特別をめぐる攻防!?
ややあって、トウコ達が帰って来た。
「ただいまーっス!」
「魔石集めて来たぞ」と自律分身。
「おつかれ。早かったな」と俺。
「おかえりなさーい」
とリンが緩んだ顔で手をあげた。
指には指輪が光っている。
もちろん、角素材なので実際に光を放っているわけではない。
比喩的な意味である。
それを見て自律分身は俺にだけわかる程度に小さく頷く。
トウコが言う。
「あれ? リン姉の顔が赤いっス!」
「え? うん……えへへ」
リンは緩みっぱなしだ。
「あ! 店長とやらしいことしてたんスか? それなら気を利かせてもうちょい魔石集めてくるっス!」
トウコはくるりと向きを変える。
「やらしいことはしてねえ!」と俺。
「気をつかえてねーし!」と自律分身。
邪推するな!
普通の対応を頼む!
「あ、あれ? 違うんスか」
「違うかなー? ほら、前にお願いしていたアクセサリーを作ってもらったのー」
リンは普通に手をかかげて見せる。
さりげないアピール作戦は失敗。普通に見せびらかした!
トウコはぐっと親指を立てる。
「おおーっ! 例の普通の特別なやつっスね! よかったっスね、リン姉!」
「えへへ……ありがと」
自律分身が机の上に魔石を並べる。
「これでもう一品作れるな」
「じゃあ、あたしは――」
同じ指輪が欲しい、とかはナシで頼むぞ!
二個目を作ると特別が普通になるからな!
今度こそ空気を読んでくれ!
……それをトウコに期待するのは無理か!?
リンはさっきの表情のまま笑っているが――耳をそばだてている!
トウコが口を開く!
「――スケスケうすうす装備がいいっス! リン姉の!」
「作らねーわ!」
空気を読めな過ぎてよかった!
大きく外れて安全圏へ!
「トウコちゃん。そういうのは……ちょっとダメかな? ほら、防御力がね?」
「ちぇーっ!」
リンも平常モードへ!
ふう……。
すかさず自律分身が言う。
「トウコには新しいホルスターでも作るか? 鹿の皮があったろ?」と自律分身。
「そうだな。革製品はいいかもしれん! 実に妥当だ!」と俺。
ナイスフォローだぜ、自律!
トウコが片眉を上げる。
「妥当ってなんスか?」
「ちょうどいいんじゃないかってことだよ! いらないか?」
「いるっス! でもホルスターより帽子がいいっス! ちょっとボロくなってきたんでー」
トウコはかぶっていた麦わら帽子を見せてくる。
少しほつれているな。
トウコは戦闘中に地面に転がったりするから装備が痛みやすい。
「あ、私の帽子も少し……大切に使っているつもりなんですけど……」
リンも申し訳なさそうに帽子を見せてくる。
ほとんど問題ないけど……。
「んじゃ、あとで直そう。魔石が集まったら耐久強化を付与しておくよ」
「ありがとうございますー!」
「あざっース!」
「んで、トウコの装備だけど、カウボーイハットはどうだ? 革で作れるぞ」
「おー! いいっスね! じゃ、それで!」
すでに机の上には自律分身によって鹿の皮が用意されている。
話が早い!
んじゃさっそく――【中級忍具作成】!
それって忍具ではなくカウボーイ具なのでは……?
――とでも言いたげな気配を醸し出す忍具作成君。
いやいや忍具です!
欧米ではカウボーイ忍者がかぶってる……かもしれない!
帽子は前にも作ったよね!
麦わら帽子は忍具! 帽子は忍具!
ハットも忍具である!
――発動成功!
空気を読んで発動してくれたぜ!
作ったのは西部劇に出てくるようなハットだ。
両端が少し上がったタイプ。
カウボーイハットはフェルトや麦わらでつくることもあるようだ。
防水や通気性を考慮しているらしい。
今回は革で作った。
『角鹿の皮』を使いたいからである。
一度作れば草素材で作るのはたやすい。
草はいくらでもあるしな!
「ほれ、できたぞ」
完成した品物を見せる。
トウコは明るく笑う。
「おー! かっこいいっス!」
「曲線がいい感じにできているな」と自律分身。
近寄ってきたトウコの頭にかぶせる。
サイズもいい感じ。
トウコはリンに聞く。
「どうスか? 似合うっスか?」
「わあ、似合うよトウコちゃん!」
「夏休みの中学生から牧場の娘にクラスチェンジしたな!」
「なんスかそれー!?」
「ホメ言葉だよ!」
テキトウ言いました。
トウコは銃をホルスターから抜いてくるくると回す。
ぴたりと止めると、ゆっくりした動作で帽子をくいっと持ち上げる。
おお、なかなか様になっている!
「これであたしも草原一のガンマンっス!」
「トウコしかガンマンはいないし、間違っちゃいないな」
実際に草原一のガンマンである。
「へへー。気に入ったっス!」
「おう。よかったぜ!」
ミニスカ着物でカウボーイハット。
和洋折衷コーディネート!
似合っているし問題なかろう!
 




