防音工事はこのために! 無駄なサプライズとは!?
トウコがドアを示す。
「じゃ、とりあず中に入ってほしいっス!」
さっきトウコが鍵を開けたドアである。
一階の空き部屋。
なんで鍵を持っていたんだ?
「ああ」
もう夜だ。とにかく、アパートの前で立ち話はマズい。
俺の世間体が危機にさらされているのだ!
中二病が集まるパーティーだと思われたかも……。
俺はいたって普通の忍者なので、心外である!
俺たちは部屋に入る。
トウコが電気をつけると、部屋に明かりが灯った。
ここは空き部屋だ。
俺の部屋と間取りは同じ。
だが何も置かれていないから、がらんとしている。
広く感じるな。
そういえば、この部屋はわざわざ年末に防音工事していたんだよな。
改装工事もされているので、部屋は真新しい。
入居者が決まったからと聞いたが……。
ん……?
「おいトウコ。この部屋まさか……」
「あーあ! せっかくサプライズしようと思ったのに台無しっス!」
トウコは残念そうな顔でうなる。
「え? トウコちゃん、ここに引っ越すつもりなの!?」
「そうっス! 平日は家に帰る約束なんで!」
俺はあきれる。
ちがう、そうじゃない!
「イヤお前……実家に帰るって意味だろ」
「家は家っス! 実家のほうは御庭社長にお願いしてあるっス」
「社長? ……ああ、いちおうは雇い主だよな」
御庭は公儀隠密のリーダーである。
忍び目線で言えば、頭目とか棟梁なんだろうか。
特異対策課という組織で考えるなら課長とか室長とか、そういうのか?
公儀隠密は特異対策課の一部だから違うのかな。
ま、肩書なんてどうでもいいか。
御庭は上司みたいなものだが、砕けた口調でしゃべれる。
初対面のスナバさんには敬語になっちゃう俺である。
でもシャドウさんに敬語は要らないな!
彼は当然のような顔をして部屋に上がり込んでいるが、静かにしている。
なにしに来たんだろうな、この人?
「それでトウコちゃん。なにをお願いしたの?」
「リン姉たちと一緒に暮らすことっス! 邪魔が入らないように家とか親とか学校をなんとかしてくれるように頼んだっス!」
なんとかする、とかいう曖昧で難しいことを頼んだのか!
御庭、便利すぎるだろ。
さすが、ザ・ネゴシエーター!
ダサいコードネームを名乗るだけのことはある!
「つまり、いろいろ手を回してもらったんだな?」
「そうっス! 面談したとき頼んでおいたっス!」
リンもあきれ顔だ。
「それで秘密にしてたの?」
俺たちがハカセと話している間、トウコは御庭と個別面談をしていた。
その間に頼んだのだ。
わざわざ俺たちに秘密にして。
この部屋も御庭が手配したのだろう。
防音工事もそうだ。
シモダさんの部屋も格安で工事するらしい。
御庭の手配だとわかっていたなら、俺の部屋も工事を頼んだのだが。
「サプライズのために秘密にしてたのか? ……まったく。ヘンなことに力入れてるな、トウコ」
別に隠さなくても反対しない……いや、したかな。
「へへー。これで店長たちと楽しく暮らせるっス!」
トウコはうれしそうに笑う。
まあ本人が幸せならヨシとしよう!
世間体や倫理観には大目に見てもらう!
「いまさら文句言ってもしょうがない。節度を守って暮らしてくれよ」
「やっぱシモダさん超コワいっスねー!」
世間体代表のシモダさんである。
正論には逆らえぬ!
シャドウさんもしみじみと頷いている。
「まったくである……」
っていうか、かなり長い間放置してしまったな。
キャラ濃いのに影薄くね?
「あ、そうだ。シャドウさん。今日はどうしてここに?」
トウコと意気投合して家まで来た、とかではないだろう。
実は付き合ってます、みたいな雰囲気はない。
シャドウさんは我が意を得たりと、大げさに頷く。
「よくぞ聞いてくれた! ザ・ネゴシエーターに頼まれていたのだ。盟友ガンスリンガーを助けよ、と!」
なんか頼まれてきたらしい。
盟友らしい。
つい聞いちゃったけど、スルーしたらよかったかな!
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