ウサギの穴とくっつき作戦!
「あれ、なんかのスキルっスか!? 土がぼこーんってなったっス!」
「フルスイングに似たスキルかもしれないな」
「吹き飛ばす効果ですね!」
尻尾の一撃は落とし穴の側面を吹き飛ばした。
ノックバック効果だろうか。
あるいは単に威力が高いのかもしれない。
どちらにせよ危険だ。
「感心してる場合じゃない。来るぞ!」
ワニはもう落とし穴を抜け出している。
俺たちのいる小山の反対側、低いほうから抜け出したのだ。
ワニは小山の周りをぐるぐると周っている。
警戒しているようだ。
「もっと深く穴を掘ればよかったっス!」
「無茶いうな! 人力で掘ってんだぞ!」
深い穴を掘れば、もっと簡単に倒せるだろう。
だが、そんなことはできない。
「分身さん、頑張りましたねー!」
【分身の術】を使って人海戦術で掘ったのだ。
体力や魔力には限界がある。
重機でも使えれば別だが、車など持ち込めないし、動かない。
準備にかけられる時間も無限じゃない。
過剰なほど準備したつもりだったが、ワニは予想を超えてきた。
「タフすぎるんだよな、コイツ……」
燃料を使っての火攻めで倒せると思っていたんだけど……。
まさか耐えるとは。
「ヒットポイントお化けっス!」
「倒せるんでしょうか……?」
このまま倒せなかったら……。
そんな不安が頭をもたげてくる。
ワニは俺たちより速い。
つまり、逃げることはできないのだ。
俺は迷いを振り払う。
「倒すしかない! 次の作戦だ!」
まだ策が尽きたわけではない。
次の作戦はシンプル。
投げモノをぶつけて動きを止める。
クモの粘着粘液から作った粘着玉を投げまくるのだ!
「くっつき作戦っスね!」
「やりましょう!」
俺は粘着玉を手に指示を出す。
「二人は攻撃を続けてくれ!」
「りょ!」
「はーい!」
粘着玉を振りかぶり、投げる!
「ていっ!」
【投擲】のおかげもあり、ワニの背中に命中!
玉が割れて、べとべとした粘液が飛び出す。
だがワニは気にせずに動き回っている。
背中じゃあ効果は薄い。
狙うのは腕や足。可動部だ。
よく狙って――もう一投!
「よし!」
「いいところに当たりましたねー!」
「ナイスー!」
ワニの前足に命中した粘着粘液が、動きを鈍らせる。
腕と体がくっついてくれれば最高だ。
だが――土が粘着粘液にくっついて、接着力を弱めてしまう。
「一発で足りないなら、ありったけ食らわしてやる!」
用意した粘着玉を投げまくる!
頭、腕、尻尾。
全弾命中!
ひっついた粘着物質がワニの動きを鈍らせる。
目や口も狙ってみたが、さすがに当たらない。
「フグォー!」
ワニが不満げな吐息を吐いて、斜面を駆け上がってくる。
俺は煙幕玉を投げつけ、視界を奪う。
だが、ワニはかまわずに突っ込んでくる!
「来たっス!」
「避けろ!」
「はい!」
俺は走るようにワニの進路から外れる。
トウコは身体を投げ出すようにして飛び退く。
リンは――
煙幕と砂埃に隠れて姿が見えない。
リンが立っていたあたりをワニが走り抜けていく。
「リン姉ーっ!」
「無事か!?」
リンの速度では回避は難しい。
だから、対策も打ってある。
……だからといって落ち着いてはいられない。
砂埃が晴れる。
「はいっ! 大丈夫ですー!」
リンの元気な声が返ってくる。
掘っておいた穴から、リンがひょこりと顔を出している。
ふう。無事だった!
わかっていてもドキドキするわ!
トウコがぐっと親指を立てる。
「ウサギの穴作戦、成功っスね!」
「ああ!」
リンが隠れていたのは人一人が入れる程度の穴である。
盾状のフタもついている。
入口は狭く、中は少し広い。
ウサギの巣穴を参考にしたものだ。
リンが穴から出て走ってくる。
「怖かったですー! でもうまくいきましたね!」
「もっと続けるのはどうっスか?」
「いや、何度も通用するかはあやしい。穴ごとぶっ壊されたら逃げられないからな」
これは一回だけ使う緊急避難なのだ。
もっと穴を掘って横穴で繋げる案もあった。
モグラ叩き作戦である。
だが、時間と労力がかかりすぎるので断念したのだ。
「よし、次はあっちの柵まで走るぞ!」
俺は柵を目指して走っていく。
「は、はーい!」
「リョーカイっス!」
 




