水に潜む敵の倒し方……アレと同じやりかたで一網打尽に!?
「ファイアボール! あ……ダメみたいです」
リンが水たまりに火球を撃ち込む。
しかし、じゅうと音を立てて火は消えてしまう。
「あー。さすがにダメっスねー」
あたりまえだが、水中で炎は燃えない。
さすがに認識やイメージ力で物理法則を捻じ曲げるのは難しいようだ。
雨程度なら問題ないとはいえ、濡れている相手には威力が弱まる。
水中に逃げこまれれば炎は消える。
「水中のスライムを無理して倒す必要はない。離れよう!」
俺たちは水たまり――スライム溜まりから離れる。
「これからは頭上だけでなく水たまりにも注意して進まなきゃいけませんねー」
「マジ危ないっス!」
「あんまり心配させんなよ、トウコ」
「へへ。次から気を付けるっス!」
ここの水たまりは深さもわかりずらい。
ましてや、スライム溜まりになっているなんて予想できなかった。
となると……川の中もあやしいな。
「さっきのスライムは水にうまく隠れていたな」
「色がうすくて見えにくいっス!」
核も目立たない。
よほど注意しないと見つけられないだろう。
「【魔力知覚】でも見つけられませんでした……」
「【隠密】のようなスキルを持っていたんだろうな。リン、今は見えるか?」
リンがスライム溜まりをじっと見て言う。
「はい。かなり集中すればわかります。でも……歩きながら探すとなると、時間がかかっちゃいますね」
「この先進むときは、システムさんを先行させて足元だけチェックしていこう。そのルートを外れずに進む」
トウコは不満げに言う。
「うえー!? また地味地味作戦っスか!?」
「安全第一作戦だよ!」
行動を制限されるのは困るが、ダンジョンなんだから当たり前だ。
ピクニックじゃないんだぞ。
「せっかく広いんだから自由に動きたいっス!」
「地雷原を歩くような気持ちで進むんだよ! ちゃんとクリアリングしろ!」
回避する先の安全も確認しないといけない。
なぜかリンはうれしそうだ。
「えへへ。ゼンジさんのダンジョンみたいですね!」
あ、おそろい……!?
嬉しいか!?
そのあとはより慎重に進む。
水たまりを避けて、樹上にも注意を払う。
「そこの水たまり、いますよー」
リンの指さした水たまりを観察する。
広く浅い水たまりである。
足を入れるとしたら、ふくらはぎ程度の深さだ。
雨粒が波紋を作っていて、水は少し濁っている。
「どれどれ――おお、よく見ればわかるな!」
「ちょっと色が違うっス!」
水に潜むスライムは透明に近い。
ちょっと見ただけではわからない。
光の反射や水の揺らぎ。
雨粒が作る波紋の消え方。
よく見れば微妙な違和感がある。
「ちょっと動きを試してみるぞ――分身の術」
分身を出し、手を水たまりに突っ込ませる。
ざざ、と水が動く。
スライムが伸びあがり、腕を絡めとる。
そして分身を水の中に引き込んでしまう。
「分身さん!?」
「あたしもこんな感じだったっス!」
分身はそのまま頭までスライムに呑まれてしまっている。
リンが怖がるといけないので、すぐ消そう。
「ううむ。これはヤバいな!」
トウコがショットガンを向ける。
「やっつけてみるっス! ピアスショット!」
貫通効果を持った弾丸が水たまりを撃ち抜く。
激しい水しぶきが上がる。
水たまりの底には宝箱が二個残っている。
「お、水中でも貫通弾ならやれるのか!」
「すごいね、トウコちゃん!」
「へへ! ちな宝箱は――」
トウコは水たまりから宝箱を回収しようと手を伸ばす。
俺はトウコの襟首を捕まえて止める。
「ちょい待て! まだいるかもしれん!」
「まだいるよ、トウコちゃん!」
トウコが顔を青ざめさせる。
「うえー! うようよしてるっス! ひゃー!」
水たまりは広い。
全部倒せたわけじゃない。
うまく核を撃ち抜けた二体を倒せただけ。
宝箱は水たまりの底に沈んでいる。
「でもこれじゃ拾えないっス!」
「別に無理して拾わなくてもいいが……」
分身で拾うか?
くっついたスライムを倒すのはたやすい。
それでもいいが、どうせならまとめて倒したい。
俺はリンを見る。
「リン。できるか?」
「うーん。ファイアボールは届かないし……」
水中で火は燃えない。
それはもう試した。
「風呂を沸かす感じでやってみてくれ。熱々にしてやるんだ!」
「あ、なるほどー! わかりました!」
炎で水面をあぶる。
普通、炎の熱は上に行くんだが、なぜかこれでお湯がわかせる。
いつも風呂でやっていることだ。
この水たまりは風呂に比べれば水量も少ない。
しばらくそれを続けると、水たまりが温まっていく。
間もなく、ぽこぽこと沸騰する。
「あ、宝箱が出てきたッス! やっつけてるっス!」
「おお、これならまとめて倒せるな!」
茹だった水たまりの中に宝箱がいくつか現れる。
倒したってことだ。
さすがに熱湯には耐えられないようだ。
リンが喜びの声を上げる。
「あ、やりました! レベルがあがりましたー! ゼンジさんと一緒です!」
レベル二十二である。
「おお、おめでとうリン!」
「おめっス!」
久しぶりのレベルアップだな。
やはり環境が違うと経験値の入りがいいんだろう!
 




