足を使った情報収集! 密室消失事件!?
スナバさんと俺は初対面だ。
だが、彼は俺たちを知っているという。
「任務で関わったって、ショッピングセンターのときですか?」
「いや。アソさんの件だ」
リンがポンと手を叩く。
「ああ! トウコちゃんの家で、はじめて御庭さんと会った日ですね!」
それは、冷蔵庫が悪性化寸前まで行ったとき。
俺たち、御庭たち、大河さんたちが三すくみ状態でにらみ合っていたときだ。
御庭たちはチームで動いていた。
御庭とナギさん以外は姿を見せなかったけど、他にも誰かいたのは間違いない。
……とすると。
当てはまるのは――
「つまり大河さんを狙撃した人ですね!?」
「そうだ。窓を撃ち抜いたのは俺だ。本人に会うことがあれば直接謝罪しようと思っていた」
スナバさんは無表情だ。
誇るでもなく、悪びれるでもない。
任務であり悪いことはしていない。
そういうことだろう。
それでも窓や家具を破壊したことを謝罪しようとしている。
律儀だな。
あの時点での大河さんたちは敵対勢力だった。
ナギさんと犬塚さんはバチバチに戦ってたし。
一方、俺たちは保護対象だった。
だから大河さんが俺のほうへ向かって踏み込んだとき、その足を狙撃したんだろう。
「俺を守ろうとしてくれたんですね?」
「そうだ。結果的には無用だったが」
たしかに、意味はなかった。
銃弾は効かなかったし、大河さんは敵じゃないし。
俺は微妙な表情で言う。
「なんて言えばいいのかわからないが、援護ありがとう?」
「いや。礼はいい」
スナバさんもやや微妙な表情だ。
彼に人間らしい表情が浮かんだのをみて、俺は少し気楽になった。
なんか緊張感あるんだよな、この人。
そういえば、何の用なんだ?
さっき鍵の件を手配してもらったけど、それにしちゃ早すぎる。
偶然、近くにいたとか?
俺は聞いてみる。
「もしかしてスナバさんたちが、鍵を開けてくれるんですか?」
「鍵? なんのことだ?」
あれ?
話が噛み合わないな。
もしかして関係ないのか?
ただ挨拶してくれただけ?
「違うんですか? 実は――」
俺は事情を説明する。
スナバさんはうなずく。
「そういうことなら同行しよう。ちょっとした鍵くらいなら開けられるからな」
そういうことになった。
結局、鍵開け要員は別の人を手配していていたようだ。
御庭にはスナバさんに変更することでオーケーをとった。
さっそく、俺たちは車で送ってもらい、スゲタリヒト氏のマンションに到着した。
「ここか……」
リヒト氏の部屋の前にやってきた。
俺はドアノブに手をかける。回らない。
「やっぱり、鍵がかかってるな。お願いできますか?」
「ああ。ちょっと待て」
スナバさんは手になにか持っている。
針金のようなものだ。
それを鍵穴に差し込んで数秒後――
「開いたぞ」
そう言いながらスナバさんはドアノブを回す。
鍵は開いている!
「すごいな。スナバさんってこういうの得意なんですか?」
スナバさんは誇るでもなく悪びれるでもない。
淡々と答える。
「少しな」
スナバさんがゆっくりドアを開ける。
その手が止まる。
「内側にドアガードがある――ちょっと待て」
チェーンタイプではなくて、U字タイプのドアガードのようだ。
これ以上ドアは開かない。
「これじゃあ、外からは開けられないか?」
「いや、問題ない」
スナバさんはどこからか細いヒモを取り出す。
それをドアガードに結び付け、一旦ドアを閉める。
なにをやっているのか、細部はよく見えない。
そして――
かしゃん、と小気味よい音を立ててドアガードが開く。
「これで入れるな」
スナバさんはゆっくりとドアを開け、室内を確認する。
慎重な動作だが、機敏で隙が無い。
当たり前のように部屋に侵入していく。
シズカちゃんもとてとてと、後に続く。
「おお……いとも簡単に!」
「すごいですねー」
あとでやり方を教えてもらおう!
感心する俺たちに、スナバさんが言う。
「この程度のドアや鍵は簡単に開けられる。あまり過信しないほうがいいぞ」
「簡単て! 普通は無理ですよ。リンの家に入るときは大変だったし……」
普通は鍵やチェーンロックは突破できない。
針金やヘアピンで鍵開けなんてムリだし!
ん?
スナバさんが怪訝な顔で俺を見ている。
「……彼女の家に忍び込もうとしたのか?」
「ああ、いやいや! へんな意味じゃなく!」
あ、不審者みたいになってる!?
誤解を招く言い方をしてしまったぜ!
リンがなぜか自慢げに言う。
「壁から助けに来てくれたんですよー! すごいですよね!」
「状況がよくわからんが……」
スナバさんは淡々と返す。
ちゃんと弁明できたんだろうか!?
俺たちは部屋を見回す。
「部屋は荒れてないな。リヒトさんは片づけのできる人だったようだ」
「いなくなっちゃったから少しホコリが積もっていますけど、ちゃんと掃除してたみたいですねー」
床には薄くホコリが積もっている。
歩くと足跡が残る。
ちなみに俺たちは土足で上がりこんでいる。
なにかあったときのためだ。
スナバさんが言う。
「先客はいないようだ。この部屋に入るのは俺たちが最初だろう」
室内は整然としている。
争った形跡はない。
ハカセの調査では、リヒト氏は自室にいるときにパージされたという。
つまり部屋の中で携帯電話の電波が途絶えたということだ。
ここは密室だった。
死体はないし、争った形跡もなかった。
そしてマンションの監視カメラ映像にも映っていない。
「やはり、ここの住人は切り離されたんだろうな」
「そうみたいですねー」
異能やスキルで転移した可能性はあるけど、考えたらきりがない。
デスクの上にはパソコンが置かれている。
一冊のノートが伏せられている。
俺はノートを手に取ってページをめくる。
「やはりリヒト氏はダンジョン持ちだったようだ!」
ノートに書かれていたのは――ダンジョンの地図だった。
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