ハズレアイテムだと見捨てられていたアレ、見直される!
俺たちは鹿を狩るために草原ダンジョンの森林側へやってきた。
自律分身は時間切れで消えたので、今は三人である。
キノコを採集して、頭上のスライムを避けて進む。
「キノコゲットっス! うぇーい! リン姉も!」
「……うぇ、うぇーい」
トウコとリンがじゃれている。
というか、付き合わされている。
「あんまりはしゃぐなよー。枝の上にスライムがいるぞ」
樹上の葉がわずかに揺れている。
ほら、落ちてきた――
「あぶっ!」
トウコが【緊急回避】でローリング回避する。
くるりと回転して膝立ちになって銃を構える。
片手でハットを押さえる姿は西部劇じみている。
だが、銃を撃つ必要はなかった。
リンがトウコが飛びのいてすぐ魔法を放ったからだ。
「ファイアボール!」
地面に落ちたスライムが燃やし尽くされる。
俺は周囲と頭上を確認して言う。
「よし! 周囲に敵はいないぞ。進むときは上も注意な!」
「はーい」
トウコが俺の袖を引く。
「店長大変っス! 衝撃の事実が……!」
「なんだよ?」
どうせくだらないことだろうけど!
トウコは愕然とした顔で言う。
「なんと! 帽子してると上が見にくいんスよ!」
「そりゃ……しょうがないだろ?」
麦わら帽子でも同じ条件だ。
あ、森の中は日がささないから、前回はかぶってなかったのかな。
新しく作った装備だからって、すぐ役に立つわけじゃない。
サバンナ方面なら帽子も活躍しただろうけど。
「リン姉は大丈夫なんスか?」
リンは珍しく得意げに胸をはって答えた。
「私は魔力を見ているから大丈夫なのー!」
目で見ているわけじゃなく魔力を知覚している。
帽子ごしでも見えているわけだ。
「うへー! 魔法すげーっス!」
「うん。便利だな!」
ダンジョンには見通しの悪い地形が多い。
【魔力知覚】は強スキルだ!
リンが少し先を指さす。
「あそこから第五エリアですねー」
先行させたシステムさんのナビで、エリアの境界がわかったようだ。
「よし、ボスがいるはずだから気を引き締めていくぞ!」
「りょー」
トウコは気の抜けた返事を返す。
「一度倒したからって油断するなよ、トウコ!」
「りょ!」
トウコはしゅばっと手をあげる。
今日は大角鹿のボス素材をゲットしようという計画だ。
狙いはボスである。
これはリンが言い出したことだ。
角や皮の素材が気に入ったらしい。
これまで素材はハズレ扱いにされていた感があった。
リンもトウコも肉目当てだったからな。
素材の価値が認められてよかったぜ!
エリアの境界を超える。
俺のダンジョンと違って、モンスターは境界線を越えて移動してくる。
それでも住んでいる場所は決まっているようだ。
おそらくナワバリのようなものだろう。
第五エリアにはボスの大角鹿がいるはずだ。
「あ、なにか来ますよ!」
「ボスか!? 戦闘準備!」
俺は刀を握りなおす。
構えるわけではなく、自然体。
体はリラックスさせておくが、気持ちは戦いに備える。
お、なにか見えたな。
森の奥から近づいてくる鹿の姿がちらりと見える。
木々にさえぎられて視界は悪い。
「んー? ボスほど大きくないっスね? 大きいザコ鹿っスかね?」
「きたよー!」
茂みを抜けて姿を現したのは、大柄な角鹿だ。
これまで見たザコ鹿より大きく、角も立派だ。
しかし、前回のボス個体より小柄。
ボスを倒してからさほど時間は経っていない……。
だが、もう復活している頃合いだ。
つまりコイツは――
「たぶん復活したボスだ! おそらく、まだ成長前の個体だろう! 油断するな!」
「はい!」
「角と皮はいただきっス!」
俺たちは戦闘に突入した!




