ワニワニ・フィッシング!
巨大に成長したワニボス。
今日こそ、奴を討伐する!
決戦の場はサバンナ第四エリアだ。
第五エリアから、こちらへ釣りだして戦う。
第五エリアは大きな川が流れている。
俺たちには水中のワニと戦う術はない。
川辺で戦うのも危険すぎる。
地の利がない状況では勝てない。
だが、ワニは俺たちを知らない。俺たちは奴を知っている。
情報を集め、対策を練って挑む。
それが俺たちのアドバンテージとなる。
戦う前から戦いは始まっている。
俺たちは第四エリアの乾いた大地に、できる限りの準備を整えた。
作戦も練った。そのために練習も積んだ。
見通しのいいサバンナに乾いた風が吹く。
双眼鏡の先、奴が動く。
にごった川から頭だけを出して獲物を探している。
距離は約百メートル。
肉眼では小さく見える。
だが、隣の立ち木と比べればその巨体ぶりがわかる。
やはり、デカい。
正直、もっと離れたい。
しかし、これが狙撃できる限界の距離なのだ。
使っているのはスナイパーライフルではないし、スコープの倍率も低い。
それにトウコは拳銃使いであって長距離狙撃は専門外である。
「いたぞ。準備はいいか!」
「あたしはいつでもオッケーっス!」
トウコはスコープを取り付けたライフルを構える。
弾丸は装填済。
すでに撃てる状態。あとは引き金を引くだけでいい。
風が砂埃を舞い上げる。
「まだ撃つな」
「りょ」
ワニが川から頭を出して岸へ近寄っていく。
川岸のウサギを狙っているようだ。
ウサギは警戒するように耳を動かしている。
ウサギが川辺から離れようと、ピクリと動いた。
すぐさまワニも動く。
水しぶきを上げ、勢いよくワニが巨体を現す。
滑るように飛び出して、ウサギを顎に捉える。
そのまま陸に上がり、ウサギを咀嚼した。
ワニは動きを止めている。
そして、こちらから全身が丸見えだ!
「今だ! 撃て!」
「アイアイっスー!」
トウコが引き金を引きしぼる。
乾いた銃声が長い尾を引いて響く。
ボルトアクションライフルの銃口から派手な発砲炎が噴き出す。
音速を超えるライフル弾は目で追えない。
【ピアスショット】のエフェクトで、弾道が光の線として見える。
ワニと俺たちを隔てる距離を引き裂くように弾丸が飛ぶ。
ぱっと空間が光り、ワニが身じろぎする。
光ったのは防御膜との衝突で起きた光だろう。
防御膜は分厚いようだ。
「命中! 次だ!」
「装填――」
トウコがボルトを引いて薬莢を排出する。
薬莢がくるくると宙を舞う。地に落ちると塵になって消える。
弾丸を指で押し込んでボルトを戻し、薬室へ弾丸を送り込む。
ボルトハンドルを押し下げて、トウコが言う。
「――完了っス!」
「よし! まださっきの位置だ!」
ワニは首をめぐらすように周囲を見回している。
警戒はあれど怯えはない。
王者の風格といったところか。
まだこちらの位置をつかめてはいない。
そして、探す気もないらしい。
つまらなそうに、川に戻ろうと動きはじめる。
いかん!
もっと気をひかないと!
俺は標的の方向を指で示す。
「川に戻らせるな! 撃ちまくれ!」
トウコは銃に頬を当てて、狙いをつける。
「見えたっス! うらっ!」
「――よし命中! 次!」
ワニはうるさげに身をよじる。
川ではなく俺たちのほうへと頭を向ける。
よし、いいぞ!
トウコが【銃創造】で出したライフルは単発式だ。
連射はできない。
一発ごとに弾を込める。
だがトウコの装填速度は目を見張る早業だ。
拳銃のリロードと同様に【装填】スキルが作用している。
クールダウン時間のため毎回【ピアスショット】は撃てない。
通常弾と【ピアスショット】を交互に撃っている。
【チャージショット】は命中精度が悪いため使えない。
「うらっ!」
「外れたぞ! 落ち着いてよく狙え!」
トウコの持つ【照準精度】はピストルやショットガン用のスキルだ。
近距離用のスキルだからライフルには乗らないのである。
だから今、トウコは自分の技量で狙いをつけている。
スキルなしだから百発百中とはいかない。
「わーってるっス! でもスキルなしじゃムズいんスよぉ!」
もちろん、今日に向けて練習はした。
そして練習の成果も出ている。
「やっぱり【狙撃精度】があったほうが……」
「イヤっス! あたしはコソコソ戦う気はないっス!」
当然、事前に話し合った。
遠距離用のスキルは近距離では使えない。
近距離で戦うことが多いトウコにとって遠距離用は死にスキルになる。
使えるスキルポイントには限りがある。
無理強いはできない。
「んじゃ頑張って狙え! 向かってくるぞ!」
「ひえーっ! ピアスショットォ!」
ワニはもう第四エリアに入ってきている。
砂を巻き上げながらこちらへと向かっている。
釣りだし成功だ!
 




