幼女ダンジョンはレアケースで!
シズカちゃんが身じろぎする。
目が覚めたみたいだ。
「おはよう、シズカちゃん。大丈夫?」
「……」
シズカちゃんは眠そうに目をこすっている。
スナバさんが言う。
「さて、暗い話はこれまでにしよう。情報をつかんだら協力を頼みたいが、かまわないか?」
さっきの話は今すぐにどうこうって話じゃないらしい。
俺は快諾する。
「いいですよ。なにかわかったら連絡してください」
「助かる」
俺たちは連絡先を交換する。
俺はスナバさんにたずねる。
「それはそうと、一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
シズカちゃんを刺激したくはない。
だけど聞いておくべきだ。
シズカちゃんはダンジョンを欲する連中のもとにいた。
とすれば、ダンジョンはどうなったんだ?
施設とやらに残されているのか?
俺はスナバさんだけに聞こえるように小声でたずねる。
「……シズカちゃんのダンジョンはどうなったんですか?」
リンが気を利かせてシズカちゃんを呼ぶ。
「シズカちゃん。こっちでお話ししようねー」
「……」
シズカちゃんはこくりとうなずくとリンのそばへ席を変えた。
スナバさんが言う。
「わからない。持ち去られていたからな」
俺は眉を上げてスナバさんを見る。
「持ち去られた?」
ふつう、ダンジョンは動かせない。
だが管理者権限があれば別だ。
暴食はダンジョンの入口を移動させた。
ダンジョンは動かせる。
今は俺も管理者権限があるからできるはずだ。
まあ、これは例外だ。
いったん除外して考える。
ダンジョンの位置は固定されている。
正確には転送門の位置が、だ。
持ち去れるものだろうか?
俺のダンジョンならクローゼットに固定されている。
草原ならトイレに。
冷蔵庫なら……動かせる。
「ああ、移動できる場所にダンジョンができてたのか……」
「そうだ。クロウさん。あの施設にはいくつも入れ物が用意されていた。タンスや棚のようなものだ。大きなものから小さなものまで色々とな。どれも動かせるものだった」
ダンジョンは密閉された場所に発生する。
箱のようなもので、扉のように開け閉めできなければならない。
「つまり、その施設ではダンジョンを持ち出す準備をしていたってことか……」
「売るためには動かせなければ困るだろう」
「シズカちゃんのダンジョンは持ち去られたんですよね? 持ち主はいらないんですか?」
「本来はセットで売り買いされるらしい。連中が慌てていたのと、シズカが隠れたから無事でいられたんだ」
ダンジョンの持ち主が死ねばダンジョンが悪性化するか、消える。
持ち主もセットじゃなきゃ売り物にならないかもしれないな。
シズカちゃんは能力を使って隠れたんだろう。
「慌てていたというのは?」
「俺が向かっていたからだ。俺たちはいくつか敵の拠点を割り出して襲撃した。他の場所はダミーだった。もっと早くついていれば……」
スナバさんの顔に後悔が浮かぶ。
あのとき、ああしていれば。
誰だって後悔する。
なにも知らない俺が言うのは差し出がましいかもしれない。
だが言う。
「スナバさんは間に合ったんですよ。だからシズカちゃんはこうして笑っている」
「……ああ」
シズカちゃんはリンと会話しながら、小さく笑っている。
リンが話しかけて、シズカちゃんはうなずいたり首を横に振ったりする。
それでも、コミュニケーションは成立しているようだ。
スナバさんは目を細めてその様子を見ていた。
没タイトルシリーズ
■持っていかれたのは……アレ?
 




