の術!」
俺は分身をレンジ内に生み出す。
的の目の前だ。
俺は分身にクギを投げ渡す。
手にしたクギで、分身は的の中心を突き刺した。
――的の中心に穴が開いた。
「ほら、できたぞ」
「トンチじゃないですか!」
「投擲以外のスキルだ。レーンにも入っていない。ルール通りだ。穴も開いた」
「そうですけど……」
「ほら、期待と違っただろ?」
エドガワ君は肩透かしを食らったような顔をしている。
スナバさんは真顔で言う。
「ルール通りだ。実戦だとすれば敵も倒せる。問題ない!」
「そういうものですか……?」
「ルールの穴をついたんだ。できることで、やれることをやる!」
「限られた条件下で任務を達成する。クロウさんの考え方は理にかなっているぞ、エドガワ」
「言われてみればそうですね!」
実戦ではできないからって言い訳はできない。
飛び道具がなければ、使えるものを使う。
ダンジョンの中なら【引き寄せの術】で的を手元に寄せたりもできる。
方法はいろいろだ。
俺は忍者なんだし、正攻法で攻めなくてもいい。
なかなか、わかってもらえないんだけどね!
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