冷えた体をあたためよう! 脳が回復する!?
「ふうー」
俺たちは風呂に入って汗を流しているところだ。
「ふぃー! 生き返るっス!」
「あたたまりますねー」
草原ダンジョンの拠点周辺は春のように穏やかな気候になっている。
森エリアも寒いわけじゃない。
だが雨にうたれた体は冷える。
お湯につかると実感するな。
「トウコ、傷はどうだ?」
「もう治ったっス! ほらほら!」
トウコは浴槽のへりに腰かけて腕を差し出してくる。
うん。傷は残っていない。
「応急処置だけだとあとが残るかもしれないから、ちゃんとしておいたほうがいいぞ」
「傷跡っスか? 別に気にしないっス!」
ケガをしないのが一番だが、ケガをしたならちゃんと治しておくべきだ。
ダンジョンの外に出てもケガは治らない。
「トウコちゃん。せっかくお肌キレイなのにもったいないよー?」
「リン姉のほうがキレーっス! つやつやのムチムチで!」
ムチムチは肌と関係ないだろ!
「それを言うならモチモチじゃないか?」
「モチムチっス! おおー手に吸い付くようっス!」
トウコがリンの肌をまさぐる。
「くすぐったいよトウコちゃん!」
リンが体を震わせて水がはねる。
うーん。尊い。
俺はトウコに言う。
「ケガは治るにしても、もっと慎重になれよ、トウコ!」
今日の水たまりの件もそうだ。
避けた先にも注意を払わないと、命がいくつあっても足りない。
「どーせ死なないし、傷があっても店長がもらってくれるんでー!」
死んでも復活する安心感はある。
だが死んでいいわけじゃないぞ。
トウコはこのあたりの感覚がどうしてもユルい。
「……そういう問題じゃないだろ」
「おっ? 否定はしないんスね!」
もらわねーよ! とは言いにくい。
いや、そういう問題じゃないんだって。
「ほらほら! 足も治ってるかチェックよろっス!」
トウコが足を突き出してくる。
「治ってるが……」
浴槽の縁から足を突き出すポーズは角度的に危険だ。
絶対領域の防御がおろそかに――
リンが身を寄せてくる。
「わ、私もチェックお願いしまーす」
「リンはケガしてないよね!?」
もはや角度など関係ない。
どの角度から見ても致命打を放ってくるリン。
防御不能攻撃だと!?
「あたしが全身チェックするっス!」
「あっ! ちょっとー」
トウコがリンの背後から抱きつく。
押されたリンがしなだれかかってくる。
連携攻撃はやめろ!
俺のヒットポイントはもうゼロよ!?
風呂を出て着替えを済ませる。
風呂上がりのコーヒーはうまい。
「で、リン。スキルは考えたか?」
「はい。【魔力強化】がいいかなって。どう思いますか?」
「魔法使いのスキルっスね!」
料理人やモデルでなく魔法使いのスキルから選んだようだ。
それがいいね。
名称から効果は予想できるが――
「魔力を強化するスキルか? どういうものなんだ?」
「あっ! そうですよね。えーと、システムさん?」
【サポートシステム】が現れる。
<詳細モードの基礎スキルに相当するスキルです。【身体強化・魔力】【魔力増加】【魔力加算】【魔力・消費軽減】【魔力・回復速度強化】【魔法・威力強化】などが含まれます。取得には十スキルポイントが必要です>
「へえ。俺の【身体強化・敏捷力】とか【打撃武器・威力強化】みたいなスキルか」
【身体強化・敏捷力】はステータス補正が少し増える。
【打撃武器・威力強化】は武器で攻撃するときの威力が増える。
これの魔力版だな。
「あたしも【照準精度】とか【射撃威力】は取ってるっス!」
「【火魔法】を育てるのは難しいので、これで強くなれるかなー、って。どうでしょう?」
「いいと思うぞ。とくに身体強化系はステータスが強化されるから恩恵がデカい!」
「あ、それならあたしも【身体強化・敏捷力】とろっかなー」
「取れ取れ! おススメだぞ!」
「んじゃポチー!」
即決!
トウコが空中に指を走らせる。
トウコは火力にかたよったスキル構成だ。
防御的なスキルもあったほうがいいと俺は思う。
このへんは好き嫌いが出る。
俺の好みを押し付けるとトウコの良さが伸びない。
身体強化なら攻撃にも防御にも役に立つ。
これなら納得できるだろう。
「じゃあ私も……」
「あ、その前にリン!」
「はい。なんでしょう?」
「ほかの属性を選ぶのはどうだ? 土魔法とか水魔法とかさ。忍法の参考にもしたいし」
火魔法だけじゃなくてもいいだろう?
 




