スナイパーでレンジャーでニンジャー!?
俺はスナバさんに向けて言う。
「シズカちゃんはサイレンサーで、スナバさんがスナイパー、というわけですね」
「あ、お二人がそうなんですか!」
御庭と面談したときトウコがカッコいいと喜んでいた二人組だ。
「まあ、そうだ。コードネームなどやめろと言っているんだが、御庭は聞いてくれない」
スナバさんはやれやれと首を振る。
わかるわー。
「俺なんてザ・ニンジャとか言われてる。ダサすぎるだろ……」
俺はまだ受け入れていない。
勝手に呼ばれるだけである。
リンはぐっと小さなガッツポーズを作る。
「私はいいと思いますよー? ザ・ニンジャ!」
「そうか? リンやトウコのはまだマシだと思うけど……」
「私はファイアスターターですねー。トウコちゃんはザ・ガンスリンガーで……かっこいいですねー!」
「アソさんは銃を使うのか。俺もそうだ。いずれ腕前を見せてもらいたいものだな」
「スナバさんはやっぱり、スナイパーなんですか?」
「狙撃専門ではないがな。俺はレンジャーだ」
リンは首をかしげる。
「れんじゃー? 変身するんですか?」
「リン、そうじゃない。変身戦隊モノのナントカレンジャーとは違うからな?」
リンは漫画や特撮に疎い。
頑張ったけどハズレである。
海外でレンジャーと言えば森林保護官とか公園保護官を指すことが多い。
日本だと変身ヒーロー部隊のイメージが強い。
あるいは救助隊。オレンジ服のレンジャーかな。
「あれ? そうなんですか?」
スナバさんの物腰からして、軍事関係の意味だと予想できる。
もちろんリンは軍事用語にも明るくない。
俺はスナバさんへたずねる。
「スナバさんは自衛隊の方なんですか?」
「もう退職しているがな」
元自衛官か。
「ええと、レンジャーってどういうものなんですかー?」
「簡単に言えば特殊部隊員だ。偵察や潜入、襲撃や爆破、生存技術などを得意とする」
自衛隊のレンジャーといえば、エリート兵士である。
かなり厳しい訓練をクリアしないと認められない。
隠密行動や情報収集なども行う。
「なんだか、忍者みたいですねー」
「たしかに現代の忍者って感じだな」
「俺が扱うのは主に小銃だ。街中で長距離射撃の機会は少ないから狙撃銃は使わない」
「今日はどちらも持っていませんね?」
「ああ。戦闘を想定した任務ではないからな」
「銃を持って歩くのはマズいですよね」
「そういうことだ」
銃刀法違反である。
ライフルは目立つ。
俺だって刀は帯びていない。
【忍具収納】の中にある。
スナバさんも隠し持っているかもしれないな。
スナバさんが言う。
「シズカの話に戻そう」
「はい」
スナバさんはまじめな顔で続ける。
「俺はある任務で、さらわれた子供を追っていた。施設を突き止めて潜入したが、もう連中は逃げた後だった。そこは――」
スナバさんは暗い表情で頭を抱える。
俺は続く言葉を待つ。
「――地獄だった。ろくな食事を与えられずに死んでいる者。血を抜かれている者、目を潰されている者……。皆、助からなかった。助かったのは……助かってくれたのはシズカだけだ」
リンは悲しげに首を振る。
「そんな……ひどい」
俺はスナバさんにたずねる。
「連中……それをやった奴らはどうなったんですか?」
「何人かは始末した。その前に吐かせた情報によれば、他の子供たちは俺が襲撃する前に移動したらしい。連中は商品と呼んでいた。成功例だとな。つまり生きている。だから俺は連中を追っている。任務とは関係なくな!」
……なんてことだ。
孤独な子供なんて生易しいものじゃない。
「その施設は子供にダンジョンを呼ばせるためのもので、それを売り物にしていたってことですか?」
「そうらしい。ダンジョンをどう売り買いするのかはわからんが……」
ダンジョンは個人に紐づいている。
他人のダンジョンを奪うことなんてできるのか?
「ダンジョンなんて、どうして欲しがるんでしょうか? ふつうの人は入れませんよね?」
持ち主が死ねば消える。
パージされた場合も消える。
ダンジョン保持者でなければ中には入れない。
たしかに普通の人にとっては意味がない。
だけど――
「ダンジョン保持者なら……! ダンジョンの中に入れるし、意味があるのかもしれない」
「どんな理由があるにせよ、あんな地獄は二度と繰り返させない。連中を探し出して償いをさせる!」
スナバさんは決意を込めたように言う。
他人の問題だ。
でもこれは個人の復讐とは違う。
スナバさんにとっても無関係。
任務だったはずだ。
彼がやらなきゃならない理由なんてない。
俺にもない。
ちょっと話を聞いただけの事件に過ぎないし、関わる必要はない。
だが、そう簡単には割り切れない。
ダンジョンに苦しめられる人を救いたいから、俺は公儀隠密に入った。
ましてや、ダンジョンのために子供を苦しめるなんて、許されない!
「……俺も協力しますよ」
自然と、そう答えていた。
 




