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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
五章 本業は公儀隠密で!

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自然界の掟とは……!?

 浅い川で、幅もそれほどではない。

 魚もモンスターもいないようだ。


「お魚はいませんねー」

「魚とかカニのモンスターが居たらよかったっス!」

「食べる気満々だな」



 俺たちは小川をなんなく渡河(とか)した。


「ここから第六エリアだそうです!」

「川がエリアの境界だったか」


 第六エリアも引き続き森である。

 しとしとと小雨が降っている。

 第五エリアの霧雨より、少し雨粒が大きい。



 見える範囲に気になるものはない。

 俺たちは先へ進んだ。



「雨が強くなってきましたねー」

「さっそく帽子が役に立つな!」


 トウコがハットのつば(ひさし)を指でしゅっとなぞる。


「さすが店長えもん! 準備いいっス!」

「ああ、まあな!」


 俺は鷹揚に(ゆったりと)うなずく。


 第六エリア用に作ったんじゃないけど……。

 そういうことにしておこう!


「麦わら帽子が痛んじゃいそうで、心配です……」


 リンは麦わら帽子を手で撫でる。

 ふちから水滴が落ちる。


「多少は雨もしのげるだろ? このあと修理するし、傷みは気にしないでいいぞ」

「あ、そうですよね!」


 麦わらに防水性はない。

 あまり濡らすと水を吸ってしんなりしてしまう。


 でも問題ない。

 作り直すのは簡単だし、コストも安い。


「耐久強化の特殊効果を付与するより、新しい帽子を作ったほうがいい気がするな」


 リンは意外そうな顔をする。


「えっ? でも……ゼンジさんが作ってくれたものだから……」

「ああ、大事にしてくれているんだよな! なら直そう!」


 愛着があるなら、コストは度外視だ。


 俺の刀もそうだ。

 バットから引き継いでずっと修理している。

 取り替えるなんて考えられない!



 リンはぱっと表情を明るくする。


「はい! そうしてもらえると嬉しいです!」

「おう!」



 雨が(けむ)っていて視界が悪い。

 熱くも寒くもないので、不快ではない。



「ん……?」


 先を歩かせていた判断分身が動く。

 回避しきれずに倒されてしまう。


「鹿っス! うらっ!」


 トウコはホルスターから素早く銃を抜き、射撃する。

 茂みの向こうから角鹿が走り出てくる。


「大きめの角鹿だな。ボスよりは小さい」

「私、やります! ファイアボール!」


 リンが魔法を放つ。

 雨の中、火球はまっすぐに飛んで角鹿に命中。燃え上がらせる。


「キョアアッ!」


 だが鹿は頑丈だ。

 炎をまとったまま、こちらへ向かって突っ込んでくる!


「任せろ!」


 俺は出しておいた十文字槍を構える。

 今度こそ!


 ただ槍を握って突き出すだけ。

 難しいことはない。


 それでも正面に立つのはいやだ。

 少し体をずらして、槍を相手に向ける。


 鹿が頭を下げて突進してくる。

 鋭い角が向けられている。


「ていっ!」


 俺は横に軸をずらしながら槍を突き出す。

 首の下、胸のあたりに槍が突き立つ。


 腕に強い力がかかる。

 突進のエネルギーは大きく、支えきれない。


「おわっ!」


 俺は槍を手放す。

 無理に支える必要はない。


 鹿はそのまま数歩走って倒れると、塵になって消えた。



 俺はしびれる腕で槍を拾い上げる。


「いてて……正面から受け止めるのは無理があるな……!」

「ケガしちゃいましたか!?」


 リンが心配そうに駆け寄ってくる。


「いや、大丈夫だ。衝撃は逃がしたから」


 槍を手放さなければ腕を痛めたかもしれない。


「刀のときは平気(へーき)だったのに、なんでっスか?」

「斬るときは相手の側面を滑らせてる感じだな」


「へー。正面から突くのはまた違うんスねー」

「そういうことだ。刀のほうが使い慣れてるってこともあるけどな」


 槍に【片手剣】スキルは乗らない。

 うまく使いこなせるほど練習は積んでいない。


 ゾンビやゴブリン相手なら槍は突き出すだけでいい。

 大柄な鹿の突進を止めるには工夫がいる。


 馬ほどじゃないが、鹿は大きい。

 正面からぶつかったらはね飛ばされる。


 槍で貫いても、体がすぐに消えるわけじゃない。


「じゃあ分身でやればいいっス!」


 いつもは分身に槍を持たせる。

 この場合は文字通りに刺し違えてもかまわない。


「たまには自分で感覚をつかんでおかないと、分身の操作が雑になるんだよ。俺にできないことは分身にもできない」


 やってみてわかったこともある。

 少し身をそらした程度では衝撃を殺せない。


 槍のスキルは持っていないし、取る余裕もない。

 だからスキルによる(ファンタジーな)解決は望めない。


「さすがゼンジさん! 真面目ですね!」

「それに、そろそろワニと戦いたい。そのための練習だ」


 トウコが目を輝かせる。


「あ、ワニ! そろそろ行くんスか!?」

「ああ。別に忘れてたわけじゃないぞ。俺のレベルも二十を超えたし、二人も強くなった。そろそろ戦う時期だ」


「はい……! 怖いですけど、いつまでも放っておけないですよね!?」

「ああ。今回のシカボスが弱かったのは、成長してなかったからだろう」


「ワニさんは前より強くなっているかもしれません」

「【捕食】のせいっスね!」


「ああ。食って育つってのは厄介だぞ」


 このダンジョンは過ごしやすい。

 食材も素材も豊富にある。

 それゆえにモンスターも成長しやすいのかもしれない。


「なら倒して食ってやるっス! 焼肉定食(てーしょく)のオキテっス!」

「弱肉強食、かなー?」


 お、リンがつっこんだ。


「意気込みはいいぞ、トウコ! 最強の捕食者は俺たちだって、わからせてやろうぜ!」

「りょ!」

「はーい!」


 俺たちは決意(食欲)を新たにした。



 今日はせっかくここまで来たから森林エリアを探索する。

 そのあと準備してワニに挑もう!

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― 新着の感想 ―
[一言] ワニの肉は結構美味しいらしい…
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