水難の相! 川のトラブルには気を付けよう!
「トウコ! どこだ!?」
「トウコちゃーん!」
俺たちの呼びかけに応えるように銃声が響く。
音の方向へ注意を向ける。
ばしゃばしゃとした水音。
突きあげられた銃から硝煙が立ち上っている。
駆け寄ってみると――
――いた!
「あー! 大変! トウコちゃん!!」
トウコは水たまりから顔だけを出してあがいている。
顔と左手だけが水面から出ている状態だ。
思いのほか水たまりは深いらしい。
「がぼっ! て、店長!」
「トウコ! つかまれ!」
俺はトウコへ手を伸ばす。
近づくと水たまりの中が見えた。
少し濁った水。
その中に色が違って見える部分がある。
なにかがゆらゆらと蠢いている――!
「スライムに引っ張られてるっス! ううっ!」
「おいおい一匹や二匹じゃない! うようよしてるぞ!」
俺は差し出されたトウコの手をつかんだ。
と同時に、水たまりからなにかが伸びてくる。
スライムが触手のように体を伸ばしてきたのだ!
「うおっ!」
腕に絡みつかれた!
手袋と服の間の皮膚にスライムが触れている!
焼けるような激しい痛み。
酸性の消化液が俺の腕をむしばんでいる!
まるで焼けるようだ!
それだけじゃない!
スライムは俺の腕をぐいぐいと引っ張っている!
だがトウコを掴んでいる手を放すわけにはいかない!
腕におもいきり力を込めて引っ張り上げる!
「でえいっ!」
なんとかトウコを水たまりから引きずり出した。
「あ、あざっス!」
いや、まだだ! まだ安全じゃない。
トウコの足と腕にスライムはまとわりついたままだ。
「ひえーっ! しつこいっス!」
「早く水から離れろ!」
スライムはトウコを水たまりへ引き戻そうとしている。
俺の腕に巻き付いたスライムも同じだ。
体を登るのではなく、水場へと引っ張ろうとしている。
一匹ならたいした力はない。
だが――
何匹ものスライムが水たまりから体を伸ばして、うぞうぞと蠢く。
まとわりつかれたらヤバい!
ここは危険だ!
「水の中に引き込む気か? ……させるか!」
俺は腕に術をかける。
【反発の術】!
体表に反発力が生み出される。
スライムは弾けるように飛び散る。
びちゃりと地に落ちたスライムは一つにまとまろうと、うねうね動いている。
引きはがしただけ。倒したわけじゃない。
核はどこだ――!?
「て、店長! こっちも早く! くそーっ!」
トウコの右腕は銃ごとスライムに取り込まれている。
左手の銃を撃とうとしている。
だが自分を傷つけずに撃つのは無理だ!
トウコは狙いを定められずにいる!
「って言ってもな、どうするかーー」
【反発の術】は自分の体や服にしか効果がない。
トウコの体にはかけられないのだ。
しかたない!
俺はトウコの体にまとわりついたスライムに手を突き込む。
「はじけないなら――【吸着の術】だ!」
逆にくっつければいい!
スライムを手でこそげ取るように吸着していく。
「おお、あざっス!」
トウコの腕からスライムを引きはがす。
続いて、俺の腕に移ったスライムを【反発の術】で弾き飛ばす。
スライムがはじける。
意識を集中し、目を凝らす――
飛び散った粘液のなか、核が見えた!
「あった! ――引き寄せの術!」
空中の核を引き寄せて掴み取る。
すぐにそれを握りつぶす。
核が壊れると同時に、飛び散った粘液が塵となって消える。
リンが駆け寄ってくる。
「ゼンジさん! トウコちゃん! 大丈夫ですか!」
「リン、トウコの体に残ったスライムを焼いてくれ!」
腕のスライムは取り除いた。
残りは足に絡みついているやつだ。
「はい! ちょっと我慢してね、トウコちゃん!」
俺の術より、焼いたほうが早い!
リンがスライムに炎を吹き付ける。
焙られたスライムはのたうちながら縮んでいく。
「あじゃじゃ! あっつう!」
リンは【防火】でトウコが熱くならないようにしているようだ。
だが完全に熱を消せるわけじゃない。限界はある。
さらに、このスライムは燃えにくいらしい。
いつものスライムより水分が多いのかもしれない。
「あ、核がありましたー。えいっ!」
リンは核を狙って火を集中させる。
核が破壊され、スライムが塵になって崩れる。
「よし、倒したな!」
リンは眉を寄せて言う。
「ごめんねトウコちゃん! もっと早くできたらよかったんだけど……」
「ぜんぜん大丈夫っ! おかげで助かったっス!」
トウコは歯を見せて笑う。
そうは言っても、肌には火傷のようなあとが残っている。
消化液によるものだ。
トウコはあまり気にしていないようだが痛々しい。
「ポーション使うか?」
「もったいないんで、応急処置で充分っス!」
深い傷ではない。
トウコは帯をちぎって傷口に巻いていく。
【応急処置】スキルは、布を巻くだけで簡易な治療ができる。
だが、間に合わせにすぎない。
「ケチらず薬草丸も飲んどけ。ほら」
「あざっス!」
丸薬をトウコに渡し、自分も飲み込む。
これで俺の手の痛みも和らぐ。
「店長も応急処置いるっスか?」
「いや、いらん。帯がなくなるぞ」
薬草の効果で、ゆるやかに傷は癒える。
俺の傷はほっといても治る。
「店長もエンリョせずに! 帯がなくなったら着物を裂いてでも巻いてあげるっス!」
「その服を直すのは俺だぞ! 遠慮しろ!」
ケガが増えると服が減るシステム!




