ワニワニ・ブレイク!
ワニが体を大きくくねらせる。
長くたくましい尻尾が、柵を薙ぎ払う。
「げっ! 壊れるぞ!」
「うえぇっー!?」
予定ではもう少し持ちこたえてくれるはずだったが――
ガラガラと音を立て、柵はもろくも崩れ去った。
ワニはギラリとこちらを睨んでいる。
槍を持たせた分身が突撃していく。
当たったが、空中で槍は止まっている。
防御を貫けない。
ワニが口を開けると、そこにはカミソリのように――
いや、ナイフのように鋭い歯がずらりと並んでいる。
分身がワニの口中に消える。
ここでもう少し足止めするつもりだったが……。
柵と一緒に予定も崩れた!
それでもわずかに距離を稼げた!
「走れトウコ! 死ぬ気でな!」
「死なないつもりで走るっス!」
槍や分銅を持った分身で時間を稼ぐ。
稼げるのはわずかな時間。
「チャージショットーっ!」
マグナムのチャージショットがワニの表皮ではじかれる。
しかしこれは、わずかに傷を残した。
ワニは苛立ったようにトウコに顔を向ける。
「フルスイング!」
顔面へぶち当てた刀の峰がわずかにワニを押し返す。
重すぎて吹き飛ばすことはできない。
ダメージも軽い。
トラックを棒で叩くようなものだ。
一発二発じゃどうにもならない!
やはり、正面切って戦うのはムリだな。
準備しておいてよかった!
開けた草原のなかで、少し盛り上がった小山。
俺とトウコは、そこを目指して走っている。
馬防柵を何重にもめぐらせ、要塞のように防御を固めた決戦の場。
ここへ釣りだすために走ってきたのだ。
あともう少し――!
しかしワニは俺たちよりも素早い。
力強い足で地面を蹴って、砂煙を上げて追走してくる!
「フゴーッ!」
大口を開けたワニがトウコの背にかぶりつく。
「どわあーっ!」
トウコは間一髪のところで【緊急回避】。
前方へ転がる。
すぐに立ち上がって走り出そうとするが、間に合わない。
「入れ替えの術!」
トウコと位置を入れ替えた俺は、すぐさま地を蹴って跳ぶ。
【回避】、【軽業】、【反発の術】を総動員してその場を離れる。
がちりとワニの顎が閉じるが、そこに俺はもういない。
着地して、さらに距離を取る。
だがワニの目は俺をしっかりと捉えている。
再び口を開け、俺を狙う。
その横面にトウコの放った散弾が命中する。
それでもワニは止まらない。
大きく開いた顎は、俺を丸呑みにできるほど大きい。
生臭い息が吹きかけられる。
「ゴフゥー!」
「うっ!」
【危険察知】がうるさいほどに警鐘を鳴らしている。
――走馬灯のように、意識が加速する。
尖った歯が並ぶ口内は白っぽく、喉の奥は見えない。
口内は表皮と違って柔らかそうだ。
攻撃か? 防御か?
今にも巨大な顎が閉じられそうだ――
攻撃する暇などない!
回避一択!
俺は脚に力を入れ、背後に跳ぶ。
ワニはぐいと前進して俺を追う。
そのとき――ワニの口中に炎の槍が突き刺さる。
燃え上がった炎がワニの口からふくれあがる。
ワニが身をよじって、口を閉じる。
口の端からはぶすぶすと煙が上がっている。
「ナイス援護だ、リン!」
「ギリ間に合ったっスね! リン姉の射程内っス!」
小山の上で待機していたリンが手を振っている。
「ゼンジさん! トウコちゃん! 早くこっちへ!」
リンの援護射撃を受け、俺たちは柵の内側に走り込んだ。
トウコは荒い息を吐く。
「ふいー! セーフっス! はぁはぁ……!」
「ここからだぞ! 気を抜くな!」
戦いの場に誘い込んだ。
これでやっとスタートライン。
さあ、ここからが本番!
反撃開始だ!
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