スナイパーが教える近距離戦の構え!?
スナバさんがエドガワ君に銃の構え方を指導している。
銃の訓練に興味があるので、スナバさんの指導を見学することにした。
ハルコさんの面談はまだ終わらないだろうし。
「俺は端っこで見学させてもらいますね」
「そうか。気になることがあれば質問してくれ。では、エドガワ。構えろ!」
「はいっ」
エドガワ君が銃を構える。
だがその構えは見慣れないものだ。
左を前にした、半身のスタンス。
右手で銃を持ち、左手で支える。銃を胸につけている。
腕は伸ばさない。
肘を張って胸の前で手を組む姿勢に似ている。
ケンカの前に指をポキポキ鳴らしそうな感じ。
さっそく質問する俺。
「変わった構えかたですね」
「この構えはハイポジションという。CARシステムの構えのひとつだ」
「カーシステム……?」
車の販売業みたいな語感だな。
そんなわけないが。
「エドガワ。解説しろ」
「は、はい。えーと。カーという人が開発した……」
「違う」
スナバさんが鋭く指摘する。
エドガワ君は少しびくっとする。
おお、やっぱり厳しいぞスナバさん!
「あ、違いますね。ウィーバースタンスと間違えました」
デリバリーのフードサービスみたいな語感だな。
そんなわけないが。
ウィーバースタンスもわからん。
俺はガンマニアじゃないし、ミリオタでもない。
「セントラル・アクシス・リロックの略だ。日本語にするなら中心軸で再固定、だな。では、ハイポジションについて解説しろ」
「はい。近い距離で武器を奪われにくい構えです。体に近いので銃も安定します」
両手で大事なモノを抱えている姿に似ている。
「へえ。確かに奪うのは難しそうだ」
「エドガワ。ウィーバースタンスで構えてみろ」
「はい」
エドガワ君が銃を構える。
これはカーシステムではなく、言い間違えたほうだな。
ウィーバーさんが開発した構えなんだろう。
右腕を前に伸ばし、左腕は曲げる。
銃は両手で保持する。
この構えも半身。四十五度くらいの角度だ。
トリガーを引く利き手側の肩が後ろになる。
「お、映画でよく見るやつですね」
「見栄えがいいからな。だが左右に狙いをつけるときに不安定になる。やってみろ」
「こんな感じですね」
エドガワ君が左右に狙いをつける。
特に左側を狙いにくいようだ。
「俺を狙ってみろ。頭だ」
「は、はい」
銃口がスナバさんの頭部を狙う。
数十センチの距離。
「弾は入っていない。当てるつもりで引き金を引け」
「はい――あっ!」
スナバさんが素早く動く。
銃は一瞬でスナバさんの手の中だ。
エドガワ君が引き金を引くよりも速い。
「こうして簡単に奪える。距離によっては腕の下に潜り込んでもいいし、左右に体を振ってもいい」
スナバさんが銃をエドガワ君に渡す。
「今度はハイポジションで構えろ」
「はい」
カーシステムのハイポジションの構え。
胸の前で銃をがっちりと持つ。
「これなら奪われない。左右への動きは腰の回転でつける。上下は体を傾ける」
ふーむ。
奪われないのは重要だな。
だけど、この構えだとサイトを覗けない。
質問してみよう。
「この構えで、どうやって敵を狙うんですか?」
「近距離戦を前提としている。精密な射撃が必要なら別の構えがある」
俺はうなずく。
「ああ、そういうことですか。カーシステムには複数の構えがあるわけだ」
「やってみせよう」
スナバさんが銃を抜く。
素早い。
そして顔の前で銃を構える。
「――こうして、サイトを覗いて射撃する」
左右に照準を合わせる動きも機敏だ。
エドガワ君と比べるとサマになるなぁ。
エドガワ君が動きをまねながら言う。
「それなら狙えそうですね」
「まだエドガワは覚えなくていい」
「えっ? どうしてですか?」
エドガワ君は目を丸くしている。
俺も不思議に思う。
スナバさんは真顔で言う。
「ハイポジションで対応できない距離なら逃げろ」
「あ、はい……」
「おお、現実的だ!」
なんか、すごく納得できるな。
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