忍術と忍法。火忍法と火遁の術の違い……気にならない?
リンとトウコと合流して草原ダンジョンで食事を終えた。
「ごちそうさま。さて、スキルを考えるぞ!」
せっかくだから二人と話しながら決める算段である!
トウコが口をとがらせる。
「店長だけレベル上げててズルいっス!」
「ズルいもなにもあるか!」
今週は表の仕事は最小限にできたのだ。
本職はダンジョンと公儀隠密である!
「ゼンジさん。スキルは上級忍術から選ぶんですかー?」
俺は腕を組んでうなる。
「まずは上級から選びたいんだけど、目移りしてなあ」
「自律分身をあげたらいいんじゃないっスか?」
「スキルポイントが足りない。次は八ポイントも必要なんだ」
「じゃあ、セットのやつっス!」
「【意識共有】のことか? 上げなくていい気がするなぁ」
【意識共有】はまだレベル一だ。
あと一ポイントでスキルレベル二にできる。
リンが首をかしげる。
「あれ? 【自律分身の術】と一緒じゃなくていいんですか?」
「セットで使う術だけど、別のスキルだし、同時に上げなくてもいいんだ」
「そうなんですねー」
「デメリットもあるしな。フィードバックが強くなる」
「記憶を受け取るのがたいへんになっちゃうんですね?」
俺はうなずく。
「そうそう。今でも濃い経験を受け取ると動けなくなるからな」
痛みの記憶。驚きや恐怖の感情までフィードバックされてしまう。
伝える情報は選べるが、印象が強いと伝わってしまう。
戦闘中に自律分身がやられると、俺が動けなくなってしまうリスクがある。
この効果まで強化されたら危ないのだ。
「便利だけど、むずかしいですねー」
「経験値も多く受け取れるんだけど……パスだな!」
自律分身の経験は俺に書き戻される。
取得経験値が還元されるのだ。
次のレベルまでの必要ポイントは一だ。
急がなくても熟練度で上がるから、このままでいい。
「他にどんなスキルが選べるんですかー?」
リンの問いに俺は指を折りながらこたえる。
「ええとな……【生気吸収】【魔力吸収】【爆発の術】【火忍法】――」
リンが驚いた様子で言う。
「えっ? 火忍法、ですか!?」
妙に食いつきがいいね?
「ん? 火のほかにも水忍法とかもあるぞ?」
トウコも身を乗り出して手をぐっと握っている。
「ついに忍法来たっス!」
「派手な術が使えるかもしれん!」
ついに派手そうなスキルが現れたのだ!
上級まで使えないとは、もったいぶりよる!
トウコが首をかしげる。
「なんで忍術じゃなくて忍法なんスかね?」
「ああ。呼び方が変わったな。より強力だからか?」
「でもあたしは忍術のほうがいいと思うっス!」
「なんでだよ?」
どうせくだらない理由だろうけど、一応聞いてみる。
「火忍術のほうがいい感じっス。リン姉もそう思わないっスか?」
急に振られたリンは首をかしげる。
「ひにんじゅつ……?」
トウコはにやにや笑いを浮かべる。
「ほら、響きがいい感じっス!」
響き……?
ああ、やっぱりくだらないことだったな!
「避妊する術じゃないわ!」
スケベでもないわ!
「ん? それでさっき、リンは火忍法に驚いてたのか?」
リンがあわてて手を振る。顔が赤い。
「あっ!? そうじゃなくて……火魔法みたいだなーって! ち、ちがうんですよ!?」
「わかってるって。リンが下ネタ言うとは思ってないよ」
トウコじゃあるまいし!
そのトウコがしたり顔で言う。
「火忍法と言えば火遁っスね!」
「遁術は隠れる術だから漫画みたいに火を噴くのは違うぞ」
トウコは頬をふくらませる。
「でもそういうもんっス!」
「まあ、言葉として正しいかなんて、どうでもいいけどな」
多く使われるようになった言葉は定着する。
別に火遁の術で攻撃したっていい。文句をつける気はないのだ。
そういえば俺のスキルに遁術は見当たらないな。
似たスキルに【隠密】があるが、これは忍術じゃない。別系統だ。
ま、遁術がなくても困っていない。
欲しいと思えば出てくるのかもしれないが……今はいいか。
リンが言う。
「あの……忍法と忍術って、なにが違うんでしょうか?」
「現実の忍者が使いそうなのが忍術で、漫画っぽいのが忍法じゃないか?」
実際にあるとされる忍術は地味である。
火をつけたり煙玉を使うのが火術。あるいは火遁。
水に潜ったり、池に石を投げ込んで潜って逃げたと思わせるのが水遁。
地味である。
手や口から火を噴いたり、水を自在に操ったりするのが忍法。
派手で漫画的である。
トウコが緩んだ顔で言う。
「忍法はなんでもありっス! エロい術はだいたい忍法っス!」
「そ、そうなんですねー?」
リンがちらっとこちらを見る。
「風評被害はよせ! 忍法はまっとうな術だぞ!」
取得可能なスキルを探してみたがエロい術などなかった!
いや、使わないけど!




